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2-15-1 打ち上げ合コン(1)

毎年恒例のスポーツ大会は、つつがなく終了した。 僕達のクラス順位は、学年2位。 まぁまぁの結果。 そして、今は、打ち上げに来ている。 カラオケのパーティルームを貸し切り、お菓子とジュースを持ち込んでのささやかな会。 クラスの半分くらいは参加しているだろうか。 僕は気が進まなかったけど、ジュンが、 「ねぇ、めぐむ。今日は、高坂君と話ができるチャンスだと思うんだ!」 と言って、僕の腕をギュウギュウと引っ張るので、 「わかった! いくよ! いく!」 と、僕は根気負けしてしまったのだ。 そんなこんなで打ち上げの場では、ジュンと隣同士の席で座った。 大騒ぎをするもの、カラオケに興じるもの、内輪でもりあがるもの。 いろいろな楽しみ方がある。 でも、僕は、こういう華やかな場は、正直苦手。 雅樹を見ると、森田君と一緒に何やら熱心に話をしている。 いつも教室で見かける光景。 ただ、いつもと違うのは、クラスの女子達が一斉に二人に群がっていることだ。 「ねぇ、めぐむ、どう思う?」 ジュンがその様子を遠目で眺めながら言った。 「どうって? 例の見守り隊?」 「しーっ! 声が大きい!」 「ごめん……」 僕は、謝りながらもパッと思いついたことを口にした。 「こういう場面では、禁止じゃないのかもね」 無礼講ってやつ。 僕の推測はきっと正解だ。 見守り隊のルールで、打ち上げやイベントでは例外を認めているのだろう。 ジュンは、頷いた。 「やっぱり、そう思う? あーあ。女子達が邪魔だなぁ」 「そうだね」 森田君と雅樹は、女子達の質問攻めにあっているようだ。 まぁ、今日のクラス成績の功労者であることには違いないんだ。 ヒーローインタビューだと思えばおかしなことはない。 でも、なんだろう? このモヤモヤした気持ち。 なにさ! 雅樹は、にやにやしちゃってさ! あー。なんか、イライラする。 「……ねぇ、めぐむ!」 「え?」 「そんなに怖い顔しなくたっていいじゃん。チャンスはあるよ。話せるチャンス!」 「うっ、うん」 まずい。 顔に出ていた? 僕は、自分の頬をパチリと叩いた。 そこへ、僕達のテーブルの席に、二人の女子が座った。 眼鏡でおさげの子と、前髪ぱっつんの子。 「ここいい?」 「いいよ」 ジュンが答えた。 ああ、名前、何だったかな……。 同じクラスの子なのに、顔はわかっても名前が出てこない。 名前を思い出そうとしていると、おさげの子が言った。 「ねぇ、ちょっと聞いていい?」 「ん。何?」 僕は答えた。 「あなた達って、その……」 おさげの子は、ちょっと口ごもった。 ぱっつんの子が背中を押す。 「言っちゃいなよ!」 「ちょっと、待ってよ!」 おさげの子は、ふぅと、深呼吸をした。 「その、相沢君と青山君って、いつも一緒にいるし、仲いいよね? もしかして……」 「うん」 「付き合っているの?」 「えっ?」 僕とジュンは、同時に答える。 「言っちゃった!」 女子二人はなぜか嬉しそう。 どうしてそんな事……聞くのだろう。 「そんなこと、あるわけないでしょ?」と、言おうとしたとき、ジュンが先に答えた。 「わかる? そう、ボクとめぐむはラブラブなんだ!」 ジュンは、わざとらしく僕の腕に体をする寄せる。 「キャー!」 女子二人は手を取り合って、驚きのような、歓喜のような悲鳴を上げる。 僕は、慌てて弁解する。 「じょ、冗談だからね! そんな事あるわけ無いから! ちょっと、ジュン! 勘違いされちゃうじゃん! 離れてよ!」 ジュンは、悪乗りが過ぎる。 でも、ジュンは僕を見てウインクをして、 (分かっているよ、任せておいて!) っと、そんな合図を送ってくる。 「めぐむ、ボクを嫌いになったの? あんなに激しく愛してくれたのに!」 「はぁ、はぁ、ちょっと、聞いていい? あなた達って、もしかして、その、深い間柄なの?」 ぱっつんの子が言う。 この場合の間柄ってなんの事だろう。 目の前の二人は、なんだか、ちょっと息が荒い。 「ちょっと、やめなさいよ! それ以上は、いくらなんでも……」 おさげの子が、ぱっつんの子の肩を押さえる。 ジュンはお構えなしで答えた。 「もちろん! めぐむは優しくしてくれるから、ボクは幸せなんだ!」 「相沢君は受けなのね……ああ、だめ、鼻血出そう」 ぱっつんの子は、突然上の方を向いた。 僕はジュンの顔を見る。 ジュンは、僕の顔を見返して、どう? と言わんばかりの表情。 そして、突然笑い出した。 「あはは、冗談、冗談! ねー、めぐむ!」 「ねー! じゃないよ、ジュン! そういうのが誤解されちゃうんだよ!」 「ごめん。許して……キスしていいから……」 ジュンは僕に向かって、んーっと唇を突き出す。 「ぶっ」 僕は思わず吹く。 ぱっつんの子が息絶え絶えに言った。 「ちょっと、本当やばい! 想像以上! ご馳走様。二人ともお幸せに、はぁはぁ」 そう言い残して席を立つ。 追うように、おさげの子も席を立った。 「ちょっと、大丈夫? ごめんなさいね、二人とも。立ち入った事を聞いてしまって。お邪魔しました」 僕とジュンは、女子達が行った後、大笑いした。 「めぐむ。気持ちはわかるけど、彼女達はそんなに悪気はないと思うよ」 「うん。