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3-04-2 文化祭 雅樹を探して(2)

校舎の中と言っても、どこへ行ったのだろう。 僕は、キョロキョロしながら廊下を歩いていく。 今年の文化祭も人が多い。 去年は、自分たちのクラスの当番で手一杯だった。 だから、こうやって各クラスの出し物を見て回るのは楽しい。 雅樹と一緒じゃないのが残念でたまらない。 もしかしたら、食堂の方に行ったのかもしれない。 僕はそう思って、急遽、食堂が入っている校舎へ向かった。 すると、雅樹らしき人物を見つける。 僕は、はっ、っとして隠れた。 覗いてみる。 やっぱり、雅樹といとこ。 間違いない。 えっ……。 手を繋いでいる。 というか、いとこが雅樹を引っ張っているのか。 雅樹が、おいおい、まてよ、と言っているような素振りをみせる。 また、胸がぎゅっと締め付けられるような感じ。 僕だって、学校で手を繋ぎたい。 そこへ、肩をポンポンと触れる人があった。 「ねぇ。めぐむ!」 「えっ?」 僕は驚いて振り向いた。 そこには、さながら魔法使いのような格好をしたジュンが立っていた。 「ジュン? どうして?」 「どうしても、こうしてもないよ。そこで何をコソコソしているの?」 ジュンはそう言うと、僕が覗いていた廊下を覗き込む。 見られた……。 雅樹を見ていたのがバレた。 僕がしまったと目を覆っていると、 「誰もいないけど。もしかして幽霊を追っていたとか?」 と、いぶかしげに僕を見た。 ジュンの目がキラキラしている。 「そうか、そうか、やっとめぐむもその気になったか!」 「違うよ、ジュン。ちょっと、いろいろ回っていたところ。それじゃあ、またね!」 僕はホッとしながら、立ち去ろうとすると、僕の肩を掴まれる。 「めぐむ。ちょっとまった! うちのところに興味ない?」 「ジュンのところ?」 ジュンが指さすところで見ると、 『占いの館byオカルト研究会』 の看板があった。 「もしかして、ジュンが占うの?」 「そうだよ。ほら、このコスチューム。それっぽいでしょ?」 ジュンはどうだ、と言わんばかりに胸を突き出す。 「うーん。魔女っ娘みたいだね」 僕は率直に感想を述べた。 「あー。それ言っちゃうんだ。相変わらず、めぐむは酷いな」 「えっ……ごめん、うそうそ。似合っているよ。魔法使いでしょ? 可愛い!」 「もう、めぐむとは絶交する。そうやってバカにするから!」 「本当っにごめん、ジュン。占い師だよね。うん。絶対に占い師だ!」 ジュンは、疑いの目つきで僕をじとっと見つめる。 「しょうがないな……じゃあ、うちに寄って行ってくれたら絶交を取り消すよ」 そう言うと、ジュンはにやっと笑う。 まったく、ジュンときたら……。 素直に、来て、って言えばいいのに……。 「行くよ! 行けばいいんでしょ!」 僕もそう言って、ジュンの後に続いて教室に入った。 「めぐむの生年月日は?」 僕は、その他、いろいろな個人情報を根ほり葉ほり聞かれた。 好きな食べ物を答えた後、ジュンは奇妙の呪文を唱える。 ジュンの占いは、水晶玉とタロットカードを混ぜたオリジナルのようだ。 その水晶玉も、実は水晶ではない。 そこら辺にありそうな、火山岩のような鉱石だ。 ジュンが言うには、パワーストーンという石だそうでオカルト研究会で長年研究している石だそうだ。 その石の周りを、呪文を唱えながらタロットカードを一枚づつ置いていく。 「それ、何語? ジュン」 ジュンは薄目を開くと、また閉じて呪文を続ける。 黙ってなさい、と言わんばかりに無視をされてしまった。 僕はしゅんとして縮こまる。 意外と長い。 早く、占いを聞いて、雅樹を追わねば。 またどこかへ行ってしまう。 急いで、ジュン! しばらくして、ジュンが目を開けた。 ふぅ、よかった。 ジュンは、タロットカードを表にめくり始める。 一枚めくるごとに、うんうん。と頷いている。 「ジュン。何か、分かった?」 堪りかねて僕は尋ねる。 「めぐむ。黙っていて!」 ピシャり言われ、僕は黙る。 並べられた全部のタロットカードが開くと、ジュンは言った。 「わかったよ。めぐむが望んでいるものが!」 ジュンは興奮している。 「めぐむは、探し物をしている! そうでしょ?」 「うーん。探し物といえば、そうだね」 雅樹を探している。 当たっているといえば当たっている。 「やっぱり! これは、きてるよ」 そして、うーん、うーん、唸っている。 しばらくして言った。 「その探し物は、本の近くにある。間違いない」 「えっ? 僕は、本なんか探してないよ」 ジュンは首を振る。 「いや、いや、本の近くに、それはある」 本の近くに、ねぇ……。 「とりあえず、ジュン。占いありがとう。参考にさせてもらうよ」 「うむ。