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永太郎と早川家1

 きっかけは、些細な事だった。  早川が年末に帰省した時、彼の両親に自身の恋人の話をしたそうだ。それはもう、包み隠さず。  いつから付き合っているか、仕事は何をしている人なのか、どんなところが好きなのか。  そんなことはいくら話してくれても構わない。が、しかし。恋人が男性である、ということまで暴露されてしまったことには驚いた。心臓が飛び出るかと思った。それを連れてこいと言う彼の両親の言葉に、更に驚いた。  自分は身内がいないからどうでも良いのだが、早川は違う。彼にはちゃんとした家族が居るのだ。  早川が一人っ子で、彼の両親に大事に大事に、愛情たっぷり注がれて育てられていたことは大原も知っている。そんな大事な一人息子が、恋人だと言って大男を連れてきたら彼の両親は卒倒してしまうのではないか。いや、するに違いない。  もしかしたら自分が原因で、家族仲に亀裂が走ってしまうかもしれない。だったら、会いに行かない方がいいのではないか。  悩んで悩んで彼に話したところ、 「え?何言ってんの、そんなわけないじゃん」  と軽く流されてしまった。どうやら、彼はそんなに大事だとは思っていないらしい。  同僚で兄のような存在でもある優介にもこの話をした。いつものように惚気だのなんだの言って揶揄われるかと思ったら、そうではない反応が返って来た。 「良かったじゃん」  いつも飄々としていて、本気なのか冗談なのかわからないことを言う彼が、真面目な顔をしてそう言った。揶揄いの意味など全く込められていないことが、長い付き合いである大原には分かる。 「相手の実家に遊びに行くなんて、夢みたいだな」  根っからの同性愛者である彼は、それがずっと憧れだったと言った。  元々同性愛者ではない大原は、恋人の実家へ遊びに行くことが難しいことだなんて考えた事もなかったが、それがいかに特別で幸せな事だということに改めて気付かされた。これは幸せな悩みだ。  根っからの同性愛者ではないが、自分たちも同性カップルだ。本当だったら、こんな機会は無かったのかもしれない。早川の両親が自分に会う事を望んでくれたから、こういう機会が出来たのだ。自分は、なんて恵まれているのだろうか。

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