34 / 59

3-14-2 拓海からの呼び出し(2)

拓海さんが気が付いた違和感ってなんだろう。 僕は、気になったけど、拓海さんの言葉をじっと待った。 拓海さんは、何かを吹っ切って言った。 「あいつは、俺のことが好きなんだ。きっと……」 「好き?」 僕は一瞬何を言っているのが分からなかった。 友達を好きなのは当たり前だ。 でも、はっ、とした。 理解した。 愛している、という意味だ。 「あぁ、好きっていうのは、ラブのほうな。ライクじゃなくて」 拓海さんは、僕の不思議がる表情を見て補足した。 やっぱり。 でも、僕は別に驚かない。 だって、僕もそうだったから……。 「なぜ、そう思ったかというとな。偶然同じなのは大学と学部だけじゃないんだ。サークルも、ゼミも同じ。別に誘ったわけでもないのに」 「でも……そのくらいなら」 拓海さんは僕の言葉を遮る。 「うん、たしかに、それだけならあり得るな」 拓海さんは続ける。 「ただ、極めつけと言えるのは今のバイトに後から入ってきたんだよ。あいつに一言も言っていないのに。あぁ、偶然だねって。これは、もう、俺を追ってきたとしか思えない」 確かに、後を追っている。 いまの拓海さんの話だけでは、そう思うのも無理はない。 でも、僕は気になったことを尋ねた。 「拓海さん、高校生の時に彼女を取り合ったって。その人は女性が好きなのでは?」 「いい所に気が付いたな。さすが、めぐむ」 僕を探偵のように指さした。 僕は、ドキっとした。なかなか、様になっている。 「たぶんフェイクだ。俺が彼女と付き合うまでは、妨害まがいのことを散々された。それで、あいつも彼女が好きなんだと思った。でも、今思えば、俺じゃなくて彼女に嫉妬していたのだと思う。それを誤魔化す為に、彼女を好きだと言ったんだ」 沈黙。 たぶん、拓海さんの言う通り、その人は拓海さんのことを愛しているのだろう。 そして、男が男を愛してしまった事に葛藤しながら、諦めきれず好きな人を追ってしまった。 あぁ、僕だって、もしかして、そうなっていたのかもしれない。 その人の切ない、やるせない気持ちが痛いほどわかる。 僕は、自分の事のように思い気持ちが暗くなった。 そして、気が付いてしまった。 「それで、拓海さん。僕にお願いって何ですか? その人の気持ちは僕はわかるつもりです」 拓海さんは、明らかに困っている。 つまり、その人を遠ざけたいんだ。 あぁ……。 その人が可愛そうすぎる。 でも、拓海さんが僕にお願いをするっていうことは、そういうことだ。 同じような境遇の僕だからこそできること。 「拓海さん、別れ話ですか? 傷つかないように、どう言えばいいのか悩んでいる。違いますか?」 あれ? 僕は平常心のつもりだったけど、涙が溢れて流れた。 別に拓海さんが悪いわけじゃなんだ。 その人だって悪くない。 誰も悪くない。 「おいおい、どうしてお前が泣くんだ? ほら、涙を拭けよ」 拓海さんは、紙ナプキンを僕に手渡す。 「ごめんなさい。つい、感情が入ってしまって……」 「なんだよ。まだ、何も言ってないだろ。別に告白されたわけじゃないし、しつこく付きまとわれているわけじゃない。正直言うと、迷惑は感じていない。いまでも親友さ」 ということは、もしかして……。 僕は一縷の望みをかけて拓海さんに問いかける。 「じゃあ、もしかして拓海さんも、その人のことを?」 「そうじゃないから困っているんだよ。俺があいつを愛しているなら、何も困ることはない。でも、親友以上の感情はない。これははっきりと言える」 「そうですか……」 拓海さんは、ははは、と笑った。 「だからさぁ、めぐむがそんなに落ち込むなよ」 「だって……」 「めぐむ。