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3-02-3 修学旅行(3)

夕食とお風呂の時間が過ぎ、おのおの部屋へ引き上げていく。 僕達4人も部屋に戻った。 今日あったことや明日の日程なんかを話しているうちに、あっという間に消灯時間が近づく。 そして、修学旅行と言えば、定番の告白大会。 まずは、翔馬が告白を始めた。 「俺さ、実は、うちのクラスの黒川さんのことがさ好きなんだよ。去年も同じクラスでさ」 3人は、黙って聞いている。 「あいつさ、彼氏いないと思うんだよね……」 黒川さん。 黒川 響子(くろかわ きょうこ)は、確か美術部だったか。 文化部の割にはハキハキとした活発なイメージがある。 雅樹は相槌を打った。 「なるほど。確かに可愛いな……」 ジュンが言った。 「可愛いとは思うけど、ボクは、ちょっと苦手だな。日直が同じだった時『ハキハキやりなさいよ。男でしょ』って怒られたことがある」 翔馬は、ははは、と笑う。 「ごめん、ごめん。それ、言いそうだな、黒川さんは。その男勝りってところがいいんだよ。なんか、変に作ってないところがさ」 翔馬の言いたいことはよくわかる。 結局は、その人の地のところに惹かれるんだ。 僕がうんうん、うなずいていいると、翔馬が言った。 「そうだろ。めぐむとは同志になれそうだ。よし、じゃあ、次、めぐむの好きな人はどうなんだ?」 一同、僕に注目した。 以前に、僕は雅樹に相談をしたことがある。 僕は、ジュンに雅樹のことを言うべきかどうか悩んでいた。 あの上級生の事件がきっかけになり、やっぱり雅樹に相談しようと思い立ったのだ。 「相沢を信用するのはいいと思う。そこまで信頼できる友達は大事だ」 雅樹は続ける。 「でも、大事だからこそ、俺達二人の秘密を一緒に背負わすのは気が引ける。ずっと、俺達のために気を遣わせてしまうのだから」 なるほど。僕も同じ思い。 雅樹との関係を話してもジュンの態度は変わらないだろう。 一緒に秘密を守ってくるだろう。 そんな大事な友達だからこそ。 僕は納得した。 「うん、いつか話せる時が来るまで、秘密にしよう」 ただ、雅樹は、他校に彼女がいるという噂通りでいいとして、僕はどうすればいいだろう。 あからさまな嘘をついてまで誤魔化したくない。 雅樹はそれなら、とこう提案した。 「俺が、他校の女子生徒と付き合ってるわけだから、めぐむはその他校の女子生徒の気持ちになればいいんじゃないか?」 つまり、雅樹が言うには、僕は、他校の生徒の雅樹に恋をしている、憧れている。って事でどうか? という案。 架空な人物を無理に作りあげて、好きなイメージをもつのは難しい。 でも、これならできそうだ。 雅樹が他校にいると思えばいいだけなのだから。 「好きな人というか、ずっと憧れている人はいるんだけど、他校の人なんだ」 翔馬の質問に僕はそう答えた。 翔馬は、「ふむふむ。他校ね。憧れってことは、年上か?」と聞いた。 「年上ではないけど。でも僕よりは大人っぽいかな」 僕は雅樹のことを率直に答える。 ジュンは、なるほど、なるほど、と、うなずくと、応援しているよ、と訳知り顔で僕の肩をたたいた。 僕の初恋の男の子をイメージしているようだ。 雅樹は黙って聞いている。 翔馬は、これ以上聞いても面白みはないなと判断したのか、 「まぁ、頑張れ。でも、付き合うことになったら紹介してくれよな」 と言って僕の番を閉めた。 翔馬は、雅樹とジュンの顔を見て、さてどっちからと思案していると、雅樹が「じゃあ、俺の番かな?」と切り出した。 翔馬はあからさまに嫌な顔をした。 「お前は彼女持ちだからな。まぁいいか。話せよ」 雅樹は、まぁそう言うなよ、と話し始める。 どう話すのか僕も楽しみだ。 雅樹は話し出す。 「俺の彼女は、まぁ、強情で頑固だな」 僕は驚いた。 いきなり、それを言うか。 まぁ、確かに僕は頑固なところはある。 二人は黙って聞いている。 「そして、寂しがり屋で泣き虫だな」 僕は、ちょっと雅樹をにらんだ。 確かに、それもあたり。 でも、そんなの言わなくてもいいではないか。 雅樹は、僕の事なんかお構い無し。 澄ました顔でそのまま続ける。 「でも、思いやりがあって、一緒にいるとあったかくなるんだ」 雅樹は一同をみて、最後に僕の顔をみた。 これなら悪くないだろって顔だ。 翔馬は、「わかった。わかった」と言った。 「おのろけは、いいんだ」 ぴしゃりと言う。 「で、どこまでいったんだ?」 にやにやしながら聞いた。 ジュンも気になっているらしい。 興味深々だ。 雅樹は得意げに言う。 「まぁ。キスはまぁ当然だな」 翔馬は「おう、それでそれで」と促す。 雅樹は続ける。 「当然、胸だってさわるし、体の隅々まで触るな」 僕は、顔が赤くなってきた。 一同かたずの飲む。 「で、もちろんエッチもする」 翔馬とジュンは、「おー」と称賛の声を上げた。 二人とも楽しそうだ。 そこで終わればいいのに、翔馬は尚も続ける。 「それでさ、彼女はいやらしいから、自分から、ねだってくるんだよ。まったく、エッチで困るよ」 僕は声をあげそうになった。 たぶん、恥ずかしくて耳まで赤くなっている。 雅樹は、僕の反応を明らかに楽しんでいる。 ジュンも、いろいろ想像したのだろう。 