そうかもね。それにしても、ジュンはすごいや」 からかったり、冷やかしたりしてくる人を、うまくかわしちゃう。 きっと、ジュンは自覚はないのかもしれないけど、そういうジュンのすごいところを僕は尊敬しちゃうんだ。 僕が、そんなことを考えていると、ジュンが僕の腕をつついた。 「ねぇ、めぐむ。高坂君のテーブル、席空いているよ」 「うっ、うん」 雅樹のテーブルを見ると、女子達がいなくなっている。 どうしたんだろう? まだ他に、見守り隊の隠れたルールがあるのだろうか? ジュンは提案した。 「ね、行ってみない?」 「えっと……」 そんなことを言ったって、心の準備が。 僕が口ごもっていると、ジュンは僕の腕を掴み引っ張った。 「いくの! さぁ、いくよ、めぐむ!」 ジュンに引っ張られて僕は、雅樹と森田君のテーブルまで来た。 ジュンは、言った。 「あの、ちょっと、ここいい?」 話に夢中になっていた二人は、一斉にこちらを向く。 一瞬、雅樹と目が合う。 森田君は、言った。 「おー、いいぞ! 座れ、座れ!」 「じゃあ、お邪魔します!」 ジュンはそう言うと、席に座った。 僕も後に続いた。 「どうも……」 ジュンは、話を切り出した。 「ねぇ、高坂君、それに森田君、その、ボクたちの事知っている?」 「もちろん、相沢に……青山だろ」 雅樹は答える。 「やった! ボクたちの事、知っているって、めぐむ」 ジュンの歓喜の声。 森田君が心外そうに言った。 「そりゃ、そうだろ! クラスメイトじゃん、相沢。それに、青山も」 ジュンは、言った。 「でも、あまり話したことがないから、ちょっと自己紹介させて」 一同、無言でうなづく。 「ボクは、オカルト研究会に所属しているんだ。それと、趣味は学校の不思議探し!」 「ほう? 相沢は、あのオカルト研究会か」っと雅樹。 「あの、ってなんだ? 雅樹」 森田君が雅樹に問いかける。 「確か、オカルト研究会って、うちの高校では歴史があって、なんでも代々校長が顧問だっていう噂」 「まじかよ!」 雅樹の説明に、森田君は驚きの声を上げる。 ジュンは、ニコニコしながら話し始めた。 「ふふふ。歴史があるのは本当だけど、校長が顧問っていうのは嘘だよ。でも、オカルト研究会のOBで、国の極秘研究員の人がいて、その人から実験の協力依頼とかあるんだ」 初耳。 僕は声を出す。 「すっ、すごい! そんなことあるんだ」 「そうなんだ。めぐむにも言ってなかったかな?」っと、とぼけ顔のジュン。 森田君は腕組みをしながらジュンに問いかけた。 「とりあえず、相沢がすごいのはわかった。ところで、不思議探しっていうぐらいだから、もう何か探せたのか? うちの学校の秘密」 「それが、まだなんだ。だから、何か不思議なことがあったら僕に言ってよ!」 ジュンの言葉に、森田君と雅樹は受け合う。 「おっ、おう!」 「わかった」 場の空気が少し和んだ。 ジュンは、僕を指さして言った。 「じゃあ、次、めぐむね」 「えっ? ぼっ、僕?」 僕は、自分を指さして言った。 何を話すか、全く思い浮かんでいない。 けど、直ぐになにか話さないといけない空気。 とりあえず、話さなきゃ。 僕は、ジュンと同じように自己紹介を始めた。 「えっと、僕は、図書委員をしているんだ。趣味はね……」 雅樹を見ると、口を動かして何かを僕に伝えようとしている。 えっと? じょ、そ、う? 女装!? 僕は、雅樹をキッと睨む。 そして、テーブルの下で足を延ばして、雅樹の靴をぎゅっと踏んだ。 「いて!」 突然の雅樹の悲鳴。 「ん? どうした雅樹」 すぐに反応する森田君。 雅樹は、僕の顔を見るけど、僕は知らん顔をした。 「いや、なんでもない……」 くくく。 僕は笑いをこらえて言う。 「えっと、趣味は、お菓子作りかな?」 「えっ? お菓子作り?」 ジュンが真っ先に言う。 「あれ? ジュンにも言っていなかったっかな? クッキーとかチョコとか簡単なものだけだけど」 ジュンは、そうなんだ、と感心して言う。 森田君は、言った。 「へぇ、お菓子作りか。なんか、青山っぽいな」 「えっ? 僕っぽい?」 はぁ。 どうせ、『女の子みたいだから』って言われるんだ。 まぁ、慣れているからいいけど……。 しかし、森田君の返答は予想を覆した。 「ああ。手先が器用そうだし、繊細っぽいしな。お菓子作りとかは、よく分からないけどセンスとかいるんだろ? 青山は、センスありそうだしな。なぁ、雅樹」 森田君は、訳知り顔で雅樹に言った。 「おっ、おう。そうだな」 雅樹は、突然の振りに焦って同意する。 僕は、かぁーっと顔が熱くなった。 「そっ、そんな、センスがあるだなんて。初めて言われたよ……」 僕は、両手を自分の頬に当てて言った。 「めぐむ、良かったじゃん! クラスで人気のイケメン二人にほめられて!」 ジュンは、耳元でそう囁いて僕をからかう。 僕は、むくれながらジュンに言い返した。 「そんなんじゃないよ! もう、ジュンは!」 それにしても、僕は、嬉しくてしょうがない。 森田君も雅樹と同じ。 僕の見た目をからかったりしない。 それが、一番嬉しい。 森田君って、僕が思っていたより、純粋な人なんだ。 僕は、森田君に、ありがとう、って微笑み返した。

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