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2-22-2 束の間の遊園地(2)

そのままランチを取り、午後は園内をゆっくり散歩することにした。 手を繋ぎ、腕を組み、微笑み合い、楽しい時間がゆっくりと過ぎていく。 あぁ。 なんて、幸せなんだろう。 これで、僕は大丈夫。 きっと、大丈夫……。 ここの遊園地の目玉の一つにパレードがある。 パレードは、軽快な音楽にのせて、大きな山車が順番に練り歩いてくる。 いわば、園全体を使ったショーそのものだ。 山車だけでなく、周囲を彩る踊り子さん達のダンスも魅力的。 そのパレードが始まるということで、僕と雅樹は観覧ポイントへ移動した。 そこで、僕はいい事を思いついた。 「ねぇ、雅樹。どっちがいいパレードの写真が撮れるかで勝負しない?」 「いいねぇ!」 雅樹は、勝負には目がない。 思った通り乗って来た。 「ルールはどうする?」 雅樹が質問してきた。 そういえば、詳しくは考えてなかった。 「雅樹、何かいい案はない?」 「そうだな、じゃあ、自分の方に手を振っているキャラクターの写真で勝負な!」 「いいよ!」 パレードが始まった。 愉快な音楽とともに、デコレーションされた山車が、次から次へとやってくる。 山車に上に乗ったキャラクターやキャスト達は、周りのお客さんにまんべんなく手を振ってくれる。 でも、アピールしたほうが、向いてくれる可能性が高い。 僕と雅樹は、山車が来るたびに大声で声をかけ、思いっきり手を振る。 だけど、なかなかいいタイミングが来ないまま、中盤戦に差し掛かかった。 そこへ、絶好のチャンスが訪れた。 山車が、ちょうど間近に止まったのだ。 「チャンス到来!」 雅樹が叫んだ。 僕と雅樹は、大きくアピールを開始する。 「あっ、あのキャラクター! こっちに向かって手を振っているよ!」 僕は、山車の上にいるキャラクターを指さした。 「お姫様ー! 愛しているよー! こっち向いて!」 パシャ! 雅樹がシャッターを切る。 「ぶっ、何言っているの。よく見て! カエルのお姫様じゃない? ぷぷぷ」 「ちぇっ! いいじゃないかカエルだって、お姫様だろ?」 雅樹は、写りを確認している。 よし! っと小さくガッツポーズ。 そこへ、雅樹が僕の耳元でささやいた。 「あれ、あそこの王子様、めぐむに投げキッスしていないか?」 「えっ?」 僕は、振り向きざまにシャッターを切った。 パシャ! 「あれ? 王子様ってどこ? って、タコの王子様じゃん!」 「ははは。引っかかったな。仕返し!」 「もう!」 僕は写真の写りを確認した。 よし! タコの王子様だけど、写りは申し分ない。 パレードが終わり、結局、カエルのお姫様とタコの王子様の対決となった。 「うーん。これは、引き分けか?」 「そうだね。引き分けだね?」 僕達はお互いの写真を見比べているうちに、笑いが込み上げてくる。 「あの時の、雅樹の顔。ぷぷぷ」 「なに言っているんだ、めぐむだって。タコって知ったときの顔。あはは」 二人そろって、大笑いをした。 ほんと。 雅樹といると、楽しくて仕方がない。 夕暮れ時にさしかかり、そろそろレストランに行こうということになった。 レストランは予約してある。 キャラクターのショーを見ながらディナーが食べれるお店だ。 お店に入ると、なかなかいいテーブルに通された。 ステージが近い。 まずは、炭酸水で乾杯。 今日はすこし奮発して、コース料理を注文。 だから、二人してわくわくが止まらない。 「めぐむ、すごい楽しみだな!」 「うん!」 色合いが工夫された、オードブル。 つづく、美味しいコンソメスープでほっぺが幸せになり、数品出てきて、いよいよメインのお肉。 雅樹は、一口食べて歓声を上げた。 「ん! 美味い!」 「うん。お肉柔らかい。美味しい」 つづく、デザートにも驚かされる。 「やばい、このケーキもうまい!」 「ほんとうに、最高!」 ああ、幸せ。 雅樹と、こんなコース料理を食べれるなんて……。 ちょうど、食事が終わったところで、ショーが始まった。 「レディース・エンド・ジェントルマン!」 キャラクターのショーとはいえ、大人も楽しめる構成になっている。 お客さんに合いの手や、手足をつかった簡単な動作を求めてくる。 キャラクターのダンスとシンクロして会場全員を巻き込んで盛り上げる。 気分が乗ってすごく楽しい。 前振りのダンスが終わり、メインイベントが始まったようだ。 ステージの司会者が会場のお客さんに向かって問いかけた。 「お客様のなかで、手伝っていただける方はいますか?」 犬をモチーフにしたキャラクターのアシスタントを募集している。 雅樹は、僕の耳元でささやく。 「あれって、選ばれると出演者にいじられて、笑われちゃうやつだよね?」 「そうそう」 お客さんをいじって会場を沸かす、定番の盛り上げ方だ。 「どなたかいませんか? では、そこのあなた、お願いできますか?」 