13 / 59

3-04-5 文化祭 後夜祭(1)

夕方になると、一般客は退場になり、学校関係者のみの後夜祭が開催される。 僕とジュンは連れ立って、体育館へやってきた。 今年の後夜祭は、体育館が会場だ。 テーマは、『イケメン祭り』 「ぷっ。変なテーマ名だよね。ジュン」 僕は噴き出しながらジュンに言う。 ジュンは、指で口を押え、「しーっ。主催は見守り隊らしいよ」と言った。 えっ。 僕は真顔になる。 恐ろしい組織だ。 後夜祭の仕切りまでやるとは……。 「さて、お集りの皆さん!」 司会の女子生徒のアナウンスが入る。 「さっそく、イケメンの皆さんに登場してもらいましょう。盛大な拍手でお迎えください!」 会場は暗くなり、檀上にスポットライトが照らされる。 こんなイベントに、呼ばれるイケメンって……可哀そうに。ご愁傷様。 僕は、適当に拍手をしていたが、途中で驚きのあまり口をあんぐりさせた。 翔馬が手を挙げて入場してきたのだ。 黄色い声援が飛ぶ。 翔馬もまんざらじゃなさそうな笑顔。 なんだか、楽しそうだ。 まぁ、イケメン祭りだったらそれもありか……。 そんなことを考えていたら、続く人物に僕は目を疑った。 えっ? 雅樹!? どうして! そんなこと一言も言っていなかったのに……。 「ひゅー、ひゅー」 ジュンはいつの間にかノリノリになっている。 檀上には、10人のイケメンが勢ぞろいした。 ジュンはメンバーを見て、舌打ちをした。 「ちぇっ、生徒限定か。先生もありだったら片桐先生も入ったと思うんだよね」 「そうだね、山城先生とかも入ったかもね」 「あれ、めぐむ、山城先生推しなの?」 「いや、違うって。例えばだよ。例えば」 僕とジュンがそんな会話をしていると、司会者が注意事項を説明した。 「今日の結果で、ミスター美映留高が決定します。最後に票を集めますのでよろしくお願いします」 「あれ? 僕達、投票用紙貰ってなくない? ジュン持っている?」 「あぁ、あれ事前にもらうみたい。きっと女子だけに配っていたんだよ」 「へぇ」 なんだ。 まぁ、確かに男子票がはいると、純粋な人気投票にはならないか。 隣の女子をみると、顔写真付き、プロフィール付きの立派な投票用紙を持っている。 これを前もって見ていれば、雅樹が出ることが分かったのに……。 「それでは、最初のプログラム。自己紹介を兼ねた特技の披露です!」 パチパチと拍手が起こる。 端から順番に、特技の披露が始まった。 バク転や、ボイスパーカッション、ものまね、一発芸などなど……。 会場は盛り上がりをみせる。 次は、翔馬の番だ。 「森田 翔馬です!」 翔馬は曲に合わせヒップホップダンスを始めた。 キレッキレだ。 さすが翔馬! 最後は会場を指を差すポーズでフィニッシュ。 キャーとか、森田くーんとかの声援。 ……なにこれ。 アイドルのコンサートじゃん。 「翔馬ー! かっこいいー! こっち向いてー!」 横見ると、ジュンが黄色い声援を挙げている。 あちゃー。 僕は顔に手をやる。 「もう、ジュン。女子みたい!」 「へん。そんなこと言っても楽しんだもの勝ちだから。翔馬ー!」 確かにジュンは楽しそうだ。 そして、雅樹の番が回ってくる。 雅樹は、エレキギターを担いで登場した。 ギター演奏? 雅樹が自己紹介とともにお辞儀をすると、会場がシーンと静まり返った。 ふぅ。なぜか僕が緊張する。 雅樹が、ジャーン! と音を鳴らし始めると、会場の空気が一機に変わる。 エレキギターのディストーションがかかった音色。 あっ、この曲って……。 そう、雅樹の部屋で聞いた曲だ。 美しくも悲しいメロディー。 ギターの音色は甘く、時には激しい。 会場中、静かに聞きほれている。 僕は目を瞑り、うっとりとする。 あぁ。 心に沁み渡る。 さすが、僕の雅樹だ……。 曲が終わったときには、会場は割れんばかりの大歓声が起こった。 ジュンは、拍手をしながら言った。 「うん。さすが、雅樹。最高だね。あぶなく惚れそうになったよ!」 「そうだね。雅樹はすごいね」 僕はそうは言ったけど、内心気が気じゃない。 きっと今の演奏で雅樹のファンは確実に増えたはず……。 雅樹を独り占めしたい。独占欲。 あぁ、僕は何て心が狭い……。 自己嫌悪。 そうこうしているうちに、全員の自己紹介と特技の披露が終わった。 「さて、お待ちかね。今日は文化祭。祭りと言えば!」 司会者がそう言うと、一瞬、会場が暗くなった。 なんだ、なんだ。と会場から声。 ざわざわする中、再び明かりがつくと、檀上のイケメンが全員裸になっていた。 正確にはふんどし姿。 キャー! わー! これには会場は大盛り上がり。 すごい……。 これだけのイケメンが裸で、しかもふんどしとは……。 あぁ。 よく見れば、前の部分がこんもりと盛り上がっている。 そして、全員が後ろを向いたとき。 やばい、引き締まったお尻が一同に並んでいる。 「あぁ、ボクはこうゆうのに弱いんだよね!」 ジュンは興奮気味に言う。 「やっぱり、片桐先生が出てたらな。あっ、鼻血が出てきた」 そういうと、ハンカチを鼻に当てる。 僕は思わず苦笑。 とはいうものの……。 僕は改めて雅樹の裸をまじまじと見つめる。 引き締まった体。 胸板、腹筋、腕、太もも、そしてお尻。 あぁ、最高! そして、やっぱり目に入る。 あそこのふくらみ……。 ジュンじゃないけど、興奮している自分に気が付いた。 だって、僕はあの体にいつも抱かれているんだ。 あぁ。 まずい。僕も鼻血がでるかも……。 「ねぇ、めぐむ」 「えっ?」 「めぐむだって、息を、はぁ、はぁ、させているんだけど!」 「ほんと? そんなことないけど……」 しまった……。 「まぁ、いいや。まぁ、お互い、楽しもうじゃないか!」 ジュンは僕の肩をポンっと叩くと、檀上に声援を上げ始めた。 司会者が言った。 「それでは、これからイケメン全員で踊ります。どうぞ!」 曲がかかる。 有名なヒップホップの曲。 こんなのいきなり踊れるの? と、思ったけど、全員それなりに踊っている。 ここまで踊れれば素人だったら十分だ。 翔馬はともかく、雅樹もそつなく踊っている。 雅樹は一体、いつ練習したのだろう。 「やばいよ、めぐむ。ぽろりあるかもだよ。ぽろり!」 ジュンは鼻にティシュを詰めて、もうなにか別次元に行ってしまっている。 ぽろり、ぽろり、と連呼している……。 僕はそんなジュンを横目で見つつ、雅樹のがぽろりしたらますますファンが増えちゃうだろうな、と想像していた。

ともだちにシェアしよう!