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3-18-1 愛ゆえに(1)
ゴールデンウィークに入った。
後半は、「みんなで遊ぼう!」というジュンの提案があり、雅樹と翔馬を含めて遊ぶ計画を立てた。
でも、前半はぽっかりと空いている。
と、丁度良く、その前半に、お客さんが来ることになった。
従弟のユータが、久しぶりに遊びに来るのだ。
すごく楽しみ。
いつ以来だろう。
幼稚園の卒園式以来だから、もう1年以上前。
じゃあ、もう小学校2年生か。
大きくなったんだろうな。
ピンポーン!
チャイムが鳴って、僕は玄関に向かう。
ドアを開けると、叔母さんとユータが手を繋いで立っていた。
「こんにちは、めぐむ君」
「こんにちは、叔母さん。お久しぶりです。どうぞ、上がってください」
「めぐむ兄ちゃん、こんにちは」
「はい、こんにちは、ユータ。大きくなったね!」
ユータは一回り大きくなっている。
でも、あどけない顔はそのまま。
うん。
かわいい。
でも、そのユータは、僕の顔を見てにやりとするのを僕を見逃さなかった。
叔母さん達をリビングに通す。
両親は、挨拶してソファを勧めた。
お母さんは、ユータに話しかける。
「ユータ君、大きくなったわね。学校たのしい?」
「はい。楽しいです」
「そう、よかったわね」
大人同士の近況の話が始まると、早速ユータは僕に目配せをする。
僕は言った。
「ちょっと、ユータ君と部屋で遊んできますね」
「めぐむ君。いつも悪いわね。ユータ、お兄ちゃんの言うことちゃんと聞くのよ!」
「はい。ママ!」
僕の部屋に入ると、ユータは、だらっと姿勢を崩し話し始める。
「ふぅ。やっと、落ち着いて話ができる」
「ぶっ。なに、生意気いっているの! ユータは」
「えへへ。だって、ママはいろいろうるさいんだもん。こっちだって気を遣うんだよ」
ユータは、腕組みをして言う。
「ふーん。子供も大変だよね。って、本当に生意気!」
「ところで、今日はめぐむ兄ちゃんにお願いがあるんだ」
「お願い?」
「うん」
「お願いねぇ。まぁ、お兄ちゃんにできることならいいけど」
「そう? やった!」
ユータは嬉しそうな顔をする。
僕は、ユータに尋ねる。
「で、何? お願いって」
「うん。今日は、テニスの日なんだ」
「テニス? ああ、習い事しているんだっけ?」
そういえば、以前にお母さんから聞いた事がある。
ユータの習い事。
「うん。それで、テニスの付き添いに来てほしいんだ」
「テニスの付き添いかぁ」
「そうそう、僕、結構上手なんだよ。ほら、その、見て欲しいんだ。僕のプレー」
ユータは、テニスのラケットを振るそぶりを見せた。
テニスにはあまり興味はないけど、まぁ、ユータの雄姿が見れるんだったら行ってもいいか。
どうせ暇だし。
「そういうことならいいけど……」
「やった!」
ユータはガッツポーズをした。
へぇ。
僕に見てもらえるのが、そんなに嬉しいんだ。
まんざらでもない気持ちになる。
「じゃあ、早速ママに言いに行こうよ!今日は、めぐむ兄ちゃんが代わりに行くって!」
ユータは僕の手を引っ張る。
「ちょ、ちょっと、待ってよ。そんな、急がなくたって……」
テニススクールの場所は、美映留中央駅から少し歩いたところにあるスポーツクラブの建物の中。
いつもは、車で送り迎えをしてもらっているらしい。
今日は、車からテニスのバッグを取り出し、電車でやってきた。
習い事の送り迎えも大変なようだ。
僕が代わりに行くって提案すると、叔母さんは「じゃあ、お願い!」と即答した。
スポーツクラブの入り口を入りエレベータに乗った。
僕は、テニススクールの受付のある階を押しながら、言った。
「ねぇ、ユータ。それにしても、どうしてお兄ちゃんと来たかったの?」
「だから、言ったじゃん。僕のプレーを見てもらいたかったって」
「本当かなぁ」
スポーツクラブのエレベータを降りると、ユータは受付に駆け足で向かう。
「よう! フーカ!」
「あっ、ユータ君。こんにちは!」
そこには、フーカ君と久遠さんの姿。
ああ、久遠さん。
相も変わらず、カッコいい。
七分袖の爽やかなストライプのシャツに、黒のスリムジーンズ。
