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3-14-2 拓海からの呼び出し(2)
拓海さんが気が付いた違和感ってなんだろう。
僕は、気になったけど、拓海さんの言葉をじっと待った。
拓海さんは、何かを吹っ切って言った。
「あいつは、俺のことが好きなんだ。きっと……」
「好き?」
僕は一瞬何を言っているのが分からなかった。
友達を好きなのは当たり前だ。
でも、はっ、とした。
理解した。
愛している、という意味だ。
「あぁ、好きっていうのは、ラブのほうな。ライクじゃなくて」
拓海さんは、僕の不思議がる表情を見て補足した。
やっぱり。
でも、僕は別に驚かない。
だって、僕もそうだったから……。
「なぜ、そう思ったかというとな。偶然同じなのは大学と学部だけじゃないんだ。サークルも、ゼミも同じ。別に誘ったわけでもないのに」
「でも……そのくらいなら」
拓海さんは僕の言葉を遮る。
「うん、たしかに、それだけならあり得るな」
拓海さんは続ける。
「ただ、極めつけと言えるのは今のバイトに後から入ってきたんだよ。あいつに一言も言っていないのに。あぁ、偶然だねって。これは、もう、俺を追ってきたとしか思えない」
確かに、後を追っている。
いまの拓海さんの話だけでは、そう思うのも無理はない。
でも、僕は気になったことを尋ねた。
「拓海さん、高校生の時に彼女を取り合ったって。その人は女性が好きなのでは?」
「いい所に気が付いたな。さすが、めぐむ」
僕を探偵のように指さした。
僕は、ドキっとした。なかなか、様になっている。
「たぶんフェイクだ。俺が彼女と付き合うまでは、妨害まがいのことを散々された。それで、あいつも彼女が好きなんだと思った。でも、今思えば、俺じゃなくて彼女に嫉妬していたのだと思う。それを誤魔化す為に、彼女を好きだと言ったんだ」
沈黙。
たぶん、拓海さんの言う通り、その人は拓海さんのことを愛しているのだろう。
そして、男が男を愛してしまった事に葛藤しながら、諦めきれず好きな人を追ってしまった。
あぁ、僕だって、もしかして、そうなっていたのかもしれない。
その人の切ない、やるせない気持ちが痛いほどわかる。
僕は、自分の事のように思い気持ちが暗くなった。
そして、気が付いてしまった。
「それで、拓海さん。僕にお願いって何ですか? その人の気持ちは僕はわかるつもりです」
拓海さんは、明らかに困っている。
つまり、その人を遠ざけたいんだ。
あぁ……。
その人が可愛そうすぎる。
でも、拓海さんが僕にお願いをするっていうことは、そういうことだ。
同じような境遇の僕だからこそできること。
「拓海さん、別れ話ですか? 傷つかないように、どう言えばいいのか悩んでいる。違いますか?」
あれ?
僕は平常心のつもりだったけど、涙が溢れて流れた。
別に拓海さんが悪いわけじゃなんだ。
その人だって悪くない。
誰も悪くない。
「おいおい、どうしてお前が泣くんだ? ほら、涙を拭けよ」
拓海さんは、紙ナプキンを僕に手渡す。
「ごめんなさい。つい、感情が入ってしまって……」
「なんだよ。まだ、何も言ってないだろ。別に告白されたわけじゃないし、しつこく付きまとわれているわけじゃない。正直言うと、迷惑は感じていない。いまでも親友さ」
ということは、もしかして……。
僕は一縷の望みをかけて拓海さんに問いかける。
「じゃあ、もしかして拓海さんも、その人のことを?」
「そうじゃないから困っているんだよ。俺があいつを愛しているなら、何も困ることはない。でも、親友以上の感情はない。これははっきりと言える」
「そうですか……」
拓海さんは、ははは、と笑った。
「だからさぁ、めぐむがそんなに落ち込むなよ」
「だって……」
「めぐむ。お前は優しい奴だな」
拓海さんは僕の頭をポンポンっと撫でた。
「実は、ここからがめぐむに頼みたいことだ」
拓海さんは真面目な顔つきになった。
「俺に男同士のセックスを教えてもらえないだろうか?」
えっ?
