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サイドストーリー2 めぐむキューピッド(1)

今は夏休み。 僕は雅樹とのデートが終わり、ムーランルージュへ戻ってきた。 僕はホッとひと息ついて着替えをする。 メイクを落としたところでちょうどアキさんが姿を現した。 「おはようございます、アキさん」 僕はアキに挨拶をする。 アキさんは、驚いた顔をした。 「おはよ、めぐむ。あれ? もう、帰り? 今日は早いわね。彼と喧嘩でもした?」 「いいえ、今日のデートは午前中だけなんです。彼は部活なので」 「へぇ、そうなんだ……」 「こんなに暑いのに部活なんて、可哀想ですけど。ふふふ」 「そうよね。でも、汗を流している彼って素敵じゃない?」 「はい! 僕は好きです。汗を拭いてあげたくなります!」 「うんうん。なんか青春っぽい!」 「はい! 青春ですから」 アキさんと僕はクスクスと笑い出す。 落ち着いたところで、アキさんは、ああ、そうだ、と手を拍った。 何か思いついたようだ。 「めぐむ、ちょっとお使いお願いできないかしら?」 アキさんが僕に頼み事なんて珍しい。 僕は嬉しくて内容を聞かずに即答した。 「はい、いいですよ!」 「やった! 助かるわ。駅の反対側なんだけど……」 お使いの詳細を聞く。 ファニーファクトリーというお店へ行き、浴衣コスを受け取って来るというものだった。 僕は、さっそく、ムーランルージュを飛び出し駅へ向かった。 目的地のファニーファクトリーは、美映留中央駅の反対側にある。 僕は、初めて見る風景に少しワクワクしていた。 ムーランルージュやショッピングモールがある方は、大きなバスロータリーがあって、駅ビルやデパートなど大型の商業施設が建ち並ぶ。 でも、反対側はこじんまりとしていて、スーパーマーケットとファミリーレストラン、それにコンビニがあるだけで、すぐにマンション等の住宅地になっている。 僕は、スマホのマップを確認しながら駅前通りを進んだ。 しばらく歩くと、目の前に公園が見えてきた。 「こんなところに公園。ブルーベリー公園って言うのか……」 チェリー公園と同じぐらいの大きさ。 遊具の種類やベンチの配置もどことなく似ている。 真夏の暑い昼間。 熱中症が怖いからか、誰も遊んでいない。 僕は、木陰を探しながら公園の中を歩いた。 そこへ、一人の女の子が公園に入ってくるのが見えた。 あれ、あの子、何処かで見たような……。 真っ直ぐ僕に方へ向かってくる。 あれ? やっぱり、知り合い? その子は僕の前で立ちどまった。 「お久しぶりです! めぐむさん」 女の子は満面の笑みを作る。 「えっと……」 確かに、どこかで見た子なんだけど、すぐに思い出せない。 僕が困っていると、女の子は言った。 「僕です。リクです。チェリー公園以来ですね」 「あー、リク君か! 久しぶり!」 記憶が蘇る。 そうだ。 シロと付き合っていた男の子。 引っ越したはず。 という事は、この辺の家の人に引き取られたのかな。 僕は改めてリク君の姿を見た。 可愛いフリルがついた女の子の服を着ている。 鈴のついたチョーカー。 とても似合っていて、物凄くかわいい! 僕は、テンションが上がり思わず手を叩いた。 「可愛い、リク君!」 「本当ですか? 嬉しいです!」 リク君は、嬉しそうににっこりとする。 でも、女の子の格好って、もしかして……。 僕は、慌ててリク君のスカートをめくった。 「きゃっ!」 リク君の小さな悲鳴。 大変だ! もしかしたら、ぺニスなくなった? 小さい紐のショーツ。 僕はそっとずらす。 小さくて可愛いぺニスが顔を覗かせた。 「良かった!」 僕は、ホッと息を漏らした。 「あの、めぐむさん? 恥ずかしいです……」 リク君は、顔を真っ赤に染めている。 しまった! 