37 / 55
2-19-1 夏休みの宿題(1)
いよいよ夏休みも終わる。
夏休みの終わりの風物詩といったら、宿題の追い込みだ。
僕は、夏休みに入ってからすぐに取りかかったから既に終わっている。
でも、雅樹は、まったくやっていなかったことがつい先日判明した。
「えーっ! 雅樹、それ絶対に間に合わないよ!」
「あー。分かっているんだ! でもよ、仕方ないんだ。あー! 夏休みもう一度最初にもどればいいのに!」
そんな雅樹に、僕は救いの手を差し伸べる。
「もう、しょうがないな。いいよ。僕の写して」
「えっ? まじでいいの?」
「いいよ。その代わり貸だからね!」
「やっほー! めぐむ、サンキュー! 愛しているよ!」
「もう、調子いいんだから」
そんなやり取りがあり、いつものショッピングモールで待ち合わせをして、近くのファミレスに陣取ったのだ。
「よっしゃー! やるぞ!」
雅樹は腕まくりをした。
僕は、ドリンクバーでジュースを汲んで来てチューっとすすった。
頬杖を付きながら雅樹を見守る。
一所懸命な雅樹。
そんな、雅樹を見守る健気な僕。
ああ、なんかいいなぁ……。
でも、そんなのは、すぐに飽きる。
さっきからずっと同じ体勢だし、雅樹はちっとも僕を見てくれない。
僕は、空気にでもなったようだ。
ふあーあ。
眠くなる。
本当に、このままでは眠ってしまいそうだ。
「ねぇ、雅樹、なにかお話しようよ!」
「えっ? だめだよ。今、数学の演習問題やっているんだから」
「だって、退屈なんだもん!」
「大人しくしててな。いい子だから」
雅樹は、子供をなだめるように言う。
僕は頬をぷぅっと膨らませた。
ああ。
そうだ。
僕は靴を脱いだ。
そして、一所懸命な雅樹を見ながら、テーブルの下で足をそおっと雅樹の方に伸ばす。
もう少し。
雅樹の股間に到着。
ちょん!
指先が柔らかいものに触れた。
うん。
まだ柔らかいペニス君。
僕は、足の指をうまく使って、雅樹のペニスをしごき出す。
はやく、おっきくなってね。
ふふふ。
気がつくと、雅樹は僕の方を睨んでいた。
「めぐむ! いやらしいことしないの!」
「あれ? ばれた?」
「バレるよ、そりゃ!」
「ふふふ。でも、ほら、だんだん固くなってきたんじゃない?」
「なって無いって!」
雅樹は、再び宿題に戻る。
あーあ。
つまらないの。
僕は、仕方なく、足をひっこめた。
そんな僕を見かねて、雅樹はある提案をしてきた。
「ふぅ。じゃ、めぐむ。今、この問題を解いたら、面白い話をしてやるよ」
「えっ。面白い話?」
僕は、目を輝かせて体を前に乗り出した。
なんだろう。
楽しみ。
僕は、わくわくしながら、雅樹が問題を解き終わるのを待つ。
雅樹の真剣な顔。
キュンとしちゃう。
へぇ、雅樹は一応、自力で解こうとしているんだ。
雅樹は、数学は結構できるようだ。
僕のノートはあまり見ていない。
雅樹は、理系なのかも。
そんなことを考えていると、雅樹は、ようやくシャーペンを置いた。
そして、うーん、と伸びをする。
「よし、数学は一旦終わりっと。じゃあ、約束どおり、クイズを出してあげるよ」
「クイズ? 面白い話ってクイズなの?」
「うん。俺が勉強している間に、クイズの答えを考えているといいよ」
「なるほど。クイズか。いいよ」
「じゃあ、だすよ」
「さあ、どうぞ!」
雅樹は、クイズを出題した。
※ここから雅樹の出す問題になります。皆さんも考えてみてください。
ある勇敢で聡明な王様がいました。
その王様は、幼小の時から勇猛果敢に魔物と戦い、そして、貧しい人たちには慈悲深く施しをし、国民の尊敬を集めました。
ところで、王様には亡くなった伴侶が残した3人の娘がいました。
王様の家系は女の子しか産まれず、婿を取るより仕方が有りません。
王様は、国の安寧を願い、隣の国の王子を婿に迎え入れようと思い立ちました。
でも、3人の娘たちは、結婚をしたがりません。
一番上の娘は、賢くて妹思い。でも、頑固者で人からの指図は全く受け付けません。
二番目の娘は、優しい性格ですが、体が弱くていつも病気ばかり。
末の娘は、明るくて活発ですが、甘やかされて育ったためか我がままです。
婿に貰う王子は、王様の目から見ても、ハンサムで優しくて男らしく、非の打ち所がない人物です。
「さて、王様は誰にどのような説得をして婿をもらい受けたでしょうか?」
※問題はここまでです。以降、回答編になります。
雅樹は、出題が終わると、さっそく、次の宿題に取り掛かり始めた。
