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2-15-2 打ち上げ合コン(2)
森田君が話し出した。
「じゃあ、次は、俺な。俺は、バスケ部。それは知っているよな?」
うん、うん。と僕とジュンはうなづく。
ジュンは言った。
「それはわかるよ。だって、今年のスポーツ大会のエースだったんだから」
「ふふふ。だよな。で、趣味はな……」
森田君は、僕の方をちらっとみる。
そして、声を潜めて言った。
「歴史小説を読むことなんだ」
「えっ?」
ジュンは驚きの声を上げる。
これは、既に雅樹からに聞いている情報だ。
僕は、知らないふりをして、出来るだけ自然に相槌を打った。
「そうなんだ。ふーん」
森田君は、僕達の反応は予想通りだったのか、そのまま続ける。
「でさ、いま、読んでいるのは関ケ原の戦いを元にした小説なんだよ」
言い終わって、僕の顔をチラッと覗き見た。
森田君は、僕に鎌をかけている?
いや、試しているのかな?
僕が本当に読書好きかどうかを。
いいよ。受けて立つよ、森田君!
僕は、さりげなく探りを入れた。
「森田君は、どっち側が好きなの?」
森田君は、パッと顔を明るくした。
ほら、乗ってきた! という表情だ。
「あぁ、俺はどっちかというとな……」
森田君は、少しもったいぶって話し始める。
僕は、我慢出来ずに口を出した。
「ちょっと待って、森田君。僕が当てていい?」
「いいぜ!」
森田君の目がキラリと光る。
僕は、ズバっと言った。
「西軍! ちがう?」
「あたり! すごいな。よくわかったな」
森田君は、本当に驚いたようだ。
僕は、感心している森田君に笑いながら説明した。
「ふふふ。実は僕も西軍が好きなんだ。特に、三成配下の島左近が、最後まで三成に忠誠を尽くすところなんかグッとくる」
「おぉー! まじか! 俺も好きなんだよな、島左近。『三成に過ぎたるもの』だよな?」
「そうそう。森田君は、強い武将が好きそうだから、鬼神の左近には目がないかなって思って!」
「おう、その通りさ! やべぇ。青山と話しているとテンションが上がってくる」
森田君は、手を差し出して握手を求めてきた。
僕はすかさず手を出してギュッと握った。
同士の誓い。
なんだか、照れるけどこんな話が出来るのは僕も嬉しい。
僕と森田君の熱い歴史談義に呆気にとられていたジュンが口を挟んだ。
「あのー、二人とも! ボクたちにもわかる話をしてよ! ねぇ、高坂君」
「ああ、ちょっと、盛り上がり過ぎだろ!」
雅樹は、森田君を睨んでいる。
「ははは、ごめん、ごめん」と笑う、森田君。
あれ?
雅樹は、本気で怒っている?
冗談だよね?
「じゃあ、最後は、俺か。俺もバスケ部は知っているよな?」
雅樹が口を開いた。
「もちろん!」
ジュンが即答した。
僕も一応、うなづく。
雅樹が、「趣味は……」と言い及んだところで、僕は、口で合図を送った。
え、っ、ち!
雅樹は、僕と同じように口を動かして解読している。
そしてすぐに、はははん、という表情を作った。
分かったのかな?
クスクス。
どう? 仕返し。うしし。
雅樹は、言った。
「趣味は、エッチかな。彼女と」
ぶっ!
僕は、吹き出しそうになった。
いや、吹き出した。
「汚いよ! めぐむ!」
ジュンは、大袈裟に叫んだ。
僕は、慌てて台拭きでテーブルを拭いた。
「ごめん……ジュン」
雅樹は、僕の驚きように満足顔になった。
「ははは、冗談、冗談! 趣味は、何か楽器でもやろうかと思っているんだ」
雅樹の言葉にジュンは手を叩いた。
「楽器かぁ。いいな!」
「へぇ、俺も初耳だな。雅樹が音楽とか。似合わねぇ」
森田君は、ニヤッとして雅樹を肘で小突いた。
いやいや、と照れ顔をしながら満更でもない雅樹。
えっ? みんな、彼女とエッチにはスルーなの?
僕が突っ込むべきが悩んでいると、それが丁度いいキッカケだと思ったのだろう、ジュンが話を切り出した。
「ねぇ、高坂君。噂なんだけど、その彼女って……」
ジュンの話の途中で森田君が割り込んだ。
「ああ、雅樹の彼女のことは俺が教えてやろう!」
「おいおい! 余計な事いうなよな」
雅樹は慌てて森田君の口を封じようとした。
「雅樹の彼女は……」
森田君の口から出る言葉は、きっと、雅樹の彼女こと僕に対する悪口。
たぶん、そうなんだ。
まぁ、それを狙った訳なんだから、仕方のないことなんだけど……。
はあ。
でも、できるなら耳を塞ぎたい。
ところが、森田君は意外な言葉を口にした。
「まじで可愛い!」
えっ?
僕は驚きとともに喜びが沸いてくる。
なんだか、背中の辺りがこそばゆい。
ははは。
そう? 可愛かった?
