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3-19-1 新緑リゾート(1)
雅樹は運転免許を取得した。
「ドライブでも行かないか?」
雅樹は、さっそく僕を誘ってくれる。
僕は、もちろん「行く行く!」と二つ返事で答えた。
そして、今日はドライブの約束の日。
僕と雅樹は、ショッピングモールで待ち合わせをした。
雅樹と車で出かける。
そう思うと、不思議な感じがする。
車って大人の乗り物ってずっと思っていたから、雅樹が運転できると思うと、もう、大人になったのかな?って変な錯覚を起こす。
雅樹はともかく、僕なんてまだ子供なのに……。
雅樹の家の車はミニバンで、駐車場の端の方に停めてあった。
「さぁ、乗ってよ!」
雅樹は、助手席の扉を開けてくれた。
「うん」
僕は助手席へ乗り込んだ。
車は、ショッピングモールを出て国道を走り出す。
「いやー。今、運転凄く楽しくてさ! 初ドライブは、どうしても、めぐむと行きたかったんだよね。今日は、少し遠出して高原までいいかな?」
雅樹は、楽しそうな笑顔。
雅樹のテンションが僕に伝染する。
「もちろん! ああ、楽しみ! それに、初ドライブ誘ってくれてありがとう!」
高原への道のりは、ゴールデンウィーク後というのもあって思ったより混んでいない。
それにしても……。
僕は、運転する雅樹の顔を覗き見る。
雅樹の真剣な横顔、カッコいいな。
僕の視線に気がつき、雅樹が質問した。
「めぐむ、どうした?」
「ううん、何でもない」
僕は、はっ、としてうつむく。
目的地に近づくにつれ、雅樹は少しづつ無口になった。
だからといって、気まずい空気ではない。
車内に流れる音楽や、フロントガラスに映る景色の変化が、いつものデートとは違う新鮮な気持ちにさせてくれる。
雅樹は、知らない道で緊張しているのかな。
僕は、恐る恐る問い掛けた。
「ねぇ、雅樹。今日は、どうして、そんなに無口なの?」
「おかしいか?」
雅樹は、意外そうな顔をする。
「ううん、そんな事……」
そんな事無い。
無口で真剣な顔の雅樹。
ああ、キュンとする。
しばらくして、雅樹は話し始めた。
「俺が無口なのはさ、今日のめぐむが可愛くて、緊張しているからなんだ」
「えっ? どうして?」
僕は、驚いて聞き返す。
「だってさ、ロングヘアに白のワンピースとか、眩しすぎる。映画のヒロインみたいで、ドキドキするよ!」
雅樹は照れているのか、頬がほんのり赤い。
僕は、急に褒められてドギマギする。
「そっ、そんな、映画のヒロインだなんて、恥ずかしい……」
恥ずかしいけど凄く嬉しい。
雅樹は、僕のことを遠慮しがちにチラッと見る。
「やばい、カワイイ……」
小さな声で呟く。
雅樹に素で褒められると、背中がムズムズしちゃう。
僕は顔を赤らめて言う。
「雅樹だって、運転している時の真剣な横顔。かっこよすぎて、胸がキュンキュンするよ!」
「まじか!? ははは、じゃあ、お互いときめき合っている、と言うことか」
「ふふふ、そういう事。なんか幸せ」
「ああ、本当だな」
ポカポカと温かい空気が流れる。
素敵な瞬間。
雅樹は、急に大声を上げた。
気分が乗っている時の声色だ。
「そうだ! めぐむ。いい事を思いついたよ!」
「なになに?」
雅樹の満面の笑み。
きっと、面白いことに違いない。
僕は、なんだろうかと、ウキウキする。
雅樹は、言った。
「今日は、どちらがより多く、相手をときめかせられるかで、勝負しないか?」
「ときめかせる?」
ときめかせる、ってなんだろう?