お前は優しい奴だな」 拓海さんは僕の頭をポンポンっと撫でた。 「実は、ここからがめぐむに頼みたいことだ」 拓海さんは真面目な顔つきになった。 「俺に男同士のセックスを教えてもらえないだろうか?」 えっ? 僕は驚きのあまり口をあんぐりさせた。 この人は、いったい何を言っているの? 「ちょ、ちょっと、冗談はやめてください。せっかく真面目な話をしているのに」 「いや、大真面目だ」 拓海さんは説明をし始めた。 内容を整理すると、もしその人が求めてくるなら、拒みたくない。 親友として、しっかりと受け止めたい。 ということのようだ。 「拓海さん、愛していないのに、そのような行為は逆に相手を傷つけるんじゃないでしょうか?」 僕だったらどうだろう? そんなことを思いながら聞いた。 「うん。俺はそうは思わない。愛しているからセックスをする。ちがうな」 拓海さんの言葉は力強い。 「愛にそんな行為の有無なんて関係ないだろ? 愛とはもっと精神的で崇高なものだ。ちがうか?」 「つまり、愛していることと、その、エッチをすることは別もの、ということですか?」 「その通りだ。セックスは愛情表現の一つだ。だから、親友とセックスしちゃいけないなんてないと思うが」 「えっと、その。あの……」 僕は頭が混乱してきた。 うまく整理できない。 確かに、僕だってエッチに特別な重きを置いているわじゃない。 でも、やっぱり、好きな人とエッチしたいんだ。 とはいえ、拓海さんの言っていることも間違っていないと思う。 拓海さんは言った。 「まぁ、価値観は人それぞれだから。で、まぁ、俺はちゃんとあいつを喜ばせてやりたいんだ。だから……」 頭を深く下げる。 「頼む。俺の初めてになってくれ」 初めてって……。 ちょっと恥ずかしい。 でも、僕の考えは変わらない。 「困ります! 僕は雅樹以外とはしたくありません」 「ふぅ、やっぱり。そうか……」 「ごめんなさい」 僕は頭を下げる。 拓海さんは、頭を掻くリアクションを取った。 「いや、無理強いはできない。ごめんな、頼める相手がいなくてな」 「いいえ」 「やっぱり、雅樹に頼むしかないかな」 えっ? 雅樹に? 「ちょ、ちょっと待って。拓海さん、雅樹に頼むって」 「あぁ。まぁ、さすがに兄弟は恥ずかしいからな。最後の手段ってわけよ。ははは」 「えっ、えーーっ!」 だめ。 絶対にだめだよ。 雅樹と拓海さんとだなんて。 兄弟でしょ! そんなのダメに決まっている。 という理性とは関係なく、光の速さでモヤモヤがやってきた。 「兄貴、優しくしてくれよ」 「わかったよ、雅樹。ここに、押し込むのでいいのか?」 「あぁ、そこ。くすぐったいよ。兄貴」 「へへへ、なに言ってるだよ。お前のここ、もうヒクついているじゃないか」 「恥ずかしいこと言ってないで、早く来いよ」 「あぁ、じゃ、雅樹の初めてもらうぜ。それっ!」  「ちょっと、めぐむ。大丈夫か?」 拓海さんの声。 はっ……はぁ、はぁ……。 僕は慌てて妄想を振り払う。 「だっ、大丈夫です。ちょっと、めまいがしたもので……」 あぁ、何て妄想を……しかも、どうして僕は、いつもより興奮しているんだ……。 実際に、雅樹は、拓海さんに頼まれたら、どうするだろうか? 断るだろうか? それとも、しちゃうのだろうか? いや、いや。 そんな状況にならないようにしなきゃ。 僕が雅樹の貞操を守るんだ! 「あの、拓海さん」 「ん? なんだ? めぐむ」 「雅樹に相談するって、本当ですか?」 「ああ。他に頼めるやつはいないからな」 僕は深呼吸をする。 よし! 「拓海さん、僕、その拓海さんの依頼を受けようと思います」 僕はしっかりと言い切った。

ともだちにシェアしよう!