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2-11-1 カップルデート(1)
ここは、ショッピングモールのいつもの待ち合わせ場所。
僕は、すこし早く来て雅樹が来るのを待っていた。
あっ、雅樹がきた。
僕は横眼で、雅樹を追いかける。
雅樹は、キョロキョロしている。
僕を探しているんだ。
僕の姿は視界には入っているはず。
でも、気付かない。
ふふふ。
これは、愉快。
でも、しょうがないか。
今日は、女の子の姿なのだから。
今日の格好は、アキさんオススメの制服風アレンジ。
ミニ丈のプリーツスカートとカーディガンのコーデ。
メイクもばっちり。
アキさんのお墨付きなんだ。
はぁ、でも、ちょっと残念。
雅樹だったら、僕がどんな格好していてもわかるって思っていたのに。
なんてね。
ふふふ。なんだ、雅樹はだらしないなぁ。
僕が、クスクスと、ほくそ笑んでいると、誰かが肩をたたいた。
「すみません。これ、あなたのですか?」
雅樹……。
手には、僕のハンカチを持っている。
しまった……。
いつものバックじゃないから、うっかりしまいそこねていたんだ。
僕は、ハンカチを受けとりながら、うつむき加減で答えた。
「はい、そうです。ありがとうございます……」
雅樹は、あれっ、と僕の顔をじっと見つめる。
まずい……。
しばらく待った方がよさそうだ。
そっと、顔を上げると、ちょうど、雅樹と目が合ってしまった。
「あれ? めぐむ?」
「わかっちゃった?」
僕は、照れたように笑った。
僕は、雅樹にすべて話した。
女装に至るいきさつ。それに、アキさんのこと。
雅樹は、僕の話の一部始終を興奮しながら聞いていた。
「と、いうことなんだ。驚いた?」
「驚いた!」
雅樹は、突然、僕の両手を握り締めた。
「めぐむ! すごい事考えたな。これでどこでも手を繋げるな!」
クスッ。
本当に雅樹は僕と、同じ事を考えているんだ。
よかった。
本当に、よかった。
僕は微笑みながら言った。
「うん、これからは、ずっと手を繋いでいようね!」
僕達は、ショッピングモールの中を歩きだした。
堂々と恋人結び。
でも、すれ違う人は、誰も、気に留めもしない。
「雅樹、すごいよ! 今、僕、楽しくてしかたない!」
「ああ、めぐむ。俺も興奮している」
僕は、事ある毎に、用もなくギュギュっと手を握ってちょっかいを出した。
「めぐむ、はしゃいでいるな。ははは」
「そりゃ、そうだよ! だって、誰に気兼ねすることなく雅樹にくっつけるんだもん! 最高!」
「そうだよな。これがカップルだよな。普通かもしれないけど、俺達には特別なことだもんな」
「うん!」
ああ、そう言えば、付き合って間もないころ。
手を繋ぐのに必死になったことあった。
あの時は、こんな日が来るなんて想像もできなかった。
よし!
僕は、さっそく雅樹におねだりをする。
「ねぇ、腕組んでもいいよね?」
「ああ、いいぜ」
僕は、雅樹の腕をとり体をピッタリと寄せた。
雅樹の体のぬくもりが伝わってくる。
ああ、一緒にいるって実感。
「でも、めぐむ。ちょっと、くっつき過ぎじゃないか?」
「ごめん。ちょっと、調子にのったかも。嫌だった?」
「いや、嫌というか、ほら、俺の股間みてみて」
「へっ?」
僕は、雅樹のズボンの前を見た。
気持ちがいいほど、もっこりと膨らんでいる。
「ぶっ! どうして、勃起しているの!」
「しょうがないだろ? 人前でこんなにくっついていられるの初めての体験なんだから。興奮だってするさ」
「たしかに……」
いつもならもっと文句を言いたいところだけど、今日に限っては雅樹が正しい。
そうだよね。
興奮するよね。人前でこんなに体をくっついているんだもん。
雅樹は、言った。
「ていうかさ……」
「うん。なに?」
「めぐむだって、スカートの前、ちょっと、膨らんでいるけど?」
「へっ?」
慌ててスカートの前を確認する。
ああ、しまった!
