23 / 59

3-10-2 翔馬の別荘 (2)

テニスが終わり、別荘に戻った。 リビングでくつろぐ。 いいな。こんな時間。 翔馬とジュンは、さきほどの落ち武者の話から、この近辺の古戦場について議論していた。 どうも、この二人、接点が無いようで、この手の話題になるとものすごく盛り上がる。 僕は雅樹に目くばせをする。 雅樹はにっこり笑い、うなずいた。 僕はさり気なく、雅樹の横に座りなおすと、適当な会話を始める。 「雅樹は、野生のシカってみたことある?」 僕はすこしづつ、手を雅樹の手に近づける。 「いやないな。めぐむはあるのか?」 雅樹も僕の方に手を移動させる。 大丈夫、翔馬もジュンも議論に夢中だ。 「やっぱり、怨念があるんだよ!」 ジュンが叫ぶ声が聞こえる。 僕は、当たり障りのない会話を続ける。 「僕は見たことがあるよ。野生のシカ」 小指と小指が触れる。 そして、指同士を組む。 ぎゅっと繋ぐ。 あぁ、幸せ……。 でも、すぐに翔馬が「そろそろ腹がお腹が減ったな」とつぶやく声が耳に入った。 まずい。 サッと雅樹から離れた。 「じゃあ、そろそろご飯の支度するね」 僕はそそくさと、キッチンに向かった。 一同はテーブルに座り、僕の作ったパスタとサラダを口にした。 「めぐむ、これ、めちゃめちゃうまいぞ!」 「ほんと、雅樹の言う通り。めぐむ、美味しい!」ジュンが言う。 「うんうん。これは大したものだ!」翔馬は感心している。 家ではたまに、キッチンに立つことはある。 でも、お母さんの手伝いをする程度。 だから、レパートリーも少ない。 むしろ、お菓子作りなら得意かもしれない。 パスタは、トマトソースにちょっぴり生クリームを入れる。 サラダはドレッシングに一工夫。オリーブオイルを少々加える。 これだけで、グッと美味しくなる。 みんな、パクパク食べてくれる。 ふふふ、満足、満足。 僕は美味しそうに食べるみんなを嬉しそうに眺める。 翔馬が言った。 「これだけ料理が上手なら、めぐむ」 「なに?」 「いい奥さんになれるよ。俺のお嫁さんになってくれ!」 ドキ……。 軽いジョーク。 でも……。 心臓の鼓動がドクンドクンと音を立てる。 「もう、冗談はやめてよ! 翔馬」 「ごめん。ごめん。お婿さんか。ははは」 どうして、反応しちゃうんだろう? 今日の僕はおかしい。 雅樹を見ると、翔馬と僕の会話に気に留める様子もなく、もくもくと食べている。 ジュンは、「やっぱり、料理ができるといいな。胃袋をつかめっていうもんな」 と、ぶつぶつ一人事を言っている。 たぶん、片桐先生の顔でも思い浮かべているのだろう。 僕は、今日はなるべく翔馬と顔を合わせないようにしよう。 そう思った。 食事の片付けが終わった。 「よし、風呂に行こう!」翔馬が提案する。 「やったー! 温泉。温泉」ジュンのテンションが高い。 「やばい、着替えのパンツ忘れた」雅樹がバックを探しながら言った。 え? それなら……。 僕は素早く、カバンから自分のパンツをとりだし、すっと、雅樹に渡す。 「雅樹、僕の替えのパンツでよかったら使って……」 やばい。 はぁ、はぁ。 僕のパンツを雅樹が……。 あそことあそこが同じ布に。 「ははは。めぐむのパンツを、雅樹が穿けるわけがないって。破けるって」 そう言うと、翔馬が自分のパンツを雅樹に渡す。 「ほら、これ使え。これ新品だから、やるよ」 「おぉ。悪いな。サンキュー!」 あぁ。 なんてことを……。 僕は翔馬を睨む。 翔馬は、それと気付かずジュンと先に玄関に向かった。 そんな僕を見ていた雅樹が、「やらしいな。変な想像していた? めぐむ」 とニヤっとしながら囁いた。 