僕は驚きのあまり口をあんぐりさせた。
この人は、いったい何を言っているの?
「ちょ、ちょっと、冗談はやめてください。せっかく真面目な話をしているのに」
「いや、大真面目だ」
拓海さんは説明をし始めた。
内容を整理すると、もしその人が求めてくるなら、拒みたくない。
親友として、しっかりと受け止めたい。
ということのようだ。
「拓海さん、愛していないのに、そのような行為は逆に相手を傷つけるんじゃないでしょうか?」
僕だったらどうだろう?
そんなことを思いながら聞いた。
「うん。俺はそうは思わない。愛しているからセックスをする。ちがうな」
拓海さんの言葉は力強い。
「愛にそんな行為の有無なんて関係ないだろ? 愛とはもっと精神的で崇高なものだ。ちがうか?」
「つまり、愛していることと、その、エッチをすることは別もの、ということですか?」
「その通りだ。セックスは愛情表現の一つだ。だから、親友とセックスしちゃいけないなんてないと思うが」
「えっと、その。あの……」
僕は頭が混乱してきた。
うまく整理できない。
確かに、僕だってエッチに特別な重きを置いているわじゃない。
でも、やっぱり、好きな人とエッチしたいんだ。
とはいえ、拓海さんの言っていることも間違っていないと思う。
拓海さんは言った。
「まぁ、価値観は人それぞれだから。で、まぁ、俺はちゃんとあいつを喜ばせてやりたいんだ。だから……」
頭を深く下げる。
「頼む。俺の初めてになってくれ」
初めてって……。
ちょっと恥ずかしい。
でも、僕の考えは変わらない。
「困ります! 僕は雅樹以外とはしたくありません」
「ふぅ、やっぱり。そうか……」
「ごめんなさい」
僕は頭を下げる。
拓海さんは、頭を掻くリアクションを取った。
「いや、無理強いはできない。ごめんな、頼める相手がいなくてな」
「いいえ」
「やっぱり、雅樹に頼むしかないかな」
えっ?
雅樹に?
「ちょ、ちょっと待って。拓海さん、雅樹に頼むって」
「あぁ。まぁ、さすがに兄弟は恥ずかしいからな。最後の手段ってわけよ。ははは」
「えっ、えーーっ!」
だめ。
絶対にだめだよ。
雅樹と拓海さんとだなんて。
兄弟でしょ!
そんなのダメに決まっている。
という理性とは関係なく、光の速さでモヤモヤがやってきた。
「兄貴、優しくしてくれよ」
「わかったよ、雅樹。ここに、押し込むのでいいのか?」
「あぁ、そこ。くすぐったいよ。兄貴」
「へへへ、なに言ってるだよ。お前のここ、もうヒクついているじゃないか」
「恥ずかしいこと言ってないで、早く来いよ」
「あぁ、じゃ、雅樹の初めてもらうぜ。それっ!」
「ちょっと、めぐむ。大丈夫か?」
拓海さんの声。
はっ……はぁ、はぁ……。
僕は慌てて妄想を振り払う。
「だっ、大丈夫です。ちょっと、めまいがしたもので……」
あぁ、何て妄想を……しかも、どうして僕は、いつもより興奮しているんだ……。
実際に、雅樹は、拓海さんに頼まれたら、どうするだろうか?
断るだろうか? それとも、しちゃうのだろうか?
いや、いや。
そんな状況にならないようにしなきゃ。
僕が雅樹の貞操を守るんだ!
「あの、拓海さん」
「ん? なんだ? めぐむ」
「雅樹に相談するって、本当ですか?」
「ああ。他に頼めるやつはいないからな」
僕は深呼吸をする。
よし!
「拓海さん、僕、その拓海さんの依頼を受けようと思います」
僕はしっかりと言い切った。
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