困ったことがあったら、また来るのじゃぞ!」 ぶっ。 いつの間にかジュンは、何かの役が入っている。 そして、ジュンは高々と手を掲げて、言った。 「さぁ、行くのじゃ、勇者めぐむよ!」 「はっ、はい!」 僕は面倒くさくならないように、お辞儀をすると、そそくさとその場を立ち去った。 雅樹はどこに行ったかな。 一応、食堂を回って見てみる。 やっぱり、もういないか。 次に、行きそうなところはどこか。 クラスのお化け屋敷に行ったかもしれない。 僕はそう思って、教室に戻る。 廊下の受付担当のクラスメイトに尋ねた。 「ねぇ、雅樹って、戻ってきた?」 「あぁ、高坂君? こっちには、来てないけど。あなた達、午後でしょ? 当番」 「うん。そうなんだけど。ありがとう」 おかしいな……。 もう、校舎は一通り見た気がする。 そういえば、ジュンは本がどうのこうの言っていたっけ。 本と言えば、図書委員か……。 僕は、なんとなく、図書委員のバザーに向かった。 「ああ、そういえばちょっと前、でも一時間前ぐらいかな。青山君のお友達が来たよ」 「えっ? 背が高い?」 「そうそう、背が高くて。名前は確か、高坂っていってたかな」 あぁ……。 僕はうなだれた。 わざわざ、僕の所に来てくれていたんだ。 「大丈夫? 青山君」 図書委員仲間の子が心配げに僕を見る。 「うん。大丈夫、ありがとう……」 一時間前というと、ジュンの占いの後ぐらいだろうか。 僕は時計を見た。 あぁ、もうすぐお昼だ。 せっかく、雅樹と一緒に文化祭を回ろうとしたのに……。 僕は、とぼとぼと、中庭の花壇に向かって歩き始めた。 そして、腰を下ろした。 雅樹の後をつけるなんてことをしなければ。 今頃は、二人で楽しく文化祭を満喫できただろうに。 いや。 そもそも、雅樹のいとこに嫉妬なんてしなければ……。 涙が頬を伝わるのが分かる。 あぁ、僕は泣いているんだ。 悔しい。 手の甲で涙を拭う。 その時、頬に冷たいものが触れた。 「つめたっ!」 振り向くと、雅樹がにっこりしながら立っていた。 「めぐむ、見っけ!」 手には、ペットボトル。 「ほら、これ、めぐむの。買っておいたよ」 僕は、頬に付けられたペットボトルを受け取った。 「ありがとう!」 と、言えたかどうか。 涙が出てきて止まらなくなった。 「おい、どうした? めぐむ」 嗚咽を我慢して、しばらく落ち着くのを待った。 「ごめん、雅樹。一緒に回る時間が無くなっちゃった」 「いいよ。あっ、そうだ……」 雅樹は、模擬店を指さす。 「焼きそば買ってくるから、ここでお昼にしよう!」 そう言うと、「ここで待ってって!」と言い残し走り出した。 僕は雅樹の後ろ姿を眺めていた。 雅樹も、ずっと僕を探していたに違いない。 本当にごめんなさい。 僕はようやく落ち着きを取り戻していた。 しばらくして、雅樹が焼きそばを二個パック持って戻ってきた。 「ほら、めぐむの。紅ショウガ沢山いれてもらったから」 僕は一つ受け取った。 あっ、そうだ。 僕は手に持っていた袋を思い出す。 「ねぇ、雅樹。フランクフルト食べる? 冷えちゃっているけど」 僕はフランクフルトの紙袋を雅樹に渡す。 「おっ、ありがとう。って、もしかしてバスケ部のか?」 「うん」 僕は笑いながら答える。 「翔馬のおかけで2本ちょうど確保できた」 「そういえば、さっき翔馬のところに寄ったら、めぐむが来たって言ってた」 雅樹は、フランクフルトを頬張りながら答えた。 「へぇ、翔馬のところにいったんだ」 「あぁ、なんか、フランクフルトっていうか、ダーツ屋みたいになってたぞ。ははは」 「そうなんだ」 ふふふ。 きっと、僕のせいだろうな。 それから、二人はしばらくの間、無言で箸を進めた。 「雅樹」 「なんだ? めぐむ」 「雅樹って、優しいね。僕を責めないんだ」 「どうして責めるんだ? めぐむだって、俺を探していたんだろ? 泣いていたし」 「うん。実は、僕は、雅樹のいとこの……」 そう言おうとしたとき、雅樹は遮るように言った。 「元気だせよ。午後は一緒に驚かし係だろ。ほら、焼きそば食べさせてやるよ。あーん」 僕は無条件に口を開ける。 「あーん」 あれ? 口に焼きそばが入ってこない。 薄目を開ける。 すると、にやっとした雅樹の笑顔があった。 「うーそー。こんな人前でできるわけないじゃん。ははは」 そう言うと、箸でつかんだ焼きそばを自分の口にパクっと入れ、ムシャムシャ食べ始めた。 僕は、開けた口を塞ぐと、猛烈に恥ずかしくなった。 「意地悪!」 雅樹の足をぎゅっと踏んづける。 「いててて!」 痛がる雅樹と目があった。 そして、一斉に声を出して笑った。 「うん。めぐむ、元気になってよかった!」 雅樹はそう言った。

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