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2-23-1 ある事件 再び(1)
豪間先輩とデートをすることを了承した。
そして、約束の日。
僕は女装をして、デートの約束の場所へ向かった。
約束の場所は、矢追 駅前の広場。
矢追駅は、矢追市の中心の駅で、美映留市のお隣の市。
矢追駅周辺は、劇場や映画館、ライブハウスなど文化的施設が充実している。
一方で、競馬、競輪など、公営競技場がある。
だから、色んな人達が集まる。
僕から見ると、混沌としている印象で、美映留に比べて少し治安が悪い。
その日は、雅樹からも会えないか、とデートの誘いがあった。
僕は嘘をついて断った。
雅樹、ごめん。
本当は、僕も雅樹とデートしたかったんだ……。
矢追駅に到着して待ち合わせの広場に向かった。
今日は、何事もなくやり過ごす。
だから、なるべく大人しくしている。
そう、今日の僕は、違う僕なんだ。
うん。
やれる!
広場に到着すると、豪間先輩は先に来ていた。
僕を見るなりいった。
「へぇ。本当に女みたいだな」
今日は、全くおしゃれするつもりなしの、平凡な格好。
スカートは条件だったからしょうがないけど、メイクも雅樹と会う時の半分の時間で済ませた。
豪間先輩は、僕を舐めまわすように見た。
そして、僕に近づき、耳元でささやいた。
「いいか、ちゃんと女言葉をつかえよ。『僕』とかいうと興ざめだからな」
顔が近い。
息がかかって、気持ちが悪い。
でも、我慢だ。
僕は軽く頷く。
「今日は、俺が行きたいところへ行くから。黙ってついてくればいいよ」
そう言うと、僕の手を無造作に握りしめた。
振りほどきたくても、ぐっと我慢する。
あぁ、雅樹以外の男の人と手を繋ぐ事になるなんて……。
繁華街を抜け、映画館に入った。
「いまの時間でやっているのはと……」
豪間先輩は、何も調べないで来たらしい。
タイムテーブルを眺めて、これでいいか、と恋愛映画を選んだ。
あぁ。この映画。
今度、雅樹と行きたいなぁ、と思っていたやつだ。
漫画が原作で、テレビやSNSにも取り上げられていた話題作。
なんで、豪間先輩なんかと……。
でも、意見を言えるような立場じゃないし、意見を言わないことがせめてもの抵抗。
「飲み物は買おうか? あぁ、いいよ。お金は払うから」
レジの順番が回ってきた。
「お客様、ご注文はお決まりですか?」
「ええっと。コーラと、お前は?」
僕は何も考えず「同じもので」と答えた。
店員さんは、コーラを準備しにレジを離れる。
「好きなものでいいんだぞ」
豪間先輩は耳元でささやく。
僕は、うんと頷いた。
映画が始まった。
冒頭から面白いシーンが次から次へと巡ってくる。
あぁ、隣にいるのが雅樹だったら、どんなに楽しかっただろうか。
しばらくすると、豪間先輩は僕の手を握りしめてきた。
我慢。
唇を噛む。
そして、僕の指の間を愛撫するように、ねっとりと触り始める。
気持ち悪い……。
そうしているうちに、僕の手を離れ、膝へ、そして太ももへ移った。
うっ……。
声を上げそうになるのを必至に我慢。
そして、スカートの上から太ももをなでるように触り始めた。
いやらしい手つき……。
豪間先輩を横目でみると、手の動きとは対照的に、涼しい顔をしている。
しばらくそうしていると、スカートの裾を手繰り寄せ、スカートの中に手を入れようとし始めた。
僕は、瞬時にスカートを抑える。
「やめてよ!」
豪間先輩を睨む。
豪間先輩は、僕がそうするのは予想の範囲だったようだ。
僕の耳元に顔を寄せてささやく。
「分かっているよな? 言うことを聞かないと……」
くっ、悔しい……。
目を閉じて、深呼吸をする。
すー、はー。
そうだ、違うことを考えよう。
今、ここにいるのは違う僕なんだ。
本当の僕は雅樹と一緒にいる。
だから、いいんだ。
僕は、スカートを抑える両手を緩めた……。
豪間先輩は、すかさず、手をスッとスカートの中に入れ、僕の股間をまさぐり始めた。
最初はショーツの上から、僕のペニスの形をなぞるように触り始める。
それに飽きると、今度はショーツの中に手を潜らせ、僕のペニスに直接触れた。
うっ。やめて……。
すー、はー。
深呼吸。
大丈夫……。
ここにいる僕は別の僕。
本当の僕は雅樹のもとにいる。大丈夫、大丈夫……。
豪間先輩は、頭をもたげた柔らかい僕のペニスをいじくり始めた。
僕は意識を遠く彼方まで飛ばし、ふと映画を眺めた。
映画は佳境になっていた。
主人公とヒロインはキスをしている。
あぁ、よかったね。
幸せになれて……。
豪間先輩は、僕の柔らかいペニスが気に入ったのか終始いじくりまわしていた……。
映画館を出た。
豪間先輩は、自分のお腹をさすりながら言った。
「お腹が空いたな。飯でもいこうか?」
映画の感想は特に無いらしい。
それはそうだろ。
ずっと僕のペニスをいじっていたんだから……。
映画館の近くのファミレスに入った。
僕は、まったく食欲がない。
豪間先輩は、メニューを片手に言った。
「好きなもの注文していいぞ。奢るから」
「ごめんなさい。あまりお腹が減ってない」
僕は、そう言ってメニューを閉じた。
「そういうわけにはいかないだろ。よし、適当に選んでやるよ」
僕からメニューを取り上げると、
「よし、これでいいか」
と言い、店員を呼んだ。
豪間先輩は、何やら店員に注文をしていたようだけど、僕は違うことを考えていた。
さっきの映画、もう一度、今度は雅樹と行って、嫌な思い出を上書きできるかな。
雅樹は柄にもなく、こてこての恋愛物が大好きだ。
きっと興奮して、キスシーンは固唾を飲んで見守るだろう。
そんな、たのしい想像をしていたのに、店員さんの声で現実に引き戻された。
注文の品がテーブルに揃った。
豪間先輩はステーキを頼んだようだ。
僕に出てきたのは、いかにも女の子ごのみのパフェだ。
デザートならお腹に入るかもしれない。
奢られるのは嫌だけど、まったく食べないのも豪間先輩を怒らせるだろう。
ここは、おとなしく素直に従うのが得策だ。
僕は、スプーンを手に取ると、パフェを食べ始めた。
それを見ていた豪間先輩は、満足そうに笑った。
「やっぱり、パフェで正解だったな。ははは」
それで、気持ちが高揚したのか、自分のことを話し始めた。
好きな漫画、アニメ、スポーツ、それに音楽や動画。
まったく興味はないけど、うなずいたり、同意を求められれば返事をした。
そういえば、雅樹は今日は何をしているかな。
せっかく雅樹のお誘いを、今日は断ってしまった。
僕がデートを断ったときの雅樹のビックリした顔が思い浮かぶ。
来週は、埋め合わせさせて。雅樹……。
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