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永太郎と早川家3
「いつもうちの駿太がお世話になって…迷惑してないかな?」
「え、迷惑なんてしてないよ?ね、ナゴ」
「えー!だって駿ちゃん、料理も掃除もやったことないでしょ?ナゴくんに全部やらせてるんじゃ…」
「いや出来るし!ナゴの方がうまいけど、ちゃんとやってるよ!」
まるで早川が3人いるかのような会話のペース。これが何年も一緒に過ごしてきた家族か、と大原は納得した。父親と声がそっくりだし、母親とは話し方やテンポがそっくりだ。
「じゃあ夕飯の支度、手伝いなさいよ!」
「ええー…」
「あ、俺も手伝います」
「いいの、ナゴくんはお客さんだから、ゆっくりしてて!ほら駿ちゃん、こっち来て」
「…はーい」
しぶしぶ、といった様子で早川は彼の母親に連れられて行ってしまった。
今に早川の父親と2人残されてしまう。やや気不味い。この家族の会話を聞いていて思ったが、ほとんど早川と彼の母親が話している。彼の父親は話を聞く側になることが多い。寡黙、と言う訳ではないが静かな人なのだろう。
困ったことに大原も話がそれほど得意ではない。こういう時、岸田兄弟たちのように、ペラペラと色々な話題を提供出来たらよかったのだが。
黙っているのも変だしどうしようか、と考えても、今日の天気は、なんてどう考えても社交辞令なものしか思い付かない。あまりに酷すぎる。
「あの、大原くん」
「っ、はい」
どうやって話題を振ろうかと考えていたところ、向こうから名前を呼ばれた。驚いたが、いい加減沈黙が気不味いので助かった。
「アルバムでも見るかい?」
「アルバム……見たいです」
そう答えると、他の部屋から数冊、大きくて立派なアルバムを持ってきてくれた。大原の思っていた以上に立派なもので、少し驚いた。
赤ん坊の頃の写真から、大学の卒業式の写真まで。早川の成長をわかる写真がたくさん、丁寧にこのアルバムの中に収められている。本当に早川は大切にされているのだと、改めて実感した。
ふと、自分にもこんなアルバムがあるのだろうか、と思った。こんな特別な出立ちだから、普通の人よりは残っている写真は少ないだろう。そもそも、自分のアルバムなんて見た事がないので、存在してないのかもしれない。
「ね、これなんて可愛いだろ?」
「はい、とっても」
「この頃なんて今よりも泣き虫で甘えたで、本当に可愛かったよ」
親バカなんて思われてしまうね、と早川の父親は笑った。大原から見てもお世辞抜きで可愛いのだ。親ならそう思うに違いない。
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