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3-16-2 後輩の恋愛事情(2)

僕達は、テーブルに着いた。 いったい、こんな普通の人がどうしてオトムサ同好会なんて知りたがるのだろう。 「俺は、1年の松田 良助(まつだ りょうすけ)っていいます」 松田君は、ペコリと頭を下げた。 そして、話を続ける。 「それで、俺は、自分より強い奴を探しています」 「強い人? 強い人を探してどうするの?」 「えっと、自分より強い男を探して……」 「探して?」 「その人に仕えたいです」 「仕えるって……ずいぶんと古風だね」 「そうっすか? 男ならより強い男に憧れるますよね? あれ、違いますか?」 松田君は、大真面目な顔で言う。 「まっ、まあね……」 ここでむげに否定しても始まらない。 取り敢えずは、同意しつつ質問を投げ掛けた。 「そんな強い人を見つけてどうするの?」 「それは決まっています。仕えて側に置いて貰います。現代風に言えば、告白して付き合ってもらいます」 松田君は、照れながら言う。 「ぶっ!」 僕は、思わず吹き出した。 やばい……見た目は普通の人だけど、特殊な側の人だ……。 まぁ、でも……。 正直に話すところは、男らしいし、嫌いじゃない。 「俺って、変ですか?」 松田君は、不安そうに僕を見つめる。 「オホン、まぁ、恋愛は人それぞれだから。それはそれで」 僕の言葉に、松田君は、顔をパッと明るくさせた。 「おおぉ。さすが、オトムサ同好会会長。驚かないんですね」 「うん、まぁね」 いや、十分驚いていますから……。 「でも、それなら、オトムサ同好会に手伝えることはないかな。強い人とかいないから」 って、僕しかいないけど……。 「それで、このサイトを見てください」 松田君は、スマホの画面を僕に見せる。 へっ? 美映留高校裏掲示板? なっ、なにこのサイト。 こんなサイトがあるの? 「で、ここ見てもらえますか?」 松田君は、スマホの画面をスライドする。 「えっ? なになに、『男の体をむさぼる同好会、通称オトムサ同好会は、男同士の体の付き合いを応援しています。詳しくは会長の図書委員Aまでご相談ください。同好会OB H』」 ぶっ! なに、男同士の体の付き合いって……それに、同好会OB Hって、氷室先輩じゃん! どうして、卒業しているのに、こんな書き込みしているんですか! どっと、汗が噴き出す。 「それでですね」 はっ。 僕は、驚いて松田君を見る。 「はい、なに?」 「オトムサ同好会では、美映留高校の男子の情報はすべて把握されているって書き込みがありまして」 ぶーっ! 僕は思いっきり吹き出した。 「そっ、そんなのないから! はぁ、はぁ」 僕は全力で否定をする。 「そうなんですか……すみません、つい信じてしまって……」 「うっ、うん。ごめんね。力になれなくて」 はぁ、熱い。 汗を拭いたハンカチで自分の顔を扇ぐ。 まったく、そういう出まかせは、本当に止めてほしい。 「あっ、いいんです。やっぱり、自分で探さなくてはダメですよね? 自分の主君なんですから……」 「でも、ほら、強い人なら、ボクシング部とか、空手部とかに行けばいいんじゃないかな?」 「あぁ、格闘技の部活はすべてまわりました」 松田君は、さも普通の事のように平然と言った。 「へっ? 全部?」 「全部」 「柔道とか、剣道も?」 「はい。でも、俺より強い人はいませんでした。残念ながら……」 すごい……。 新入生で、その道のプロの部活の人達を負かしてしまうなんて。 僕は、ふと、ジュンに聞いた話を思い出す。 「あれ? もしかして、新入生の道場破りって、松田君?」 「道場破り? そんな風に言われているのは知りませんでしたけど」 「うん、うん。きっと、君の事だね」 僕は、腕組みをして、松田君を見る。 