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3-02-4 修学旅行(4)
修学旅行の最終日。
いくつかの観光地を回り、最後の観光スポットである伏見稲荷にやってきた。
ジュンはこれまで、オカルト体験と言えるような事にはまだ遭遇することが出来ず、是非ここで。と力が入っている。
翔馬も、修学旅行中に黒川さんと仲良くなりたいと言い続けていて、ここが最後のチャンス。っと、気合い十分。
僕達は、お稲荷さんの本殿にお参りすると、楼門の前で記念撮影をした。
「みんな、申し訳ない。俺はここで別行動したいんだけど……」
翔馬は、拝む手つきをして頭を下げる。
僕達は顔を見合わせた。
「もちろんいいぞ」
雅樹が即答する。
「黒川さんでしょ? がんばって!」
ジュンは言う。
「翔馬、頑張って。応援してる!」
僕も声をかけた。
そして、ジュンも切り出す。
「ボクもなんだけど、いい? どうしても、ここでなにかを掴みたいんだ」
「ジュン、分かっているよ。行って来なよ」
僕は、ジュンの肩に手を置いて言った。
雅樹も、うん、と頷いた。
そして、二人に向かって声をかけた。
「二人とも頑張れ! 悔いが残らないように! じゃあ、時間になったらここで待ち合わせで」
翔馬とジュンは、うんと固く頷くと、それぞれ足早に去っていった。
僕は、雅樹の顔を見てにっこりと笑った。
「また二人きりになれたね」
「そうだな。いこっか」
「うん!」
まずは千本鳥居に向かう。
伏見稲荷の目玉。
「これは、すごいな! めぐむ。まさに鳥居のトンネルだな」
「本当に、すごい。神秘的だよね」
僕と雅樹はキョロキョロしながら歩く。
前から迫ってくる鳥居の列に、吸いこまれるよう。
「これ、いつの間にか異世界に繋がっていたなんていっても信じるな」
「ふふふ。そうだね。ジュンもきっといいものが見つかるかもね」
歩きながら雅樹は言った。
「ところで、翔馬の好きな人って、黒川さんだったんだな」
「うん。あっ、そっか、雅樹も知らなかったんだね」
「そうそう。クラスで気になる子がいるっていうのは聞いていたんだが……」
そうだ。
新学年の最初、翔馬が誰が好きかで雅樹と話したことがあった。
「俺は、もしかしたら実はやっぱり、めぐむのことが好きなんじゃないか、と少し疑っていたんだけど」
「ふふふ。じゃあ、安心した? 強力なライバルが減って」
僕は、冗談まじりに言った。
「なんだよ。めぐむだって、実はがっかりしたなんてことはないんだよな?」
「ないよ。でも……」
僕は鳥居の一つに触れた。
「翔馬って、雅樹が言った通り、いい人だよね。友達になれて本当によかった。きっと、雅樹の友達じゃなかったらこんなに仲良くなれなかったと思う」
雅樹は頷く。
「それは、ジュンのことも同じだぞ。あんな素直ないい奴、いないもんな。きっと、翔馬もジュンと友達になれたことを嬉しがっていると思うぞ」
「そうだね。いい旅だったね……」
僕達がしみじみ話していると、外国の方から写真を取ってほしいと声をかけられた。
雅樹が写真を撮ると、お返しにということで、僕はスマホを渡してツーショット写真を撮ってもらった。
「いい写真とれたね。これはプリントして飾ってもいいかも!」
僕は満足気に写りを確認する。
「確かに、いい感じだな!」
雅樹も同意した。
すこし先に進み奥の院にたどり着いた。
「あれ、おもかる石だよ」
人だかりができている。
「重さで願いがかなうかどうかわかるとか」
「へぇ、面白いね」
僕は、これまで歩いてきた中でキツネの像がたくさんあることに気が付いた。
「お稲荷様だけあって、かわいいキツネの像がほら、あそこにも」
「本当だ。キツネかわいいな」
これからどこに行くか相談して、まだ先にいってみようという話になった。
奥の院より先は観光客はだいぶ減ってくる。
「なぁ、めぐむ」
「なに? 雅樹」
「手、つながない?」
「えっ、でも」
「ほら、もうあまり人いないし、それに、みんな他人のことなんて見ていないと思うんだよ」
「たしかに……繋いじゃおっか」
僕と雅樹は手を伸ばし手を繋ぐ。
あぁ。
久しぶりに雅樹と手を繋いだ。
温かい。
そういえば、男同士で手を繋ぐシチュエーションは最近ない。
だから、とても新鮮。
ちょっと大胆に、指を交互に合わせて恋人繋ぎをする。
互いに見合い、ニコッと微笑んだ。
雅樹の手の温もりを心地よく感じながら、先へ先へと進んでいく。
「めぐむ」
「なに?」
「それにしてもさ、人少なくない?」
「たしかに……誰にもすれ違わないね」
僕達、不審に思いながらも先に進む。
「あれ? あそこにいるの、キツネじゃない?」
いつ現れたのだろう?
