47 / 55

2-23-4 ある事件 再び(4)

僕達はベンチに座った。 僕は、雅樹に頭を下げた。 「雅樹、ごめんなさい。僕が勝手な事をして。結局、豪間先輩にいいように弄ばれて、雅樹にまで迷惑をかけちゃった……」 「いいって。俺に迷惑にならないようにしたかったんだろ? それより、俺こそ、ごめん。めぐむがこんな事に巻き込まれていたのに全然気づけなくて……」 雅樹の言葉に、僕は首を振った。 「ううん……」 雅樹は、突然怒りが沸いてきたのか、少し声を荒げて言った。 「それより、めぐむ。大丈夫なのか? くそっ、豪間の野郎、めぐむの事いいように弄びやがって! くそ、くそ! ああー、殴り足りない!」 佐久原先生の時の事を思い出す。 あの時も、雅樹は怖いくらいに激怒した。 僕は、雅樹の肩に手を置いて言った。 「雅樹、僕は大丈夫。雅樹が助けに来てくれたから……雅樹こそ、手が赤くなっているよ。大丈夫?」 「このくらい……めぐむの痛みに比べたら、何て事はない」 雅樹は、拳をぱちぱちと手に当てて、ぐっと怒りを鎮めようとしていた。 僕はずっと考えていた事を口に出した。 「でも、雅樹。僕は凄く嫌な気持ちになったけど気付いた事があるんだ」 「ん?」 「僕は、女装をして、雅樹との距離をぐっと近づけられて、何もかもがうまく行って……。だから、今回の件も僕が一人で解決できると過信してた……でも、ぜんぜんだめだった……」 今日の事は少し思い出しただけでも悔し涙が出てくる。 僕は、それを我慢して話を続けた。 「僕は、分かったんだ。僕だけじゃダメなんだって。きっと、今までも雅樹が支えてくれてたからこそ、上手く出来ていたんだ。僕にとってどれだけ雅樹が大事か。それが、よく分かったんだ!」 僕は、雅樹の顔を見つめた。 雅樹は、驚いたように僕の顔を見つめ返していたが、すぐに、柔らかい表情になった。 「ははは。そっか。俺もだ。めぐむ……」 「えっ?」 「俺も、めぐむの事は、絶対に守ってやれると過信していた。でも、あいつに襲われそうなめぐむを見て、体が動かなかった。もしかしたら、めぐむがあいつとの関係を望んでいるのかも知れない。そうしたら、俺はこれからどうしたらいい? そんな事を考えたら、正直、怖くて怖くて体が震えた。俺は、めぐむがいないとつくづくダメなんだと自覚したよ」 雅樹らしくない弱々しい表情。 僕は、黙って聞いていた。 「めぐむが助けを呼ぶ声を聞いて、体に力がみなぎってきた。迷いが消えた。俺は何を恐れているんだって。めぐむを幸せにするのは俺しかいないはずなのに……。だから、俺にとって、めぐむがどれだけ大きい存在か、本当によくわかったよ」 「嬉しい。雅樹から、そんな言葉を聞けるなんて……」 雅樹は、恥ずかしそうに顔を赤らめた。 「ははは。ちょっと照れ臭いな」 「ふふふ。そうだよね。告白し合っているみたい」 「確かにな。ははは」 僕は、雅樹に抱き付いた。 そして、両手で雅樹の頬を包み込む。 「雅樹、キスして」 「ああ、いいとも」 僕達は、長い、長いキスをした……。 唇を離し、互いに微笑む合う。 お互いの愛の深さを確かめ合った。 今まで以上に固い絆が結ばれた。 そんな気がした……。 僕は、すっかり清々しい気持ち。 何故だかウキウキして、気持ちが高揚してジッとしていられない。 僕は、ベンチをピョンと降りて、体をクルッと回した。 スカートがフワッとして気持ちいい。 ふふふ。 新しい自分、新しい僕達。 もう、日は落ちて薄暗い街灯の下だけど、これから朝日を浴びて旅行へ出発する。 そんな新鮮な気持ち……。 雅樹も晴れ晴れした表情。 僕は、あっ、そうだ。と、雅樹に言った。 「それにしても、雅樹。豪間先輩を言い負かすシーン、カッコ良かったな。思い出すと、ドキドキしてきちゃうよ」 「ははは。そっか? ちょっとかっこつけすぎたかな?」 雅樹は、頭をかいた。 「ううん。ふふふ。それに、スマホで動画とかさすが雅樹!」 「ああ、あれね……あれ、嘘なんだ」 「へっ?」 僕は、驚いて目を丸くさせた。 「だって、言っただろ? ショックで途方に暮れていたって。そんな余裕あるわけないって……」 「そうなんだ。ぷっ、じゃあ、余計すごい! 全部ハッタリであの豪間先輩を負かしちゃったんだから……」 「あまり褒めるなって……照れるよ」 僕達は、大笑いした。 涙が目尻に溜まり、指で拭った。 きっと、可笑しいのと嬉しいのが混ざった、そんな、幸せの涙……。 ところで、僕は、もうさっきから、ある感情が沸々と溢れて来ている。 僕は、我慢出来ずに雅樹に話を切り出した。 「ねぇ、雅樹。僕、その……」 「どうした?」 上目遣いに雅樹を見る。 「豪間先輩に、体、触られちゃったんだ。だから、その……」 「分かっているって。こっちへ来いよ」 「うん!」 もう僕は、我慢出来ない! 我慢出来るわけがない! 僕は、すかさず雅樹の膝の上に跨った。 ここは、僕の特等席。 僕は、さっそく雅樹のズボンのボタンを外しにかかる。 雅樹は、僕のスカートの中に手を入れて、僕のお尻を愛撫。 クスッ。 雅樹は、好きなんだよな。僕のお尻。 雅樹が耳元で囁いた。 「なぁ、めぐむ」 「なぁに?」 「これからは、隠し事は無しだぞ!」 「うん! ごめんなさい、雅樹!」 「じゃあ、今日は嫌な事は全部忘れるくらいするからな!」 「うん!」 雅樹は、僕の鼻をちょんと突いた。 僕は、嬉しくて、嬉しくて、にんまりと笑った。 *「めぐむ君の告白」第二章 完

ともだちにシェアしよう!