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大原と早川7
「駿太、辛いだろ?出していいよ」
「うぅ、やだぁ……なごと、一緒に、イきた、い……!」
「……っ!」
ずくり、と腰に溜まった欲が熱くなった気がした。我慢して、辛くて泣きそうになっているのに。それでも自分と一緒がいいと、一緒に気持ち良くなりたいと訴える恋人が愛おしくて仕方がない。そんな可愛いお願い、叶えてやれない男がこの世に存在するだろうか。いや、そんな男は存在しない。
大原は早川に比べたら遅い方ではあるが、今の早川の台詞で一気に限界が近付いた。本当に情けないとは思うが、これなら早川に辛い思いをさせないですむ。
「なごぉ……イ、きたい…ん、ああぁっ……!」
「俺も……うっ」
どくん、と熱が弾けて二人は同時に互いの上着に精を吐き出した。
荒い息を整えながら、くたりと早川が大原に身体を預けてきた。汚れていない方の手で背中を撫でてやると、ぐりぐりと肩口に額を押し付けてきた。可愛い。
「っ、はぁ……あ、そうだ、ナゴ」
思い出した、と早川が顔を上げた。まだ顔は少し赤かったが、息は整ったようだった。
「月末の土日、どっちか休み取れない?」
「んー…優介に言えば大抵大丈夫だろうけど、何かあるのか?」
早川からこのようなお願いはとても珍しい。
飲食店で働く大原が、世間一般の休日を休みとするのは難しいと理解してくれている。だから、2人で休みを合わせる時は平日にしていた。土日を休みにしてくれ、なんて初めて言われたかもしれない。
「実家から出る時、同棲するって言って家を出たって話したじゃん?」
「うん」
それは以前から聞いていた。早川は付き合っている人が居て、同棲することをしっかりと両親に伝えて許可を得てから実家を出た。男と付き合っている、とまでは言っていないと聞いているが。
「でね、どこの誰と付き合ってるとか一切話してなかったんだけどさ」
「うん」
「いいや、と思って言っちゃったんだよね」
「うん…………えっ?」
さらっと何も気にしてない風で早川が言うので、大原も危うく話を流しそうになったが、彼は今とんでもないことを言っていなかっただろうか。
「待って……どういうことだ?」
「えー、ちゃんと聞いてなかったの?」
「いや、聞いてた。聞いてたけど……誰に、何を言ったって?」
大原の認識違いでなければ、早川はとんでもなく勇気のいる暴露をした。しかし、その割には緊張感も無くけろっとしているので、もしかしたら勘違いかもしれない。勘違いであってくれ。
「だからー、俺の親にナゴと付き合って同棲してることを言ったんだってば!」
勘違いではなかったようだ。
早川は長年秘密にしてきた大原との関係を、いつの間にか親に暴露してしまったらしい。
それを、どうして今言うのか。混乱している大原を他所に、早川は話を続けた。
「そしたらさ、親が今度ナゴと一緒に実家に来いって言うからさ。月末に休み合わせて行けないかなーって思って……って、ナゴ!聞いてる?」
聞いている。聞いているが、パニックだ。
早川の親に、恋人として、会いに行く?実家に?どういうことだ。どうしてそんな話になってしまったんだ。
息子が男の恋人を連れてきたら、彼の両親は卒倒してしまうかもしれない。ーー行かない方がいいのか?しかし、招待されている?
ぐるぐるとまとまらない思考が、頭の中を駆け巡る。放心状態の大原を心配そうに早川が覗き込んできた。
「……もしかして、嫌だった?」
「いや、そんなんじゃない!嫌じゃない!」
少し悲しそうな顔をさせてしまったことに胸が痛む。もちろん、彼の実家に行くのは嫌ではない。むしろ、喜ばしいことだ。ただ、少し話が急だったので混乱しているだけだ。
「えっと、とりあえず……スーツ着て行けばいいのか?」
「え?なんでスーツ?」
だって、そんなの。結婚の挨拶みたいじゃないか。
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