40 / 55
2-20-2 ジュンの恋煩い(2)
僕は、保健室を出ると、急いで先に歩くジュンのもとに向かった。
教室の手前でジュンに追いついた。
「ちょっと、時間かかっちゃったね。早く着替えないと、女子が入ってきちゃう」
僕とジュンが教室に入ると、他の男子はもう誰もいなくなっていた。
おそらく次の授業の教室へ移動したのだろう。
僕は体操服を脱いで上半身裸になった。
「ねぇ、ジュン、もしかしたらさ、片桐先生と……」
と言いかけたとき、突然ジュンは僕に抱き着いてきた。
ジュンもすでに上半身裸だ。
体が触れ合い、ジュンの体温が伝わる。
「どっ、どうしたの? ジュン」
ジュンは、僕に抱き着いたまま、唇を重ねてきた。
僕は、あっけに取られてそのまま受け止めてしまった。
そして、気が付いたら、そのまま舌を絡ませている。
んっ、んっ、んっ……。
ぷはっ。
やっとのことで、唇を離した。
「ちょっと、ジュン! どうしたの?」
僕は口を拭いながら言った。
「ボクを好きにしていいよ、めぐむ!」
「え?」
「だって、めぐむ、ボクのこと好きなんでしょ?」
「へ?」
混乱して、言葉にならない。
「ちょっと、落ち着こう。ジュン」
「ボクは落ち着いているよ」
「いや、いや……」
僕は、ジュンの両肩を抑えた。
「僕は、確かにジュンが好きだけど、『愛している』の好きじゃないよ」
「え? でも、ボクのことを好きなんでしょ? だって、ボクに優しいじゃん。めぐむ」
「たとえば?」
「今日だって、ケガをしたボクの指を舐めてくれたし、保健室に連れていってくれた」
「うん。でも友達だったら普通じゃん!」
「それに、倒立で倒れたとき抱きかかえてくれた」
「うん。友達だからね!」
「あと、柔軟の時だって、やたらにボクの体を触ってきたじゃん」
「そりゃ、柔軟体操だもん!」
ジュンは、ポカンとしている。
「あれ、もしかして、普通だった?」
「普通だった」
「そういわれてみれば、普通か。あれ、ボクの勘違い?」
「勘違いだよ。もう!」
ジュンの表情がみるみる変わっていく。
「あぁ、めぐむ。ごめんよ!」
ジュンは恥ずかしそうに頭をかいた。
まったく、思い違いにもほどがある。
僕は、ジュンに尋ねた。
「いや、いいけど。どうして僕がジュンを好きだなんてことになったわけ?」
「それがさ……」
ジュンの話を聞くとつまりはこうだ。
数日前に、オカルト研究会の仲間から、こんな話を聞いたらしい。
「ジュン、お前と友達の青山さ、例の見守り隊のリストに入っているらしいぞ」
「えっ? どうして、ボクとめぐむが? イケメン限定じゃなかったっけ?」
「どうも、お前と青山がデキてるってことで、見守ろうってなっているらしい……」
「どっから、そんなデマが……ああ、もしかして打ち上げの時かな……でも、ボクとめぐむは親友だけど、そんな仲じゃないから!」
「いや、そうとも言えないぞ。あの、見守り隊がいうんだからさぁ。調べはついているんじゃないか?」
「いったい、どういうこと?」
「お前はそうでも、もしかしたら、青山がお前のことを好き。って、ことはないか?」
「まさか!」
「そのまさか、あるんじゃないのか?」
ジュンも最初はそんな話は気にも留めていなかったらしい。
でも、ここ数日、意識して僕のことを観察した結果、
「もしかしたら、めぐむはボクのことを好きなんじゃないか?」
から、ついには、
「ぜったいにボクのことを好きなんだ!」
に至ったわけだ。
僕は、そこまで聞いて、また、見守り隊がらみかぁ、とあきれた。
僕は、ジュンに尋ねた。
「でもさ、ジュン。片桐先生のことはどうなるの?」
「うん。それをさ、ずっと悩んでいたわけ。朝から晩まで。先生をとるか、めぐむをとるかで。で、今日、めぐむをとる決心がついたんだよ」
「なんだ。だから、最近元気なかったのか」
ジュンは頷いた。
「まぁね。でも、よかったよ。めぐむがボクを好きじゃなくてさ。やっぱり、片桐先生をあきらめたくないからさ。ははは」
「まぁ、僕を選んでくれたのは嬉しいけどさ。でも、本当にびっくりしたよ。急にキスしてくるし!」
さっきのジュンは鬼気迫るものがあった。
僕は思い出して、ぶるっとした。
ジュンは自分の唇を触りながら言った。
「でもさ、めぐむ……」
「なに?」
「めぐむって、ファーストキスじゃないよね?」
ドキッ。
どうして、そんなことが……。
ジュンは、鈍いようで鋭いところがある。
「どうしてそう思うの?」
「だって、キス慣れしているって感じ? 正直めちゃめちゃ気持ちよかった」
「そっ、そっかな?」
「ボクもそんなキスをしたいと思ったよ!」
しまった……。
つい雅樹とキスするように、体が勝手に動いてしまったんだ。
僕は、キスのことには触れないように、この場を対処しようとした。
「まぁ、ジュン。誤解は解けたんだ。さぁ、着替えようよ! 本当に女子が入ってきちゃうから」
「うん」
「ほら、早く! キスのことは、事故ってことで忘れよう!」
僕は、急いで着替えを取り出した。
ジュンは、まだぐずぐずしている。
「めぐむ、お願いがあるんだけど。もう一度キスしてくれない?」
「えっ? えー?」
「頼むよ!」
そう言うと、ジュンは唇を突き出し、僕にキスをねだってくる。
僕は思わず後ずさった。
が、机に引っかかり、ついに捕まってしまう。
「さぁ、さぁ」
ジュンは僕を抑え込む。
そして、そのまま顔を寄せる。
だめだ、もう逃げられない。
ジュンの唇が僕の唇に合わさった。
あぁ、またキスしちゃった。
もう、どうにでもして……。
僕は目を閉じた。
「んっ、んっ、んーーっ」
ジュンは、僕の閉じた唇を無理やり舌でこじ開けると、激しく吸い始めた。
その時、ガラガラっと教室の扉が開く音がした。
数人の女子が教室に入ってきた。
女子達と目が合った。
上半身裸で抱き合ってキスしている僕とジュン。
空気が固まる。
それをしばらく見ていた女子達は、
「ごめんなさい、お邪魔しました。ごゆっくり!」
と言うと、慌てて教室を出て行った。
そして、ガラガラっと扉の閉まる音。
外から、キャーという歓声にも似た声が聞こえてきた。
「あぁ、ジュン、こんな風に男同士が半裸でキスしているなんて、もう言い逃れできないじゃん。これ、見守り隊の思う壺だよ!」
「まぁ、こうなったらもうしょうがないよ。めぐむ、覚悟を決めて、さぁ、もう一度キスしよ!」
「ちょ、ちょっと、ジュン!」
「めぐむ、諦めわるいな」
「せめて服を着ようよ!」
そう言おうとして、ジュンの唇で口を塞がれてしまった。
でも、よかった。
ジュンが元気になって。
それに、あのジュンが、片桐先生より僕を選ぶなんて。
ちょっと嬉しい。
しようがないな……。
僕の精いっぱいのキスでジュンをおもてなししてあげようと思った。
ともだちにシェアしよう!