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2-23-4 ある事件 再び(4)
僕達はベンチに座った。
僕は、雅樹に頭を下げた。
「雅樹、ごめんなさい。僕が勝手な事をして。結局、豪間先輩にいいように弄ばれて、雅樹にまで迷惑をかけちゃった……」
「いいって。俺に迷惑にならないようにしたかったんだろ? それより、俺こそ、ごめん。めぐむがこんな事に巻き込まれていたのに全然気づけなくて……」
雅樹の言葉に、僕は首を振った。
「ううん……」
雅樹は、突然怒りが沸いてきたのか、少し声を荒げて言った。
「それより、めぐむ。大丈夫なのか? くそっ、豪間の野郎、めぐむの事いいように弄びやがって! くそ、くそ! ああー、殴り足りない!」
佐久原先生の時の事を思い出す。
あの時も、雅樹は怖いくらいに激怒した。
僕は、雅樹の肩に手を置いて言った。
「雅樹、僕は大丈夫。雅樹が助けに来てくれたから……雅樹こそ、手が赤くなっているよ。大丈夫?」
「このくらい……めぐむの痛みに比べたら、何て事はない」
雅樹は、拳をぱちぱちと手に当てて、ぐっと怒りを鎮めようとしていた。
僕はずっと考えていた事を口に出した。
「でも、雅樹。僕は凄く嫌な気持ちになったけど気付いた事があるんだ」
「ん?」
「僕は、女装をして、雅樹との距離をぐっと近づけられて、何もかもがうまく行って……。だから、今回の件も僕が一人で解決できると過信してた……でも、ぜんぜんだめだった……」
今日の事は少し思い出しただけでも悔し涙が出てくる。
僕は、それを我慢して話を続けた。
「僕は、分かったんだ。僕だけじゃダメなんだって。きっと、今までも雅樹が支えてくれてたからこそ、上手く出来ていたんだ。僕にとってどれだけ雅樹が大事か。それが、よく分かったんだ!」
僕は、雅樹の顔を見つめた。
雅樹は、驚いたように僕の顔を見つめ返していたが、すぐに、柔らかい表情になった。
「ははは。そっか。俺もだ。めぐむ……」
「えっ?」
「俺も、めぐむの事は、絶対に守ってやれると過信していた。でも、あいつに襲われそうなめぐむを見て、体が動かなかった。もしかしたら、めぐむがあいつとの関係を望んでいるのかも知れない。そうしたら、俺はこれからどうしたらいい? そんな事を考えたら、正直、怖くて怖くて体が震えた。俺は、めぐむがいないとつくづくダメなんだと自覚したよ」
雅樹らしくない弱々しい表情。
僕は、黙って聞いていた。
「めぐむが助けを呼ぶ声を聞いて、体に力がみなぎってきた。迷いが消えた。俺は何を恐れているんだって。めぐむを幸せにするのは俺しかいないはずなのに……。だから、俺にとって、めぐむがどれだけ大きい存在か、本当によくわかったよ」
「嬉しい。雅樹から、そんな言葉を聞けるなんて……」
雅樹は、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「ははは。ちょっと照れ臭いな」
「ふふふ。そうだよね。告白し合っているみたい」
「確かにな。ははは」
僕は、雅樹に抱き付いた。
そして、両手で雅樹の頬を包み込む。
「雅樹、キスして」
「ああ、いいとも」
僕達は、長い、長いキスをした……。
唇を離し、互いに微笑む合う。
お互いの愛の深さを確かめ合った。
今まで以上に固い絆が結ばれた。
そんな気がした……。
僕は、すっかり清々しい気持ち。
何故だかウキウキして、気持ちが高揚してジッとしていられない。
僕は、ベンチをピョンと降りて、体をクルッと回した。
スカートがフワッとして気持ちいい。
ふふふ。
新しい自分、新しい僕達。
もう、日は落ちて薄暗い街灯の下だけど、これから朝日を浴びて旅行へ出発する。
そんな新鮮な気持ち……。
雅樹も晴れ晴れした表情。
僕は、あっ、そうだ。と、雅樹に言った。
「それにしても、雅樹。豪間先輩を言い負かすシーン、カッコ良かったな。思い出すと、ドキドキしてきちゃうよ」
「ははは。そっか? ちょっとかっこつけすぎたかな?」
雅樹は、頭をかいた。
「ううん。ふふふ。それに、スマホで動画とかさすが雅樹!」
「ああ、あれね……あれ、嘘なんだ」
「へっ?」
僕は、驚いて目を丸くさせた。
「だって、言っただろ? ショックで途方に暮れていたって。そんな余裕あるわけないって……」
「そうなんだ。ぷっ、じゃあ、余計すごい! 全部ハッタリであの豪間先輩を負かしちゃったんだから……」
「あまり褒めるなって……照れるよ」
僕達は、大笑いした。
涙が目尻に溜まり、指で拭った。
きっと、可笑しいのと嬉しいのが混ざった、そんな、幸せの涙……。
ところで、僕は、もうさっきから、ある感情が沸々と溢れて来ている。
僕は、我慢出来ずに雅樹に話を切り出した。
「ねぇ、雅樹。僕、その……」
「どうした?」
上目遣いに雅樹を見る。
「豪間先輩に、体、触られちゃったんだ。だから、その……」
「分かっているって。こっちへ来いよ」
「うん!」
もう僕は、我慢出来ない!
我慢出来るわけがない!
僕は、すかさず雅樹の膝の上に跨った。
ここは、僕の特等席。
僕は、さっそく雅樹のズボンのボタンを外しにかかる。
雅樹は、僕のスカートの中に手を入れて、僕のお尻を愛撫。
クスッ。
雅樹は、好きなんだよな。僕のお尻。
雅樹が耳元で囁いた。
「なぁ、めぐむ」
「なぁに?」
「これからは、隠し事は無しだぞ!」
「うん! ごめんなさい、雅樹!」
「じゃあ、今日は嫌な事は全部忘れるくらいするからな!」
「うん!」
雅樹は、僕の鼻をちょんと突いた。
僕は、嬉しくて、嬉しくて、にんまりと笑った。
*「めぐむ君の告白」第二章 完
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