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永太郎と早川家5

「駿太は、私たちがしっかりと育てたから、ちゃんと幸せになる方法も知ってるはずなんだけど、そこには君が居なくちゃ駄目みたい」  穏やかで優しくて、自分の中にある父親像とは違った人だが、この人も早川駿太という人物を育てあげた立派な父親なのだ。こんなに穏やかに話すのに、彼の言葉ひとつひとつには、しっかりとした芯がある。 「だから、駿太のこと、よろしく頼むね」 「……はい!」 「うん、いい返事」  安心したよ、と言って彼はにっこりと笑う。母親ほどではないが、笑った顔が駿太に似ていた。 「父さーん、ナゴー。ご飯の準備できたからそっち運ぶの……って、え?!うわあああ父さん何見せてるの?!」 「んー?駿太の可愛い頃をナゴくんに見てもらおうと思って」 「やだよ、恥ずかしい!!」  そう言って早川はさっさとアルバムを片付けてしまった。もう少し見ていたかったな、と少し残念な気持ちになったが、早川が嫌なら仕方がない。 「ほら、もう準備できたからこっち来て!」  早川が指差すダイニングテーブルには、いつの間にか料理が並べられていた。 「ナゴくん、お酒は飲める?」 「……えっと、すみません。俺、飲まないんです」 「えー、ちょっとも飲まないの?」 「父さん、ナゴは酒嫌いだから駄目だよ!」 「そっか。なら仕方がないね」 「あら、そうだったの?ごめんね、お茶くらいしかないけど、大丈夫?」 「はい、大丈夫です。ありがとうございます」  大きなダイニングテーブル。隣に早川が座っていて、向かい側に彼の両親が座っている。  こんな日が来るなんて思ってもみなかった。彼の両親に関係を暴露して、一緒に食事をするなんて。  自分たちはこっそり付き合って、こっそりと生きていくのだと思っていた。受け入れてもらえて、温かく迎え入れてもらえて、なんて幸せなのだろうか。  家族になろう、なんてそんな温かい言葉を貰えるなんて、これ以上の幸せはあるのだろうか。 「ようこそ、早川家へ」 「何も無いけど、ゆっくりしていってね」

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