さり気なく開いた胸元からシルバーのネックレスが見える。
大人の男の人の色香が溢れ出ている。
ドキっとしちゃうよな……。
これは決して浮気ではないからね、雅樹。
しょうがないことなんだ。うん。
と、思わず言い訳を並べる。
僕は、そんな胸の内はおくびにも出さずに、自然に挨拶をした。
「お久しぶりです。久遠さん!」
「ああ、お久しぶりです。めぐむさん」
久遠さんは、ペコリとお辞儀をした。
僕みたいな若造にも、なんという礼儀の正しさ。
ああ……。
拍車をかけて好感度が増しちゃう。
「今日は、めぐむさんだけですか?」
久遠さんの一言に、ぽやんとしていた僕ははっと我に返る。
「はっ、はい。叔母の代わりできました」
「そうですか」
一瞬、久遠さんは嬉しそうな顔をしたような気がした。
テニススクールは、付き添いや見学ができるようにベンチが用意されている。
僕は、久遠さんの横に座り二人の雄姿を見守る。
最初は、近距離からの簡単な打ち返し。
そして、だんだんと距離を取って行き、難易度を上げていく。
ユータとフーカ君は、二人でペアになってラケットを振っている。
へぇ……。
ユータはうまくプレーができると、僕の方を向いてアピールする。
僕は、その度に手を振ってあげる。
ユータも上手だけど、フーカ君も負けてない。
フーカ君も時折、久遠さんの方を見て照れた顔をしてにっこり笑う。
うーん。
カワイイ!
休憩になると、二人仲良く体育座り。
じゃれたりして、何やら楽しそうに話をしている。
あぁ、なんて微笑ましい……。
僕は、こっそりと久遠さんに話掛ける。
「二人寄り添って可愛いですね」
「はい」
「いつも、こんな感じなんですか?」
「えっと、今日はいつもよりも仲いいですかね」
「そうなんですか?」
「ええ。きっと、今日はめぐむさんだからかもしれません……」
「えっ?」
僕は思わず聞き返す。
「その、ここだけの話、ユータ君のママはあまり好ましく思っていないようで……うちのフーカと仲良くするのを」
「そんなことって……だって、幼稚園の時はあんなに仲良くさせてもらっていたじゃないですか」
「そうなんですけど……最近は、ユータ君のママとは挨拶をするぐらいでして」
そう言えば、ユータは、叔母さんの前ではフーカ君のことを話さないようにしている節がある。
叔母さんは、どうしてフーカ君のことを嫌うのだろう。
僕が知る限り、幼稚園時代は仲良く公園で遊ばせていたようだった。
ということは、小学校に上がってから何かあった?
ユータがフーカ君の事を何か言った。
そして、叔母さんは警戒するようになった。
例えば、ユータはフーカ君のことが好き。
それも、普通の男の子同士の友達を超えたものを察した。
あり得る。
僕が腕組みをして考えていると、久遠さんが言った。
「めぐむさんは、二人の事どう思いますか?」
「そうですね。とても楽しそうでいいですね」
「そう見えますか? 僕もです。フーカはユータ君のことが大好きでして、ユータ君もフーカの事を好いてくれているようです」
「ええ。ユータはフーカ君のこと大好きみたいです。ふふふ」
「その、めぐむさん」
「なんでしょうか?」
「もしも、フーカとユータ君は、その……」
久遠さんは、頬をほんのり赤らめて、言いにくそうにしている。
「はい?」
「その、愛みたいな感情があったらどうしますか?」
「愛ですか。久遠さんもそう思いますか? 僕も二人は愛し合っているように見えます。ふふふ」
久遠さんは、目を見開く。
そして、ホッとした表情を浮かべた。
「そうですね。めぐむさんは、二人を応援してくれますか」
「ええ。もちろん。あんな二人は見ているだけで心がポカポカしてきます」
久遠さんは、僕の方を見て優しそうな目つきをした。
「めぐむさん、ありがとうございます」
「えっ? どうして? お礼なんて」
僕は、不思議そうに久遠さんを見た。
でも、久遠さんは、もう前の方を向き、ユータとフーカ君を見つめている。
「いえ、なんとなくです。さぁ、見て下さい。そろそろ試合形式ですよ」
「あっ、はい。楽しみですね」
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