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3-15-1 めぐむ、奮闘する(1)
ある日のお昼休み。
翔馬と雅樹が教室へ入ってきた。
僕とジュンは、ちょうどお弁当を食べ終わったところだ。
翔馬が興奮気味に言った。
「二人とも聞いてくれ。俺にもついにモテ期がきたようだ! ははは」
僕とジュンは顔を見合わせる。
「なんと、ここ一週間で3人に告白された!」
「本当に?」
僕は驚いて聞く。
「あぁ、でも丁重に断ったけどな」
「本命がいるもんね」
ジュンが言う。
「ああ。その通り!」
翔馬は嬉しそうに言った。
「ところで、雅樹も告白されたんだよな。彼女いるのにな」
「まぁな……」
僕が尋ねる。
「例の下級生?」
「ああ」
田中さんだ。
午後の授業が始まる。
翔馬と雅樹は自分のクラスへ帰っていった。
ジュンは小声で話す。
「どうしたんだろ……見守り隊、ボク、調べてくるよ」
そうだ、見守り隊が黙って無いはずだ。
また、僕達が知らないところで抗争が勃発しているのかもしれない。
僕は、「うん」と答えた。
さすがはジュン。
数日後には、事の真相を掴んできた。
「めぐむ、こっちへ来て」と言うと、僕は教室の端に招かねる。
誰も近くに居ない事を確認し、ジュンは話し出す。
「めぐむ、分かったよ。イケメン見守り隊、解散したらしいよ」
「え? 本当?」
「うん。だから、リストにあったイケメン達に告白が解禁になったってわけ」
「それにしても、どうして解散したんだろ?」
「そう、それ。どうもね、見守り隊の幹部の一人が抜け駆けをしたらしくて……それで、もめにもめて、解散したみたい」
「そうなんだ……」
これは困ったことになったぞ。
せっかく、見守り隊のお陰で平穏な学校生活を送れていたのに……。
また、雅樹に告白か。
田中 琴音。
まだ、雅樹を思っているのか。
去年の後夜祭を思い出す。
あれは恋する乙女だった。
気が強そうだし、手ごわそうだ。
前回は、見守り隊の圧力と雅樹に彼女がいるということでなんとかなった。
でも、田中さんは彼女がいるくらいじゃ、素直に引き下がらないだろう。
やっぱり、直接会って話さないと諦めないと思う。
前回に比べて、厳しい闘いになりそうだ。
よし!
僕は拳を固めた。
「めぐむ、どうしたの? 力入っているけど。」
「え?」
ジュンは僕の肩をポンとたたく。
「めぐむは安心していいよ。どうせボクたちは女子から告白なんてされないから。悲しいけど」
「ふふふ。確かにね」
次の雅樹とのデート。
僕は早速この話題を持ちかける。
前の時と同じように、雅樹はたいして気にする様子も無い。
飲み干したジュースのストローを退屈そうにいじっている。
僕はため息をついた。
「いっそのこと、無視しちゃうとかは?」
「それはできないよ。田中さんだって本気で告白しているだ。俺だって本気で断る」
「ごめん。変なこといって……そうだよね、雅樹」
そうなんだ、雅樹はそれができない。
雅樹のいいところだ。
でも、だからこそ、雅樹の負担になっちゃうんだ。
「ねぇ、雅樹。また、僕が恋人のふりをしたほうがよくない?」
「い、いいよ。断ればいいだけだから……」
僕は、真っ直ぐに雅樹の目を見る。
雅樹は少しひるむ。
「いや、僕は雅樹を守りたいんだ!」
「守るって、大袈裟だな。ははは」
「いいから、僕に任せておいて!」
雅樹が乗り気じゃないのは、あらかた予想通りだ。
でも、僕は直接、言ってやるんだ。
僕の雅樹に手を出すな! って。
決行の日。
授業が終わり雅樹に声をかける。
「それじゃ、雅樹、打ち合わせ通りにね」
「わかったけど、なんか気が進まないな……」
「いいの。僕に任せて!」
僕は昇降口へ駆け下りた。
ムーランルージュに着くと、早速着替えを始める。
前回同様にセーラーに赤のタイ。
ウィッグやギャルメイクも変わらない。
でも、あれから女装の着こなしや振る舞いは、格段に上手くなってるはず。
よし!
僕は鏡で全身チェックをして気合を入れる。
今日はきっと直接対決になる。
変なところでボロが出ないようにしなきゃだ。
そこへ、アキさんが現れた。
「おはよ。めぐむ」
「おはようございます。アキさん」
「あら、セーラーなのね。もしかして、前の時と同じ?」
アキさんは、僕のメイクを見て気がついたようだ。
「そうなんです。また、彼に言いよる子が現れて……」
「そっか……それは嫌よね」
「はい。それで、その子に直接言わないと、と思って」
「なるほどね。直接か……」
アキさんは腕組みをする。
「めぐむ、忠告だけど。女子は、女子同士だと容赦なく言ってくると思うから覚悟しておいた方がいいわよ」
「はっ、はい!」
そう言うと、アキさんは僕に抱き着いた。
「あぁ、想像したら、めぐむのこと心配になってきちゃった……」
「アキさん、大丈夫ですよ。でも、ありがとうございます」
僕は、抱きつくアキさんを優しく離す。
「うん。頑張ってね、めぐむ」
「はい!」
時計を見る。
そろそろだ。
「それでは行ってきます。アキさん」
心配そうに手を振るアキさんを尻目に、僕はムーランルージュを出た。
美映留高校、校門の前。
僕は時間を確認する。
もうすぐのはずだけど……。
下校する生徒は、一人で立っている僕をじろじろ見る。
やっぱりこの格好の威力は絶大だ。
そこへ雅樹の姿が目に入る。
うん。
時間通りだ。
雅樹は僕に近ずくと軽く手をあげる。
「マー君。遅いよー!」
少し大きめの声で雅樹に話しかける。
周りの生徒達が一斉にこちらを見る。
よしよし、みんな見てる。
僕は雅樹に、わざとらしく大袈裟にスキンシップを取る。
雅樹は、控えめだ。
僕は小声で雅樹に言う。
「雅樹、もっと、積極的に僕を触ってよ。手を握ったりとか、腰を寄せたりとか」
「めぐむ、ここじゃさすがに無理だろ……」
「いっそのこと、僕のお尻を触ってよ!」
「おいおい、無茶言うなよ」
そうこうしているうちに、誰かが声をかけて来た。
「ちょっと、あなた。もしかして、高坂先輩の彼女さんですか?」
僕と雅樹は、声がする方を振り向いた。
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