僕は、雅樹の話を頭の中で整理し始めた。
3人の娘に婿ね……。
賢いけど頑固。
優しいけど病気がち。
明るいけどわがまま。
3人とも普通と言えば普通。
クイズだから、何処かにヒントがあるはずだけど、すぐには思い浮かばない。
僕は、雅樹に言った。
「うーん。長女かな?」
「長女ね、どうやって説得したと思う?」
雅樹は、テキストに目を向けたまま言った。
「えっと、『お姉ちゃんなんだから仕方ないでしょ!』って」
「ぶー。不正解!」
「じゃあ、次女かな」
「ふむ、じゃあ、どうやって?」
「そうだなぁ、『体が弱いんだから早く婿を取りなさい!』って」
「ぶー。不正解!」
「えっ! じゃあ、三女かな。『ほら、親の言う事を聞きなさいって』」
「ぶー。ハズレ!」
「えー、何? どうゆう事? 説得の仕方がまずいって事?」
雅樹は、こくりと頷く。
「そうだね。めぐむが言ったやり方だと、絶対に不満が出るよね?」
「まぁ、そうかな」
「でも、全く不満がでないやり方があるんだよ」
雅樹は、得意げな顔をした。
「全く不満が出ない? 本当に?」
「ああ、本当に」
「それなら、王様が『全財産あげるから結婚しなさい』って言った。これだ!」
どうやら正解に辿り着いた。
僕がそう思ったのも束の間、雅樹は笑い出す。
「ははは、なるほど。でも、3人とも『あたしは財産なんか要りません』って言うかもしれないよね?」
「どうかな、3人のうち誰かは絶対に手を挙げると思うけどな。だって、相手は非の打ち所がないイケメンなんでしょ?」
僕は食い下がる。
「そうだな。まぁ、それでもいい事にするか」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 不正解なんでしょ? 面倒だからって、適当に正解にするのやめてよ!」
僕は、頬を膨らませた。
「ははは、バレたか」
「もう!」
雅樹が言うように不満が出ない答えなんて本当にあるのだろうか。
何度も頭の中で問題を整理するけど、引っかかる所は無い。
ああ! もう何も思い付かない!
悔しいけど、答えが知りたくてうずうずし始める。
「で、正解は?」
雅樹は、あれ? っという顔をした。
「もう、正解を言っていいのか?」
「うん」
「じゃあ、言うけど」
「うん」
「王様が結婚した。正確には、再婚って事だな」
「へ? 王様? なにそれ?」
3人の娘以外の答えという展開に唖然とした。
もしかして、なぞなぞ!?
そんな、だれじゃれっぽい要素は無かったと思うけど…….。
「と言うわけさ。さて、集中して宿題やるぞ!」
雅樹は、そのまま満足げに宿題を再開した。
「いやいや、雅樹、ちょっと待ってよ!ツッコミ所が多過ぎて……」
「あれ? 良く分からなかった?」
雅樹は、顔を上げる。
僕は、おかしいと思う所を雅樹にぶつけた。
「うん。そもそも王様ってどうして女なの? 普通、女王って言うじゃん!」
「まぁ、でも王様って事には変わりないさ」
「だとしても、女だって唐突過ぎるよ!」
「いや、そんな事はないよ。『王様の家系は女の子しか産まれない』って言ったじゃん」
「えっ? それって3姉妹の事じゃないの?」
「ここがこの話の味噌なんだよ」
雅樹は、人差し指を立てる。
「当然、王様だって女って事になる。だって、女の子しか産まれない家系なんだから。で、亡くなった伴侶はつまり旦那って事だな」
「うっ、なんか誤魔化されいるような。でも、『国の安寧を願って婿をとる』って言ったよね。娘に婿とって子供を作らせるって事じゃないの? 自分が結婚したんじゃ、国の安寧にならないよ」
「いや、だから結婚をしたがらない娘達は放って置いて、また自分で子供を産んで結婚したがる娘を作るって事さ」
「うっ、そこまで考えて? そんな……」
娘が引っ掛けで、王様自身が答え。
確かに、辻褄は合う。
でも、何となく釈然としない。
「ここで、『聡明な王様』って所が生きてくる。国民に慈悲深いんだから娘にも寛大なんだろう。『結婚したくないなら自由に生きてみろ』ってな具合さ。いい親だなぁ」
「えっと、その、うーん」
「あー、あと、王子は王様が絶賛する程のお気に入りだから、そりゃもう夜の方は激しくてすぐに娘が産まれちゃうって訳」
「ぶっ! 変な追加情報はいいよ! もう!」
「さて、めぐむ、約束通りおとなしくしててな。さあ、次は難関の英語に取り掛かるぞ!」
雅樹は、そう言うと腕まくりをした。
ともだちにシェアしよう!