33 / 55

2-17-2 オープンキャンパス(2)

夜遅く誰もいなくなったとある研究室。 僕は、雅樹の連絡を受けて、二人で集合する。 「雅樹、こんな夜になんの実験するの?」 「ん? 言ってなかったか。ちょっとした仮説を思いついたんだ」 「仮説?」 「そう。人間って、自然の一部だろ?」 「何を急に言い出すの? まぁ、そうだけど」 「だとしたら、人間の体と、自然の形と相性がいいんじゃないかって思うんだ」 「形? 相性? なんのこと?」 雅樹は、僕の手首をつかむ。 「痛い……雅樹、どうしちゃったの?」 「めぐむ、悪いけど、脱いでそこに横になってくれないか?」 雅樹は、応接セットのソファを指さす。 「えっ? どうして脱ぐの? 意味わからない」 「これを見てくれ」 雅樹は、段ボールを開く。中に入っているのは、沢山のキュウリ。 いろいろな形をしている。 「キュウリなんて、何に使うの?」 「ん? わからないか? めぐむの、お尻に入れるんだよ」 「ぶっ! どうして?」 「つまり、俺の仮説だと、めぐむの気持ちのいいところにピッタリと合う、そんなキュウリがあるはずなんだ」 「そっ、そんなの、あるわけないよ!」 「いいや、あるはずだ。実験してみなきゃわからないだろ?」 「だからって……あっ、やめて」 雅樹は、僕を四つん這いにさせると、ズボンとパンツをペロンと下ろす。 そして、強引に僕のアナルにキュウリを押し当てる。 「あっ、だめ」 「大丈夫、ちゃんと洗ってあるから。気持ちよかったら言ってくれよな」 そう言うと、雅樹はキュウリをズズッとアナルに入れる。 「あっ、入ってくる……」 すぐに、ぐりぐりと動かし始める。 「あっ、あっ、痛い……ダメっ」 「ん? これは違うか。やっぱり、微妙な形の差があるんだな。データをメモしてっと」 雅樹は、僕の反応を見て、うんうんと頷いたり、唸ったりしている。 何本かのキュウリが僕のお尻の中に出たり入ったりした。 雅樹の言う通り、形や太さで気持ち良さは違うみたい。 でも、そうしているうちに下半身が熱くなってくる。 ああ、雅樹のが欲しい……。 「はぁ、はぁ」 僕は、気持ちがよくて、よだれがつーっと垂れる。 「興味深いな、だいたい分かったぞ」 「はぁ、はぁ、何がわかったの?」 「つまり、一番いい反応したのは、このキュウリだ。どう? 見覚えない?」 「えっ?」 雅樹が手にしたキュウリ。 それって……もしかして……。 「そうだ。俺のペニスの形と似ているんだ。ふむ。よし、俺のを入れてみるか」 雅樹は、いつの間にか、ズボンとパンツを脱ぎ、ペニスをあらわにする。 そして、僕の腰を両手で抑える。 「いくぞ! めぐむ」 「うん……雅樹きて、はぁ、はぁ」 「あのー、でも、研究ばっかりじゃ、遊ぶ時間ないじゃないですか?」 誰かのとんちんかんな質問に、僕は妄想から一機に覚めた。 声のする方を見る。 やっぱり。 あのカップルだ。 女子の方が手を挙げている。 「遊ぶ時間がないと、ぜんぜん楽しくないんですけど。ねぇ、マコトちゃん!」 「おっ、おう! そうだな」 男子の方も、うんうんっと頷いている。 二人の発言に、大学生の先輩も、他に参加している高校生達もあっけに取られた。 しばらくして、大学生の先輩は口を開いた。 「まぁ、そうですね。そんなに遊んでいる時間はないかな……論文をしっかり描かないと卒業できないし」 「つまんなーい」 カップルの女子は、興味無さそうに爪をいじり始めた。 男子の方は、スマホ。 息が合っている。 大学生の先輩は、やれやれというポーズをとった。 グループの他の人達もあきれ顔。 はぁ。 僕は溜息をつく。 この二人は、なんのためにここに来たのだろう。 自分の将来を真剣に考えていないなんて。 と、言うのは建て前。 この二人の将来なんて僕にはどうでもいい。 それより、今日の妄想はいい調子なのに、いいところで、決まってこのカップルに邪魔をされてしまう。 さっきは、せっかく雅樹とエッチができそうだったのに……。 ああ、もうだめだ。 こんなのでイライラしちゃ。 世の中には、こういう人達もいるんだ。 迷惑なカップル。 でも、そうなんだ。 僕と雅樹だって、一歩間違えば同じようになっていたかもしれない。 雅樹は、男同士のカップルは、他人を不快にさせてしまうかもしれない。 そう言った。 だから、これは僕に対する反面教師みたいなもの。 僕達も気を付けよう。同じようにならないように。 お昼になった。 学食で、グループごとで昼食を取る。 僕は、カツカレーをチョイスした。 うん。 美味しそうだ。 一口、口に入れてみる。 美味しい! 少し辛口。 ルーは緩めだけどコクがあってカツの衣によく馴染む。 