突然、雅樹が指名された。 雅樹は、「えっ、俺ですか?」と聞き返している。 こうなると、断るのは勇気がいる。 雅樹は、僕の顔をみた。 僕は、「頑張ってきてね、ご愁傷様」 と小声で応援した。 雅樹は「しょうがないか……」と言うと、ステージに上がって行った。 雅樹は、簡単な動きを教えてもらっているようだ。 そして、犬耳をつけると、キャラクターと一緒に踊り始めた。 いま覚えたとは思えないほどの切れのある動き。 さすが雅樹! 運動神経抜群で、キャラクターと見事にシンクロしている。 ステージの司会者も驚いた様子。 「すごい上手です。会場の皆さん、拍手を願いします!」 会場は大いに盛り上がった。 うんうん。 僕も鼻が高い。 雅樹は僕の方をみて、どうだ、という顔をしている。 僕は、グッジョブのサインを送った。 ステージの司会者は、さらに会場に問いかけた。 「それでは、もう一人手伝っていただける方はいらっしゃいますか?」 今度は、ネコのキャラクターのアシスタントのようだ。 司会者が会場を見回している。 さすがに同じテーブルから選ばれることはないだろう。 っと、僕はたかをくくっていた。 すると、ふと、司会者と僕の目が合ってしまった。 これは、やばい……。 「……それでは、そちらのお嬢さん、お願いできますか?」 はぁ。やっぱり……。 ということで、僕もステージに上がることになってしまった。 雅樹は、にやにやと、嬉しそうにこちらを見ている。 人の気もしらないで! 僕は、雅樹と違って、運動神経がないんだぞ! 僕は、ステージの端で、踊り方を教えてもらうのだけど、さっぱりわからない。 そうこうしているうちに、「それでは、ステージに上がりましょう!」と、猫耳をつけられた。 ステージに上がると、目の前には、大勢の人。 一手に注目を浴びている……。 ああ、こんなところで、本当に踊るの? 横目で雅樹を見ると、にっこりと笑いながらグッドサインを出している。 ああ、もう! 「はい、それではミュージックスタート!」 と、司会者の声がかかる。 曲が始まり、お客さんの手拍子。 もう、どうにでもなれ! 僕は、無我夢中で踊り始めた。 恥ずかしい。 こんな大舞台で踊るなんて、いつ以来? きっと、幼稚園の劇とかだよ……。 しばらく、踊っているいると、ある異変に気が付いた。 あれ? なんだか、僕ってお客さんの手拍子に乗れている? ステージの上で一緒に踊っている雅樹も僕を見て「やるな!」という顔つき。 後で分かったことだけど、素人のぎこちない動きが、可愛らしく見えるようになっているらしい。 「とても可愛いです! 会場の皆さん、お二人に盛大な拍手を願いします!」 大きな拍手が起こった。 どうやら僕達は、無事に主催者の希望通りに演じられたようだ。 ホッ、としてステージを降りると、前に出てきていた小さい子供達が「お姉ちゃん、かわいい!」って声をかけてくれた。 僕は、微笑みながら「ありがとう!」と頭を撫でてあげた。 テーブルに戻ると、雅樹とハイタッチをした。 「めぐむ、よかったぞ! 可愛かった!」 「ありがとう。雅樹もカッコよかったよ!」 体を動かしたからか、気持ちも高揚してテンションが最高潮。楽しい。 雅樹と一緒に、こんな人前で踊れるなんて! ああ、最高の思い出……。 ステージは最後まで盛り上がり、楽しいうちに、僕達はレストランを後にした。 辺りはすっかり暗くなり、あちらこちらで電灯がともっている。 夜の遊園地。 これはこれで、幻想的な雰囲気……。 僕達は、手を繋ぎながら、ゆっくりと出口へ向った。 「ねぇ、雅樹。今日はありがとう。本当に楽しかった!」 「俺もとても楽しかったよ!」 夜空を見上げた。 星がキラキラ輝いている。 よし! 大丈夫だ。 どんなときだって、この気持ちが支えになってくれるはず。 僕は、目をつぶり今日一日のことを思い起こした。 雅樹は、突然、話を切り出した。 「なぁ、めぐむ。何かあったのか? 最近、元気がなかったように見えたけど……」 ドキッ……。 さすが、雅樹だ。 見透かされている。 いつでも僕のことを見ていてくれる。 だからこそ、僕の些細な変化に気づいてくれるんだ。 嬉しいけど、今日だけは気づかないで……。 「ううん、大丈夫だよ、雅樹」 「今日だって、ちょっとはしゃぎ過ぎだったような気がしたから……ちょっと気になったんだけど……」 やっぱり、雅樹だ。 僕のことは、なんでもお見通し。 嬉しい。 本当に嬉しいよ。 嬉しくて、涙がでてくる。 だめだ。 この涙を雅樹に見られては……。 唇を噛んでグッとこらえる。 こらえるけど、涙が溢れてくる……。 だめ! 僕は、雅樹の手をすり抜けて、雅樹に背を向けた。 「大丈夫、何かあったら相談するから……」 僕は、辛うじてそう言うことができた。 でも、僕の頬には、涙が伝わっていた……。

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