なるほど。 こう見ると、単にガタイがよくてガッチリしているだけではなさそう。 腕の太さや首から肩の盛り上がりは、格闘家独特の体型のような気がする。 松田君は、溜息をついた。 「すみません。お時間を取らせました……」 すくっと立ち上がって、僕に軽く会釈をする。 「ううん。こっちこそ。力になれなくてごめんね。でも、男同士の恋愛については、僕は応援するから。頑張ってね!」 「はい。ありがとうございます」 へぇ。 鬼みたいな人って、言っていたけど、礼儀正しくて、僕は結構好きだな。 彼みたいな真面目な人。 夕刻になり、図書室を閉める時間になった。 僕は帰り支度を済ませ、図書室を出た。 昇降口へ行く為に、渡り廊下を歩いていると、校舎裏から、怒鳴り声が聞こえた。 なんだろう? もう下校時間だっていうのに。 僕は、不信に思い、おそるおそる校舎の壁に張り付き、裏側を覗いた。 あれは……? 松田君と、稽古着を着た柔道部の人達。 何やらもめているようだ。 僕は、陰に隠れて様子をうかがう。 柔道部員は全員で5人。 その中の一人が言った。下っ端のようだ。 「おい、新入生! てめえ、よくも恥をかかせてくれたな!」 「なんのことですか?」 松田君の声。 「しらばっくれるなよ! こないだの練習試合のことだよ!」 「ああ、その節はどうも」 「こいつ!」 「まぁ、まてよ」 「部長!」 そこで、柔道部の部長らしき人物が口をはさむ。 「あの時、手加減してたってのは知っているか?」 部長は、松田君の前に出る。 松田君よりも部長は一回り大きい。 松田君は、部長を見上げながら言った。 「ほぅ。手加減を。そうだったんですか?」 「ああ、そうだ。だから、あれで勝ったと思われちゃ、かなわないからな。へへへ」 「そうだ、そうだ!」 柔道部員のヤジが入る。 松田君は冷静だ。 周りの空気に動じることなく言った。 「で、どうしたいんですか? 柔道部の皆さん」 「なーに。ここで、ちょっと、本気の試合はどうかと思ってな」 「どうだ? 怖気づいたか?」 柔道部員が挑発する。 「いいですよ」 松田君は、両手を広げる。 「さあ、いつでも、どうぞ」 「ほう。じゃあ、さっそく!」 柔道部の一人が襲いかかる。 松田君は、カバンをすっと置くと、そのまま相手と組む。 瞬間……。 柔道部員の体が宙を舞う。 ああ。 僕は、思わず声を出しそうになった。 ドン! 「ぐはっ!」 地面に叩きつけられ、呻き声を上げた。 松田君は、構えたまま、ちょん、ちょんと、足踏みをした。 「もう、終わりですか?」 松田君の挑発に、部長は手を挙げた。 「やろう! やっちまえ!」 「おー!」 掛け声とともに、今度は3人の柔道部員が松田君を囲む。 僕は怖くて目をつぶる。 ああ、大変だ……。 こんなのは試合なんてしろものじゃない。 どう見ても喧嘩。 しかも、人数は5対1。もとい、既に4対1になっているけど。 因縁をつけての仕返し。 なんて、卑怯な。 これじゃ、松田君がいくら強いからって、やられてしまう。 無茶苦茶だ。 この喧嘩を止められる人。 僕は、すぐに頭に浮かんだ人のところへ走り出す。 そう、保健室だ。 丁度、保健室に入ろうとしていた山城先生を捕まえる。 「おい、青山か、どうした?」 「山城先生! 大変なんです! 来てください!」 「えっ? なんだ?」 「喧嘩です! いいから! 早く! 早く!」 僕は、先生の手を引く。 「ちょっと、待て。落ち着け。場所はどこだ?」 「校舎裏です。図書室の渡り廊下のそばの」 「先に、行っていてくれ。靴を履いてすぐに駆け付ける」 山城先生は、スリッパをパタパタさせた。 僕は、うなずくと、直ぐに現場に戻った。

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