カツカレーは大正解だった。 これで、目の前にこのカップルさえいなければ良かったのに……。 目の前のカップルは、ここでも、周りの空気はお構い無しに、我が物顔でイチャイチャし始める。 せっかくの美味しいランチが台無し。 ふぅ。 本当にイライラする。 僕は、黙々と食べる。 よし、あのカップルなんて気にせず、妄想しよう! 学食でランチを食べ終わった僕と雅樹。 カフェテリアで、食後のひと時を楽しむ。 雅樹は、コーヒーを飲みながら僕を見つめる。 僕は、ケーキを一口サイズにしてフォークで刺す。 そして、はむっと口に入れる。 「んー。美味しい!」 「ああ、めぐむは今日もデザート頼んだのか?」 「うん!」 「太るぞ、ははは」 「そっ、そんな事無いもん!」 「あれ? ほっぺにクリーム付いているぞ」 「ほんと? ねぇ、雅樹。取ってよ!」 僕は、ほっぺを雅樹に突き出す。 「しょうがないなぁ。めぐむは、甘えん坊なんだから」 「うん。そうだよ、僕は、甘えん坊なんだ。ほら、早く!」 えっ? 僕は、ビクっとする。 雅樹がペロリと僕のほっぺを舐めたのだ。 僕は、顔を赤くして言う。 「雅樹ったら、誰かに見られちゃうよ……」 「ははは。そうだな、悪い、悪い。じゃあ、残りは、俺が食べさせてやるよ。それぐらいなら良いだろ?」 「うっ、うん」 「ほら、あーんして!」 「あーん!」 雅樹が差し出したケーキが口の中に入った。 その瞬間……。 「はい、マコトちゃん、あーん!」 僕は、ハッとして目の前を見る。 カップルの女子が唐揚げをフォークに刺して、男子の口へ運んでいるところだった。 男子の方は、モグモグ食べて「美味しい!」とか言っている。 ああ、まただ。 僕のささやかな妄想をことごとく台無しにして! しかも、やっている事が被っているのが、余計に腹がたつ。 こっちは、人前でしたくても、我慢しているって言うのに。 まったく! カップルは、食事を終えて一息をつくと、また周りにアピールするように大声で話し始める。 「ねぇ、マコトちゃん。もう、帰らない? なんか面白くないし」 「えっ? まだ、午後もあるぞ」 「でも、退屈だし。ふあーあ。ほら、センセーに言われたから来ただけでしょ?追試にするからって。遊びに行こうよ。カラオケとか」 「でもよ。最後までいないとレポート書けないだろ?」 「あーあ、つなんない。早く終わらないかなぁ。研究とかまじ興味無いんだけど」 僕の中でプチンと何かがキレた。 僕は、無言で立ち上がる。 だめだよ、我慢して! そんな、心の声が聞こえるけど、もう止まらない。 イライラの限界を越えた。 「ちょっと、あなた達。迷惑だってわからないの!」 僕の荒げた声に、目の前のカップルどころか、周りの人達の注目が集まる。 「いい! ここは、自分の将来と真剣に向き合っている人が来る所なの。あなた達のように、暇つぶしで、冷やかしで来ていいところじゃないから!」 溜まっていた言葉が次から次へと出てくる。 「真剣に大学を調べに来ている人にとって目障り。第一、大学生の先輩達にも失礼でしょ!」 はぁ、はぁ。 言ってしまった。 こんなのは、僕の柄じゃないのに。 せっかく、このような会を開いてくれている大学側の心遣いと、僕達の一生懸命な気持ちに水を指すのがいけないんだ。 でも、シーンとする中、後悔し始める。 僕は、下を向きながら着席した。 カップルの女子の方は、驚きのあまり声が出せないようだ。 男子の方は、呆然としながら僕の顔を見つめる。 ああ、そういえば。 男子の方は今初めて顔を合わせたのかもしれない。 今更ながら、僕の顔を見て何か驚いているようだ。 きっと、女の子みたいなひ弱そうな僕に怒鳴られたのが、意外だったのに違いない。 しばらくの沈黙を経て、わなわなと手を震わせていたカップルの女子が言った。 「へん、行きましょ! こんなところ。さあ、マコトちゃん」 「おっ、おう……」 カップルの女子は、顔を真っ赤にして怒りをあらわにして、男子の手を取って、席を立った。 男子の方は、手を引かれながらも、まだ僕の方を見ている。 因縁でもつけようとでもいうのか……。 二人が食堂から立ち去ると、小さくパチパチという拍手が起こった。 そして、次第に大きな喝采へと変わる。 「良かった! すごい」 「君、よくぞ言ってくれた!」 「カッコいい! ありがとう」 賞賛する声が僕に向けられた。 僕は、恥ずかしくなって照れ笑いをした。 「本当に、そんなんじゃないんです……」 ただ、妄想を邪魔された事にイライラしていただけだから……。 でも、これで午後は邪魔されないと思うと気持ちはスッキリした。 ホッと胸をなでおろした。

ともだちにシェアしよう!