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3-04-6 文化祭 後夜祭(2)

それにしても、会場は手拍子と声援で熱気がすごい。 当初は見守り隊はやりすぎでは? と思ったけど、ここまで徹底するとさすがに感心する。 ダンスが終わったところで、一旦イケメン達は中座となった。 どうやら、身なりを整えてまた登場するようだ。 司会者が言う。 「えーと、それでは、会場の皆さんにもステージに上がっていただき、イケメンのお相手をして貰います」 会場中、ざわめきが起こる。 司会者はビンゴパーティ用の籠をぐるぐる回している。 なるほど、番号があたった人がイケメンとペアになるようだ。 投票用紙に書かれた番号が抽選番号になっているらしい。 なんだ……。 僕は当たらないのか。 嬉しいような、悲しいような。 「83番の人!」 「はい!」 番号が呼ばれる度に、会場からは溜息が漏れる。 「では、森田君のお相手は!」 籠がぐるぐる回る。 「19番です!」 あっ! 僕は檀上に向かう女子を見て驚いた。 黒川さんだ! ちょっと恥ずかしそうにうつむいている。 あぁ。 これは、運命だ。 きっと、翔馬は大喜びだろう。 「次、高坂君のお相手は!」 どんな子が選ばれるのだろう。 緊張する。 「はい!」と元気な声。 見たことのない子だ。 嬉しさのあまり、すこし泣いているようだ。 小柄で可愛らしい。 「めぐむ、あの子、ほら雅樹に告った1年生だよ。名前はたしか、田中 琴音(たなか ことね)だったかな?」 「えっ。そうなの?」 僕は、改めてまじまじとその子をみる。 目がぱっちりして整った顔立ち。 活発そうで、クラスの人気者になりそうな感じ。 あんな子に言い寄られていたんだ。雅樹は。 僕から見てもかわいい。 普通の男子なら、彼女がいたとしても心が揺らぐはず。 雅樹だって……。 あぁ。 胸の辺りがキュっとしてくる。 だめだ。 不安で胸が張り裂けそう。 抽選が終わり、中座していたイケメンたちが再び檀上に上がった。 思った通り、翔馬の驚きとその後の喜びようが手に取るようにわかる。 見ているこっちも嬉しくなる。 対して、雅樹。 田中さんを見て、少ししかめっ面をしたけど、すぐに、まぁいいか。という表情をする。 さすが、雅樹。 大人の対応だ。 田中さんの方は、雅樹を見るなり興奮の絶頂。 雅樹に飛びつかんばかりの勢いだ。 「それでは、後半戦も盛り上がってきましょう!」 司会者の言葉に再び会場は拍手に包まれる。 「次は、恋愛シミュレーションです。まずは、告白。イケメンの皆さんには、相手の子を好きな相手として告白をしてもらいます!」 会場から、キャーとか、うそっ、とか嫉妬がまざった声。 僕もただならぬ心境だ。 これは、お芝居。お芝居。嘘だからね。 自分に言い聞かせる。 何人かの告白の後で、翔馬の番になった。 あぁ、見るからに翔馬は緊張している。 大丈夫かな……。 こんな、らしくない翔馬も珍しい。 翔馬の緊張が伝染する。 翔馬は、黒川さんに手をだして、お辞儀をする。 「黒川さん、お、俺と、付き合ってください!」 スタンダードだけど、どう見ても、翔馬らしくない。 沈黙。 「……こちらこそ」 黒川さんがうつむいて答える。 そして、出した手に添える。 あっ……。 これは。 そうだ、本当の告白の現場を見てしまったような感じ。 見ていて猛烈に恥ずかしくなる。 やばい。 ドキドキする。 きっと、会場中も同じ感覚になったのだろう。 冷やかしよりも、拍手の音が大きい。 次はいよいよ雅樹だ。 田中さんは胸に手を当てて、いまかいまかと待ちわびている。 雅樹は言った。 「いつも、からかったり、意地悪をしちゃうけど、お前のことが大好きなんだ。俺と付き合ってくれ!」 あぁ、雅樹……。 それって、僕に向かって言っているんだね? 目を瞑って胸を抑える。 トクン……。 胸の高鳴り。 「うん。僕こそ、雅樹が大好き。よろしくお願いします!」 心のなかでそう答える。 会場では、田中さんが「はい!」