僕は、慌ててスカートの裾を離した。 「あっ、ごめんね! もしかしたら、その、ぺニス取られちゃったかも? って思って……」 リク君も僕が何を心配したのか分かったようだ。 「ああ、大丈夫です。ちゃんと男の子のままです」 リク君は、身なりを整えながら答えた。 僕はあごに手を置き、考えこみながら言った。 「うん。良かった。でも、どうして女の子の格好なんだろう?」 「それは、ご主人様の僕に対してのイメージなんです。女の子のように思っているのだと思います」 「へぇ、そうなんだ。面白いね」 なるほど、飼い主と飼い猫の関係って、そうなるのか。 僕は感心してうなずいた。 リク君は、組んだ両手を胸の前に置いて、心配そうな顔をした。 「ところで、めぐむさん。ユキさん、無事だったでしょうか?」 「ユキ? あぁ、シロね。元気、元気。ピンピンしているよ」 僕は、大袈裟に手を広げて答える。 「そうですか。良かった。無事で……」 リク君は、ホッとした表情をした。 そして、ところで、と言葉を続ける。 「今、めぐむさん、ユキさんのことシロって?」 「あぁ、シロって僕が勝手に名前付けたんだ。だから、僕はシロって呼んでいるの」 「そうですか! ユキさんもついに名前を貰えたんですね。良かった!」 名前を貰えることがどういいのか分からないけど、リク君の喜ぶ顔と見て、僕もつられてにっこりとした。 リク君は、ころころと表情を変える。 確かに可愛い。 シロがべた惚れしちゃうのもわかる気がする。 リク君は、言った。 「そうだ、めぐむさん、僕もいまクロって名前になったんです!」 「クロ君か。かわいいね!」 「ありがとうございます!」 クロ君ね。 シロにクロか。丁度いいじゃない。 そんなことを考えていて、ふと大事なことを思い出す。 あ、そうだ。 お使いで来たんだった。 僕は、リク君に言った。 「あっ、リク君! 僕は、用事があるんだった。行くね」 「はい。またお会いしたいです!」 リク君の表情から、これで縁を切りたくない、また会って欲しい、という、すがるような気持ちを感じた。 中央駅の逆口なら、また会う機会だってあるだろう。 僕はリク君に質問した。 「この公園の近くに住んでいるの?」 「はい」 「それなら、今度、シロをさそって遊びに来るね」 リク君の顔が瞬く間に明るくなる。 「ほっ、本当ですか! 是非、お待ちしています!」 興奮気味のリク君に、僕は内心ちょっとホッとした。 でも、確かめずにはいられない。 「ねぇ、リクじゃなくてクロ君、ひとつだけ聞かせて。シロの事、今ではどう思っているの?」 「もちろん愛しています。いままでも、これからもずっと。僕は、シロさん以外考えられませんから」 ああ。よかった。 まだ両想いのままなんだ。 「そっか。良かった、シロに聞かせたら喜ぶよ。シロもまだ恋人いないみたい。クロ君に未練タラタラだから」 僕はウインクして見せた。 「嬉しいです!」 クロ君は、目に涙をためてうるうるとしている。 ああ、クロ君もずっとシロのことを思い、一日千秋の思いで恋焦がれていたんだ。 僕もなんだか目頭が熱くなってくる。 「あっと、本当に行かなきゃ。またね、クロ君」 「はい。また!」 僕はクロ君に手を振り、小走りで目的の方へ向かった。 こんなところでクロ君に会えたのは、いい偶然だった。 シロのやつ、きっと喜ぶぞ! ふふふ。 でも、そっか。 連れて来るって言っても、シロを電車に乗せる訳にはいかないな……。 これは作戦を考えないと。 それにしても……。 引っ越しって言っていたからもっと遠くかと思ったけど、中央駅とは。 結構近かったんだね。 僕はそう思ったけど、すぐに気が付く。 まぁ、猫だったら十分、遠いか……。

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