自分も恥ずかしい、そんな表情をして顔を赤らめた。 翔馬は「ちぇ、うらやましい限りだ」と言うと、「おれも黒川さんとそうなるぞ!」と一人気合を入れた。 ちょっと間が空き、ジュンが、じゃあボクもと話し始めた。 僕は驚いた。 ジュンは、雅樹と翔馬に、片桐先生が好きなことを正直に告白したのだ。 ジュンはもしかして、この修学旅行のどこかで、この機会を待っていたのかもしれない。 ジュンのこんな真面目な性格に、僕は惹かれてしまう。 雅樹はともかく、翔馬はどう思ったのか、僕は気になった。 翔馬は意外にもこう言った。 「そうか、それは大変だな……」 茶化したり、バカにするようなことは一切ない。 親身になって考えている。 「先生というのもそうだが、男同士だもんな……」 雅樹も翔馬と同じような態度だ。 うんうんと頷いている。 ジュンは、二人のことを本当に信頼して話したのだ。 そんな二人に聞いてほしかったのだ。 表情は晴れ晴れしている。 そう、僕に告白をしてくれた時と同じ……。 翔馬は言った。 「まぁ。でも、好きになったんだから、仕方ない」 ジュンは頷く。 雅樹は、「先生のどこが好きになった?」と聞いた。 「うん。真剣なところかな。授業もそうだけど、その、」 僕の方をちらっとみる。 「生き方とかも……」 ジュンは、自分で言ってすこし照れてうつむいた。 雅樹は、「そっか、きっと俺達では見えてない先生のいいところがジュンには見えているってことだな」と言い、 「それこそ、まさに愛ってことかもな!」と続けた。 ジュンは嬉しそうに頷く。 僕は、ジュンの告白と、それに対する二人の態度に感動していた。 それと同時に、胸につかえているものを考えずにはいられない。 僕と雅樹のこと。 翔馬とジュンにはまだ話せない……。 ごめんなさい。 僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。 その後、程なく先生が消灯を言いに部屋を回っている声が聞こえた。 僕達は、急いで電気を消して布団に入った。 僕は、布団の中で、今日あった出来事、さっきはなした告白のこと、いろいろなことを思い浮かべた。 この修学旅行はジュンや翔馬とたくさん話せて、そして、とても仲良くなれた。 それだけでも僕にとって、とても有意義で心に残る旅になったと思う。 それはそうと……。 僕は、みんなの告白を聞いて、心が少し昂ぶっていた。 小康状態だった雅樹に甘えたい病が再発したのだ。 雅樹は、もう寝たかな? 昨晩は、雅樹の布団に行くかどうかで一晩中ヤキモキした。 でも、今日は絶対に行くぞ、と心に決めていた。 誰かの寝息が聞こえてきた。 僕はすかさず雅樹の布団に潜り込む。 雅樹は、待っていてくれた。 「いらっしゃい、めぐむ」 「お邪魔します……雅樹」 僕は、雅樹の腕の中に体を埋めた。 あったかい……。 朝、目が覚めた。 目を開けると、翔馬とジュンが枕もとから僕の顔を覗いていた。 「あれ? どうして、めぐむは雅樹の布団に入っているんだ?」 「えっ?」 しまった! 朝になる前に自分の布団に戻るはずだったのに……。 「その、えっと……」 これは、まずい。 しかも、昨晩は遅くまでエッチな事をしていた訳で、浴衣がはだけて乱れている。 絶体絶命のピンチ。 雅樹もいつの間にか目を覚まして、しまった、という顔をしている。 僕は、何か言い訳を考えなきゃいけないのに、頭の中は真っ白。 そんな中、翔馬が突然笑い出した。 「ははは。まぁ、良かったよ。雅樹とめぐむが仲良くなれて」 「うんうん」 ジュンもにこやかな表情で僕達を見つめる。 翔馬は、腕組みをして言った。 「ジュンと心配してたんだよ。お前たち二人、大丈夫かって」 「そうだよ。めぐむ。雅樹とあんまり仲良くなさそうだったから心配してたんだ。翔馬とね」 僕は、呆気にとられた。 雅樹も口をあんぐりと開けている。 僕達の仲は、バレているの!? さぁっと血の気が引くのを感じた。 「それにしても、めぐむはどんな寝相だよ、それ」 翔馬は、ぷっと吹き出した。 ジュンも笑い出す。 「半裸だしね。めぐむは、脱ぎ癖とかあるんだね。意外」 「それに、雅樹もさ。よく、人が布団に入ってきているのに平気で寝られるな。大物なのか、鈍感なのか。ははは」 「わかった! めぐむは、裸で寝て寒くなって、雅樹の布団にもぐり込んだんでしょ?」 翔馬とジュンは、黙っている僕達に言いたい放題。 でも……ホッとした。 ああ、そうか……。 勘違いしているだけか。 付き合っている事がバレたかと思って生きた心地がしなかったよ……。 雅樹をみると、雅樹もホッとした表情を浮かべている。 「もう! みんなからかわないでよ! 枕が変わって緊張してたの! たまたまだからね!」 僕は、頃合いを見計らって怒ったように声を上げた。 「そっか……ごめん、ごめん」 「うん。確かに、言い過ぎた。めぐむ、ごめんね」 翔馬とジュンは、素直に謝った。 「分かればいいんだ! さぁ、朝ご飯、行こうよ!」 僕は、立ち上がって皆を先導する。 僕が振り返ると、雅樹と目が合った。 僕は、満面の笑顔でウインクを送った。

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