と元気な声で即答し、差し出された手を両手で握り締めている。 うん。 大丈夫。 僕の中でなにかが吹っ切れた。 いいよ。 田中さん、いまだけは雅樹の恋人で。 僕と雅樹は誰にも切ることできない糸で結ばれているんだから。 告白が一通り終わる。 次はなんだろう? 会場も期待の空気でいっぱいだ。 「はい。それでは、次のシチュエーション。キス!」 割れんばかりの歓声。 再び会場が盛り上がる。 司会者が続ける。 「これは、相手の方が唇以外のところを指定することができます。イケメンの皆さんは断れません!」 『唇以外』のキーワードに、男子生徒からブーイングが発せられる。 逆に女子生徒は安堵しているようだ。 「では、いきましょう!」 「それでは黒川さん、どこを指定しますか?」 司会者が黒川さんに尋ねる。 すこし考えたのちに黒川さんはいった。 「えっと、手の甲でいいですか?」 「控えめですね」 司会者がそう言うと、会場からも少しブーイングが上がる。 翔馬を見ると、顔が紅潮している。 緊張が伝わってくる。 「どうぞ!」の司会者の声。 雅樹は、すぐさま黒川さんの前に片膝を付けて跪く。 差し出された黒川さんの手を握ると、黒川さんを見上げる。 さっきまでの緊張した表情とは打って変わって、爽やかににっこり笑う。 そして、目を閉じてそのまま、手の甲にチュッとキスをする。 あぁ、これはよく映画とかで見るやつだ。 カッコいい……。 お姫様にキスをする騎士。 会場中も固唾を飲んで見守っている。 そして、翔馬が立ち上がり騎士風のお辞儀をすると、会場中から拍手喝さいが巻き起こった。 これは、翔馬のファンは増えただろうな……。 黒川さんも意外な展開にすこし戸惑っているようだ。 さて、問題の雅樹の番。 「田中さん、どこを指定しますか?」 司会者が田中さんに尋ねる。 田中さんは即答。 「ほっぺにお願いします!」 まぁ、そうだろうな……。 予想どおりと言えば、予想どおり。 田中さんは目を瞑って立ち尽くす。 緊張しているようで顔が赤い。 雅樹はどんなキスをするだろう? 雅樹が田中さんに近づく。 ……そのとき、田中さんの体がフラッと揺れた。 危ない! 司会者が言ったのか、会場の誰かが言ったのか。 田中さんが壇上で崩れ落ちる。 と、思われた。 瞬時に、雅樹が膝をついて体を支える。 そして、そのまま抱きかかえる。 「大丈夫?」 覗き込む雅樹。 田中さんは目を瞑ったまましばらくうなだれていた。 気を失っているらしい。 そして、はっと、目を覚ます。 雅樹に抱きかかえられて驚いた様子だ。 「田中さん、大丈夫でしょうか?」 司会者からも声がかかる。 田中さんは、雅樹の目をじっとみつめて呆けているようだ。 雅樹は、やれやれといった面持ちで、そのまま、ほっぺにチュッとキスをした。 会場からは、おーとか、やったぞーとか勇者を讃えるような声援が飛んだ。 田中さんは、はっ、とすると、急に立ち上げり、頭を深々と頭を垂れてお辞儀をした。 「ほっ、大丈夫のようですね。びっくりしました!」 司会者も安堵の声が上げた。 キスはやっぱり盛り上がる。 会場はヒートアップして最高潮に達した。 司会者が言う。 「楽しんでいただけましたでしょうか? さて、そろそろ閉幕のお時間です!」 会場からは、ブーイングが飛ぶ。 この観客の盛り上がりようだ。 それもそうだろう。 僕もジュンも夢中になった。 司会者は続けた。 「最後に、イケメンの皆さんとペアの方は、お姫様抱っこで退場していただきます!」 ここまでくると、見守り隊のイベント遂行力には脱帽だ。 会場を最後まで盛り上げてくれる。 ジュンは汗を拭きながら言った。 「ねぇ、めぐむ。来年もやってほしいね。これ!」 「来年も? それはちょっと……でも、すごく面白かったね!」 それに、雅樹のかっこいいところを改めて見れた。 たくさんキュンキュンできた。 僕は、お姫様だっこで退場する雅樹を見ながら、今度二人きりの時に僕もお願いするぞ! そう思っていた。

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