「そんなこと……バカ!」 「ははは。いこう。めぐむ。置いて行かれる」 今日の僕はなんだか無防備。 はぁ……。 溜息をついた。 お風呂といっても、さすがリゾート地。 一度に10人くらいは湯舟につかれる。 洗い場も4つもある。 なかなかの広さだ。 これで温泉なんだから、言うことなしだ。 僕達は脱衣所で服を脱ぐ。 雅樹と翔馬は体重計に乗り、なにやら話をしている。 僕とジュンは先に浴場に入ると洗い場に座った。 僕は頭を洗い始める。 「ふぅ、気持ちいいね」 「まったくだね」 ジュンとは逆の方から翔馬の声がした。 翔馬が座ったようだ。 頭を洗いながら、横目で翔馬をみる。 翔馬の下半身。 太ももも筋肉でガッチリしている。 ふと、あそこが目に入る。 うそ!? 大きい。 もしかして、雅樹よりも大きい? 翔馬の鼻歌が聞こえる。 でも、勃起してみないと、本当の大きさは変わらない。 うん。 雅樹が負けるわけない。 でも、あれが大きくなったら……。 もう一度、ちらっとみる。 ごくり……。 「いつまで洗ってるんだ、めぐむ。早くきなよ!」 ジュンの声が聞こえる。 「あ、うん。すぐ、いく」 僕は、さっと、シャワーで体を流すと、湯舟につかるジュンのところへ行った。 別荘に戻ると、リビングで余韻につかる。 「気持ちよかったな!」雅樹が言う。 「あぁ、本当に最高」ジュンが言う。 僕は、うんうん。と頷く。 「トランプでもするか?」翔馬が提案する。 「いいね」 一同うなずいた。 トランプが始まった。 あー、そうそう、と翔馬が話を切り出した。 「そういえば、今日の寝るペア、決めようぜ。トランプで」 「え、なんで?」 僕が尋ねる。 「あ、ベットひとつづつなんだよ、一部屋につき」 翔馬が手でリアクションをする。 「クイーンサイズかな。だから、一つのベットを二人づつで」 「オーケー」「うん、わかった」雅樹とジュンが即答する。 え!? 二人で寝るの? やばい。 心臓がドキドキし始める。 それって、それって……。 いや、まてよ。 雅樹とペアになれたらってことだ。 これは、本気にならざるを得ない。 僕は、平静を装い「了解」と言った。 ゲームは、定番のババ抜き。 「よし、1位と3位、2位と4位がペアね」 翔馬は、トランプ切る。 緊張する。 いままで、こんな緊張するババ抜きがあっただろうか。 僕は手札を見る。 ペアをどんどん捨てていく。 そこそこ残った。 ゲームが始まる。 序盤はどんどん減っていく。 みんなの手札の残りが気になる。 翔馬が早そうだ。 「やったー上がり。俺が1位!」 翔馬が最後のペアを捨て、手を挙げる。 自分の手札はまだまだ多い。 次に雅樹が上がった。 「よっしゃー。2位!」 これで、4位になれば雅樹と一緒に寝れる。 ただ、ジョーカーは僕の手元にない。 ジュンが持っている。 ここは、ジョーカーを引くしかない。 でも、なかなか引くことができない。 どんどん手札が減っていく。 そしてついに……。 僕が1枚。ジュンが2枚。 僕が引く番。 はぁ、はぁ……。 ここで、ジョーカーを引かないと勝って3位になってしまう。 ジュンの表情を見る。 たしか、ジョーカーを持っていると、そちらを自然と見るはず。 緊張して、汗が垂れる。 ジュンの表情を見る。 一瞬の視線の移動。 見えた! 僕は、さっと、カードを引く。 うそ!? ジョーカーじゃない……。 目の前が真っ暗になった。 「やられた。4位か。めぐむ、なかなかジョーカー引いてくれないんだよな」 ジュンは心底がっかりしていう。 僕はうなだれながら、「やった。3位だ……」と言った。

ともだちにシェアしよう!