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大原と早川5

* 「…………ご、……ナゴ」  さらさらと、髪を撫でられる感覚。そして、自分の愛称を呼ぶ声で目を覚ます。 「おはよ、ナゴ」  目を開くと、早川が居た。ソファに寝転がる自分に視線を合わせるように、床に座ってこちらを見ていた。 「あ……駿太、おかえり」 「うん、ただいま」  にっこり笑って早川が答えてくれた。それが嬉しくて、胸が温かくなる。  たった2日離れていただけなのに。以前はもっと何日も、何ヶ月も離れていることが多々あったのに。目の前の早川という存在が愛おしくてたまらない。  自然と早川の方に手が伸びる。するりと頬を撫でて、そのままそっと髪の下に手を入れ、引き寄せて頬にキスをする。早川は少し驚いた様子だった。 「ナゴ、どうしたの?寂しかった?」 「……寂しかった、というか退屈で死にそうだった」 「えー、そういう時の為にゲームとか置いてったじゃん。やればよかったのに」 「うーん……、駿太と一緒じゃないと、面白くない」 「あはは、本当に俺のこと好きだよね」 「ああ、好きだよ?」 「ちょっ……もう、ナゴのそういうトコ…!」  照れてしまったのか、赤くした顔でフイとそっぽを向いてしまう。可愛い。ころころ変わる表情と、明るく抑揚のある声が愛おしくてたまらない。   「駿太」 「……んー?」 「ごめん、こっち向いて」 「なんだよ……っ、ん」  拗ねていても呼んだら素直に応じてくれる。早川のそういうところが、愛おしくて堪らない。今度は頬ではなく、唇にキスを落とす。ちゅ、と音を立てて唇を啄むと、早川から鼻にかかった小さな声が漏れた。  本当はずっとこうやってキスをしたり、いちゃいちゃしていたいのだが、そういうわけにもいかない。今日の夕食はすき焼きにする約束をしていたのだ。これから買い物に行って準備をして……やる事は多い。  いい加減起きあがろうと、身体を起こした。すると。 「……なご」  熱を帯びた早川の声に、呼び止められた。  少し頬を赤くして、困ったように眉を寄せてじっとこちらを見つめている。  これは、早川が甘えたい時のサインだ。全てを察した大原は、ソファに深く座って、とんとんと自身の膝を叩いた。 「おいで」  そう言うと早川は、大原の膝を跨いで向かい合うような形で座った。自然と身体が密着する。自分の上に乗っているせいで高い位置にある早川の顔を見上げると、今度は早川からキスが降ってきた。  何度も、何度も啄むようなキスをして。不意に、肩に置かれた早川の手に力が入る。唇の隙間からぬるりと彼の舌が侵入してきたのを合図に、キスはより一層深いものへと変わっていく。

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