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2-19-1 夏休みの宿題(1)

いよいよ夏休みも終わる。 夏休みの終わりの風物詩といったら、宿題の追い込みだ。 僕は、夏休みに入ってからすぐに取りかかったから既に終わっている。 でも、雅樹は、まったくやっていなかったことがつい先日判明した。 「えーっ! 雅樹、それ絶対に間に合わないよ!」 「あー。分かっているんだ! でもよ、仕方ないんだ。あー! 夏休みもう一度最初にもどればいいのに!」 そんな雅樹に、僕は救いの手を差し伸べる。 「もう、しょうがないな。いいよ。僕の写して」 「えっ? まじでいいの?」 「いいよ。その代わり貸だからね!」 「やっほー! めぐむ、サンキュー! 愛しているよ!」 「もう、調子いいんだから」 そんなやり取りがあり、いつものショッピングモールで待ち合わせをして、近くのファミレスに陣取ったのだ。 「よっしゃー! やるぞ!」 雅樹は腕まくりをした。 僕は、ドリンクバーでジュースを汲んで来てチューっとすすった。 頬杖を付きながら雅樹を見守る。 一所懸命な雅樹。 そんな、雅樹を見守る健気な僕。 ああ、なんかいいなぁ……。 でも、そんなのは、すぐに飽きる。 さっきからずっと同じ体勢だし、雅樹はちっとも僕を見てくれない。 僕は、空気にでもなったようだ。 ふあーあ。 眠くなる。 本当に、このままでは眠ってしまいそうだ。 「ねぇ、雅樹、なにかお話しようよ!」 「えっ? だめだよ。今、数学の演習問題やっているんだから」 「だって、退屈なんだもん!」 「大人しくしててな。いい子だから」 雅樹は、子供をなだめるように言う。 僕は頬をぷぅっと膨らませた。 ああ。 そうだ。 僕は靴を脱いだ。 そして、一所懸命な雅樹を見ながら、テーブルの下で足をそおっと雅樹の方に伸ばす。 もう少し。 雅樹の股間に到着。 ちょん! 指先が柔らかいものに触れた。 うん。 まだ柔らかいペニス君。 僕は、足の指をうまく使って、雅樹のペニスをしごき出す。 はやく、おっきくなってね。 ふふふ。 気がつくと、雅樹は僕の方を睨んでいた。 「めぐむ! いやらしいことしないの!」 「あれ? ばれた?」 「バレるよ、そりゃ!」 「ふふふ。でも、ほら、だんだん固くなってきたんじゃない?」 「なって無いって!」 雅樹は、再び宿題に戻る。 あーあ。 つまらないの。 僕は、仕方なく、足をひっこめた。 そんな僕を見かねて、雅樹はある提案をしてきた。 「ふぅ。じゃ、めぐむ。今、この問題を解いたら、面白い話をしてやるよ」 「えっ。面白い話?」 僕は、目を輝かせて体を前に乗り出した。 なんだろう。 楽しみ。 僕は、わくわくしながら、雅樹が問題を解き終わるのを待つ。 雅樹の真剣な顔。 キュンとしちゃう。 へぇ、雅樹は一応、自力で解こうとしているんだ。 雅樹は、数学は結構できるようだ。 僕のノートはあまり見ていない。 雅樹は、理系なのかも。 そんなことを考えていると、雅樹は、ようやくシャーペンを置いた。 そして、うーん、と伸びをする。 「よし、数学は一旦終わりっと。じゃあ、約束どおり、クイズを出してあげるよ」 「クイズ? 面白い話ってクイズなの?」 「うん。俺が勉強している間に、クイズの答えを考えているといいよ」 「なるほど。クイズか。いいよ」 「じゃあ、だすよ」 「さあ、どうぞ!」 雅樹は、クイズを出題した。 ※ここから雅樹の出す問題になります。皆さんも考えてみてください。 ある勇敢で聡明な王様がいました。 その王様は、幼小の時から勇猛果敢に魔物と戦い、そして、貧しい人たちには慈悲深く施しをし、国民の尊敬を集めました。 ところで、王様には亡くなった伴侶が残した3人の娘がいました。 王様の家系は女の子しか産まれず、婿を取るより仕方が有りません。 王様は、国の安寧を願い、隣の国の王子を婿に迎え入れようと思い立ちました。 でも、3人の娘たちは、結婚をしたがりません。 一番上の娘は、賢くて妹思い。でも、頑固者で人からの指図は全く受け付けません。 二番目の娘は、優しい性格ですが、体が弱くていつも病気ばかり。 末の娘は、明るくて活発ですが、甘やかされて育ったためか我がままです。 婿に貰う王子は、王様の目から見ても、ハンサムで優しくて男らしく、非の打ち所がない人物です。 「さて、王様は誰にどのような説得をして婿をもらい受けたでしょうか?」 ※問題はここまでです。以降、回答編になります。 