目の前に一匹のキツネがいて、こちらを見ている。
そして、僕達が気づいたのを見計らったように歩き出した。
「あのキツネ、なにか巻物のようなものを咥えているぞ」
「ついて行ってみようよ!」
僕と雅樹は手を繋いだまま、キツネの後を追う。
キツネは、時折振り返って僕達を確認している。
「僕達を道案内してくれているみたいだね」
「めぐむ、あそこ。何か見えない?」
そこはお社 になっていて、小さいながらも神秘的なオーラのようなものを放っている。
「雅樹、こんなお社あったかな?」
僕は、地図をイメージしながら言った。
返事が来ないので、ふと、雅樹の方を見ると、雅樹の姿が見当たらない。
「あれ、雅樹。どこ?」
僕は不安になって、声を出して雅樹の名前を呼ぶ。
その時、目の前に、白装束に身を固めた色白の男性が立っていた。
「私は、この社でお稲荷様にお仕えする者です」
声の主は言った。
僕は、声を出せず、立ち尽くしている。
「お連れの方は、あなたには見えないだけでそこに居りますよ」
そういえば、手には確かに雅樹の手の温もりを感じる。
僕は、やっとのことで声を出した。
「ここはどこですか?」
「ここは、現世とあの世の間の虚の世界。でも、心配は入りません。元に戻れます」
その白装束の人は続けて言う。
「ただし、気を付けなくてはいけません。絶対にその手を離さないように。もし、離してしまったら、元の世界では二度と会えなくなってしまいます」
僕は、それを聞いてすぐに雅樹の手をぎゅっと握りしめる。
そうすると、握り返されたような気がした。
「ここにあなたを呼んだのは他でもありません。あなたにお告げを伝える為です」
「お告げ?」
「そうです。あなたとお連れの方の未来に関わることです」
「僕と雅樹の未来……」
「それではお稲荷様からのお告げを申し上げます」
僕は固唾を飲む。
白装束の人は口を開いた。
「これから、良いこと、悪いこと、色んな出来事が起こります。でも、あなたは常に素直な気持ちで接していれば、困難を乗り越え、より良い未来が訪れるはずです」
「素直な気持ち……」
「いいですね。素直な気持ち。忘れないように」
その時、眩い光が辺りを包んだ。
と思った瞬間。
元の場所、きっと雅樹と手を繋いだ場所に戻って来た。
隣を見ると雅樹がいる。
雅樹もこちらを見ている。
「雅樹、僕、今変な夢を見ていたようなんだけど」
「俺もだ。もしかして、不思議なお社で話をした?」
「うん」
「そっか。何か言われた?」
「僕は、素直な気持ちでいなさい、って」
「俺は、めぐむに無理をさせないように、って」
「不思議な感じだった」
「あれは一体何だったんだろうな」
「お稲荷様の御導き、なのかな?」
「そうかもな。おっと、そろそろ、集まる時間だ」
「本当だ! 急ごう!」
僕と雅樹は、足早に元の楼門へ向かった。
「いやー、黒川さんに声をけたんだけど、驚かれちゃってさ。ガードが固そうでさ。徐々に仲良くなっていかないとな!」
そう言う割に翔馬は嬉しそうだ。
まずは話せたのが嬉しかったようだ。
ガードが固いっていうのは、心当たりがある。
きっと、例の見守り隊が関係しているに違いない。
黒川さんは、好きとか嫌いとかはさて置き、制裁を恐れている。
十分にあり得ることだ。
「こっちはさ、お稲荷様のお告げが聞けるって噂を聞いたんだけど、何か条件があるのか、結局はわからなかったよ」
ジュンもそう言う割にガッカリしていない。
きっと、このお告げの噂自体が、手帳には書いていない新情報なのだろう。
あれ?
お告げって!?
僕は雅樹を見た。
雅樹もこちらを見ている。
話してしまおうか?
でも、雅樹は首を振っている。
うん。
そうだね。
僕達の未来のことだもんね。
「さあ、皆行こうぜ! お土産を買う時間、なくなっちゃうからな」
翔馬の掛け声に、皆急ぎ足となった。
今日で帰路につく。
修学旅行、いろんなことがあって、思い起こしをしたいと思ったけど、すぐに頭の隅に追いやった。
そうなのだ。
クラスの集合時間までもう時間がない。
両親へのお土産は、やっぱり八つ橋でいいのだろうか?
それを考えるので精いっぱいだった……。
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