僕も無意識に勃起しちゃっていたんだ。
「キャ! もう! 恥ずかしいな!」
僕は慌ててバックで前を隠した。
雅樹がニヤニヤしながら僕を見ている。
「あはは。めぐむ、気を付けないとな。いまは女の子なんだから、さすがに勃起しちゃまずいだろ!」
雅樹は僕の頭をポンポンなでる。
猛烈に恥ずかしい。
顔から火が出そう……。
「うっ、うん。そうだっだ。気を付けます……わ」
「わ? ぷっ、ははは。何、その女言葉。テンパり過ぎ!」
「もう! あまり僕をいじめないでよ! 意地悪! ……ぷっ。でも、可笑しいよね。二人で勃起しちゃうとか」
「ああ、可笑しいな……くくく」
僕達は、顔を見合わせて、再び大笑いした。
今日は、カップルデート。
いつもとは違う。
僕は、雅樹にある提案をした。
「ねぇ、雅樹! カップルでしか行けない所いかない?」
「おお、いいね!」
「じゃあ、ついてきて!」
僕は、雅樹の手を引いて歩き出した。
「って、どうして、ここかなぁ……」
雅樹は、テーブルに頬杖をつきながらぼやいた。
ここは、パンケーキのお店。
メルヘンチックなお店で、男同士じゃちょっと入れないお店なのだ。
「僕は、どうしても、ここのパンケーキが食べたかったんだ! ここのパンケーキは、生クリームたっぷりで、ふわふわもちもちのパン生地なんだ」
「へぇ……でも、それにしたってさ……」
雅樹は、縮こまりながら周りを見回す。
店内は、女性客で埋め尽くされている。
「俺は、居心地悪いったらありゃしない……ちぇっ。めぐむはいいよな。自分だけ溶け込んじゃってさ」
「まぁ、まぁ。それより、早く食べようよ!」
僕は、さっそく、ナイフとフォークを手にしてパンケーキを切り出す。
雅樹は、ふと、つぶやいた。
「ところで、めぐむ。この生クリームとシロップが混ざった感じってさ……」
「ん?」
僕は、パンケーキを口に入れる手を止めて雅樹を見る。
「アレっぽくない?」
アレ? 何の事?
雅樹はニヤニヤしている。
はっ。
精子!?
「ぶっ! どうして、そういうこと言うのよ!」
雅樹は、意地悪そうに笑った。
「ははは。いや、めぐむ、そういうの好きじゃん!」
「好きじゃないよ! いまから口に入れるっていうのに! でも、僕はそんな意地悪には負けないんだ! あーん」
ああ、美味しい!
このもちもちの食感、たまんない!
ほっぺが幸せ……。
モグモグ。
ああ、でも……。
たしかに、ドロッとした食感は似ているかも。あれに。
口いっぱいに広がる愛のミルク。
はぁ、はぁ。
やばい……なんだか興奮してきた。
雅樹が、口に手を添えて内緒話をしてきた。
「ちょっと、めぐむ!」
「えっ? なに?」
「スカートの前!」
「えっ?」
下をみると、また、こんもりと膨らみができている。
僕は、慌てて手で抑える。
「もう! 雅樹が変なことをいうからだ!」
「ははは。めぐみ ちゃん! ちょっとはしたないわよ!」
「ひどい!」
僕は、恥ずかしさで泣きそうになりながら、雅樹を思いっきり睨んだ。
次は、雅樹の番。
「で、雅樹が来たかったところって、ここ?」
次に、来た所は、プリクラ。
「だってよ。プリクラって、女の子の聖域っぽくない?」
「確かに……ここも、男同士じゃこれないよね」
プリ機の中に入り、さっそくお金を投入。
初めてで緊張したけど、意外と簡単。
音声の指示通りにすればいいんだ。これは親切。
プリクラの撮影が始まった。
雅樹は、得意になってポーズを決める。
僕も負けてない。
変顔の撮影で、お腹が痛くなるほど笑ったところで後半戦。
「はぁ、はぁ、面白いな。プリクラ」
「うん。楽しいね! ねぇ、次はハグだって!」
「よし!」
雅樹は、張り切って僕に抱き着く。
密着して嬉しいけど、うぅ、これじゃ格闘技の技だよ。
「はぁ、はぁ。雅樹、ぎゅっとし過ぎ! 苦しい!」
「ははは」
いよいよ、残り1ショット。
「ねぇ、雅樹。次は、キスだって」
「いいぜ! 熱いキスしてやっからな!」
よし。
僕は、ずっと狙っていた作戦に移る。
そうなのだ。
ここは、記念に残るキスプリにすべく、雅樹の無理矢理ぶっちゅうではなく、ソフトなチュッを狙っていく。
それには、僕が主導権を握る必要がある。
僕はさりげなく、後ろを向いた。
「どうした、めぐむ? 撮影始まるぞ」
「でも、雅樹。その前にこれ見て!」
「ん?」
僕は、スカート思いっきり捲り上げ、ショーツ一枚のお尻を突き出してフリフリさせた。
そして、振る向き様に、唇を尖らせてセクシーウインク。
「ま、さ、き、チュ!」
「ぶっ!」
雅樹は、瞬間的に両手で股間を押さえ前かがみになった。
「あっ、やべっ。勃起した……」
よし!
僕は、チャンスと見るや、雅樹の首に手を回し、やさしく唇合わせた。
パシャ!
やった! これはなかなかいいキスプリっぽいぞ!?
雅樹は、不満げな表情。
僕は、雅樹を肘で小突きながら言った。
「ふふふ。雅樹ったら、すぐ発情して! エッチなんだから!」
「めぐむ! お前な!」
雅樹は、頬を膨らませた。
ふふふ。
パンケーキ屋の仕返しもできたし、満足、満足!
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