雅樹は、出題が終わると、さっそく、次の宿題に取り掛かり始めた。 僕は、雅樹の話を頭の中で整理し始めた。 3人の娘に婿ね……。 賢いけど頑固。 優しいけど病気がち。 明るいけどわがまま。 3人とも普通と言えば普通。 クイズだから、何処かにヒントがあるはずだけど、すぐには思い浮かばない。 僕は、雅樹に言った。 「うーん。長女かな?」 「長女ね、どうやって説得したと思う?」 雅樹は、テキストに目を向けたまま言った。 「えっと、『お姉ちゃんなんだから仕方ないでしょ!』って」 「ぶー。不正解!」 「じゃあ、次女かな」 「ふむ、じゃあ、どうやって?」 「そうだなぁ、『体が弱いんだから早く婿を取りなさい!』って」 「ぶー。不正解!」 「えっ! じゃあ、三女かな。『ほら、親の言う事を聞きなさいって』」 「ぶー。ハズレ!」 「えー、何? どうゆう事? 説得の仕方がまずいって事?」 雅樹は、こくりと頷く。 「そうだね。めぐむが言ったやり方だと、絶対に不満が出るよね?」 「まぁ、そうかな」 「でも、全く不満がでないやり方があるんだよ」 雅樹は、得意げな顔をした。 「全く不満が出ない? 本当に?」 「ああ、本当に」 「それなら、王様が『全財産あげるから結婚しなさい』って言った。これだ!」 どうやら正解に辿り着いた。 僕がそう思ったのも束の間、雅樹は笑い出す。 「ははは、なるほど。でも、3人とも『あたしは財産なんか要りません』って言うかもしれないよね?」 「どうかな、3人のうち誰かは絶対に手を挙げると思うけどな。だって、相手は非の打ち所がないイケメンなんでしょ?」 僕は食い下がる。 「そうだな。まぁ、それでもいい事にするか」 「ちょ、ちょっと待ってよ! 不正解なんでしょ? 面倒だからって、適当に正解にするのやめてよ!」 僕は、頬を膨らませた。 「ははは、バレたか」 「もう!」 雅樹が言うように不満が出ない答えなんて本当にあるのだろうか。 何度も頭の中で問題を整理するけど、引っかかる所は無い。 ああ! もう何も思い付かない! 悔しいけど、答えが知りたくてうずうずし始める。 「で、正解は?」 雅樹は、あれ? っという顔をした。 「もう、正解を言っていいのか?」 「うん」 「じゃあ、言うけど」 「うん」 「王様が結婚した。正確には、再婚って事だな」 「へ? 王様? なにそれ?」 3人の娘以外の答えという展開に唖然とした。 もしかして、なぞなぞ!? そんな、だれじゃれっぽい要素は無かったと思うけど…….。 「と言うわけさ。さて、集中して宿題やるぞ!」 雅樹は、そのまま満足げに宿題を再開した。 「いやいや、雅樹、ちょっと待ってよ!ツッコミ所が多過ぎて……」 「あれ? 良く分からなかった?」 雅樹は、顔を上げる。 僕は、おかしいと思う所を雅樹にぶつけた。 「うん。そもそも王様ってどうして女なの? 普通、女王って言うじゃん!」 「まぁ、でも王様って事には変わりないさ」 「だとしても、女だって唐突過ぎるよ!」 「いや、そんな事はないよ。『王様の家系は女の子しか産まれない』って言ったじゃん」 「えっ? それって3姉妹の事じゃないの?」 「ここがこの話の味噌なんだよ」 雅樹は、人差し指を立てる。 「当然、王様だって女って事になる。だって、女の子しか産まれない家系なんだから。で、亡くなった伴侶はつまり旦那って事だな」 「うっ、なんか誤魔化されいるような。でも、『国の安寧を願って婿をとる』って言ったよね。娘に婿とって子供を作らせるって事じゃないの? 自分が結婚したんじゃ、国の安寧にならないよ」 「いや、だから結婚をしたがらない娘達は放って置いて、また自分で子供を産んで結婚したがる娘を作るって事さ」 「うっ、そこまで考えて? そんな……」 娘が引っ掛けで、王様自身が答え。 確かに、辻褄は合う。 でも、何となく釈然としない。 「ここで、『聡明な王様』って所が生きてくる。国民に慈悲深いんだから娘にも寛大なんだろう。『結婚したくないなら自由に生きてみろ』ってな具合さ。いい親だなぁ」 「えっと、その、うーん」 「あー、あと、王子は王様が絶賛する程のお気に入りだから、そりゃもう夜の方は激しくてすぐに娘が産まれちゃうって訳」 「ぶっ! 変な追加情報はいいよ! もう!」 「さて、めぐむ、約束通りおとなしくしててな。さあ、次は難関の英語に取り掛かるぞ!」 雅樹は、そう言うと腕まくりをした。

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