自然と笑みが漏れる。
森田君は、言葉を続けた。
「でも、ちょっとなんだぁ。化粧が濃い!」
さらっと言った。
その通りなのだけど……。
少なからずショックを受けた。
でも、すぐに悟った。
森田君は、本当に正直者なんだ。
言葉で飾らない。
遠回しに嫌味を言ったりもしない。
本音で話している。
それが、僕には分かる。
そんな森田君は、本当に好感が持てる。
ねぇ、雅樹。
雅樹がいつか言っていた、翔馬は本当にいいやつなんだ、という言葉。
今なら分かる。
僕も雅樹と同じように思うから。
森田君は、雅樹に、そうだろ? と同意を求めた。
「まぁな、化粧も自己アピールの一つなんだよ。きっと。うん」
雅樹は、難しい顔をして言った。
「へぇ、高坂君の趣味ってわけじゃないんだね」
ジュンは、噂の真相を知りたかったようだ。
雅樹は、彼女に気を使って付き合っているっているのではないか、という憶測。
「ああ、そうだな。俺は普通でいいと思うんだけどな」
雅樹はつぶやいた。
「なるほど。噂通りってことか……高坂君は我慢して付き合っているっと……ふむふむ」
やっぱり優しいんだ! っと、ジュンの独り言が聞こえてきた。
自己紹介が一巡した。
だいぶ打ち解けて来たのか、話していると自然と笑みがこぼれる。
ああ、楽しいな。
僕だけじゃない。
みんなも、そう思っているようだ。
そんな中、森田君から鋭い指摘が飛んだ。
「ところで、さっきから見てると、雅樹と、青山は、ちっとも話をしてないな。どうした?」
「えっ?」っと僕。
雅樹も「へ?」と声を出した。
僕は、慌てて言い返す。
「そっ、そんな事ないけど……」
ジュンも、うんうん、とうなづいている。
「そうだよ。めぐむ! せっかくのチャンスなんだから森田君だけじゃなくて、高坂君とも話さなきゃ!」
「うっ、うん。そうだね」
どうしよう?
僕は、雅樹を上目遣いに見つめた。
なんだか、話しづらい。
それに、まじまじと雅樹を見るのが気恥ずかしい。
最初に雅樹が口火を切った。
「いやー。青山は、趣味はお菓子づくりかぁ。初めて聞いたな」
「うん。高坂君も、楽器やりたいだなんて、すごいね。初耳!」
僕も、とっさに今聞いた情報で何とか取り繕う。
微笑みながら沈黙。
しーん……。
それに耐えられず、森田君が口を出した。
「なぁ、お前達、いまさら、何の話をしているんだ?」
「うんうん。初耳も何も、今日、初めてこうやって話したんだから、当たり前でしょ?」
ジュンも呆れたように言った。
流石に、わざとらしかったかな……。
でも、雅樹が楽器をしたいだなんて本当に初耳だったし、もう少し聞きたいのもあった。
ただ、この場ではジュンの指摘は至極正しい。
「あっ、そっ、そうだったね……。」
「おお、うっかりしてたよ!」
雅樹は頭をかいた。
ははは。
あはは。
二人して、わざとらしい乾いた笑い。
ジュンが突然吹いた。
「ぶっ。なんか、高坂君とめぐむって、お見合いでもしているみたい」
「あははは。確かに、お見合いみたいだな」
森田君も笑い出す。
やばい。
このへんな空気を何とかしないと、雅樹との事が勘ぐられてしまう。
「ちょ、ちょっと! そんなことないから」
僕は、冷や汗をかきながら弁解していると、森田君は、何かの役に入って言った。
「では、あとは、若い二人に任せて、我々はこれで?」
「そうですね、では、ごゆっくり……」
ジュンもそれに続いた。
沈黙。
どっと4人で大笑い。
「だめだ。腹がよじれる!」
森田君はお腹を抱えて笑った。
僕も可笑しくて仕方ない。
仲人さん?
面白すぎる。
「ぷはは! もう、二人とも!」
「やばい! 翔馬と相沢の息が合いすぎ!」
雅樹も声を上げて笑う。
「あはは! 楽しい!」
ジュンは、笑い過ぎで涙を拭いていた。
その時、今日の打ち上げの幹事の声が聞こえた。
「それでは、宴もたけなわではございますが! この辺で……」
どっと会場中が笑い出す。
「宴もたけなわって……うける……大人の忘年会かよ!」
みんな、お調子者の幹事をはやし立てる。
幹事は、狙い通りにうけて、まんざらでもない様子。
僕達も盛大に笑った。
ああ。
今日は、本当に楽しかった。
ジュンは、満足げに僕の顔を見た。
雅樹と友達になる。
目標は達せられたんだ。
今日を境に、一機に話しかけ易くなった。
雅樹も、僕を見て微笑んだ。
ねぇ、雅樹。
これで、『友達』になれたよね。
もう、教室で自然に話してもおかしくないよね?
雅樹は、うん、と頷いた。
僕の心の声が伝わったみたい。
会場は、まだ和やかな雰囲気に包まれている。
僕達は、今日の楽しかった余韻に浸りながら、名残惜し気に出口に向かった。
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