僕は、すぐにイメージがつかめずに聞き返す。
雅樹は、得意げに言った。
「つまり、たくさんドキドキさせた方が勝ち!」
僕はテンションが上がってくる。
「面白そう! やろうよ!」
雅樹のカッコいいところ見て、キュンキュンする。
楽しそう!
なんだか、想像するだけで口元が緩んでくる。
あれ?
それじゃあ、僕の負けか。
よーし。
自信はないけど、雅樹をドキドキさせちゃうぞ!
クスっ。
この勝負って、勝っても負けても、勝ちみたいなもんじゃん。
そんなことを考えていると、雅樹の声が耳に入る。
「めぐむ、なんで、にやにやしているんだ? ははは。勝つ気満々か?」
「それは、もちろん! 僕の魅力で、雅樹をドキドキさせちゃうから。ふふふ」
「それは楽しみだな。ははは」
僕もつられて笑う。
本当は、負けてもいいけどね。ふふふ。
そして、雅樹は、勝利報酬を提案した。
「勝った方は、そうだな、我がままを一つ言える。どう?」
「うん、いいよ!」
「じゃあ、開始!」
雅樹は、指をパチリと鳴らした。
最初の目的地の牧場に着いた。
僕は、車を降りると、うーん。と伸びをした。
やっぱり、高原だけあって、空気が美味しい。
「めぐむ、疲れた?」
「ううん。大丈夫、雅樹は?」
「俺は大丈夫」
雅樹は、車の扉にロックを掛けると、スッと僕の手を取りギュっと握る。
にっこりと笑うと、「よし、行こう!」と建物を目指して歩き始めた。
ここは、ソフトクリームで有名な牧場。
観光ガイドブックにも載っている定番の観光スポットだ。
牧場の中心にある建物は、古い木造建築でヨーロッパの教会のような形をしている。
そこに、ソフトクリームの販売所がある。
「人が多いね」
僕は、他の観光客にぶつからないように歩く。
「本当だな、ちゃんと手を繋いでおこうな」
「うん!」
僕は素直に頷く。
僕と雅樹は、ソフトクリームの販売所に来ると、さっそく行列に並んだ。
なかなかの待ち時間だったけど、それはそれ。
ソフトクリームの為なら我慢できる。
僕達は、ようやくソフトクリームを手に入れ、表に出てきた。
「やばい、めぐむ。めちゃくちゃ、うまそうだぞ!」
ソフトクリーム片手に雅樹は、はしゃいで言う。
「本当に、おいしそう。ねぇ、雅樹、牧場の見える所で食べようよ」
「いいねぇ」
僕と雅樹は、牧場の近くに木陰を見つけ、丸太に座った。
牛がのんびりと草をはむのが見える。
雅樹は言った。
「さぁ、ソフトクリームを食べよう!」
「うん、食べよう!」
僕は、ソフトクリームをペロリとひと舐めする。
舌の上に広がるアイスのひんやりとした感覚。
ミルクの濃厚な味わいなのに、食感はシャーベット状でさっぱりしている。
「美味しい!」
僕は声を上げた。
雅樹も、「うまい!」と同意する。
「うまいから、どんどん食べちゃうな、これは」
雅樹は、そう言うと、ペロペロと無言で舐め始めた。
僕も舐め始める。
うん。
美味しい。
でも、ペロペロしていると、ついアレを思い出しちゃう。
そうだ!
こっそりと練習してみちゃおう!
雅樹を見る。
一生懸命に食べているな。
よし! この隙に……。
僕は、舌を伸ばし、先の方からすこし丁寧にれろれろと舐める。
そして、口を大きく開けて、パクッと咥える。
そのまま、唇で絞り取るように、ゆっくり、ゆっくりと引いていく。
最後は、ちゅぱっと、口を離す。
こんな感じかな?
ふふふ。
それにしても、美味しいな。
僕は、「ああ、幸せ」と思わず声に出す。
横から雅樹の声。
「めぐむ、エロ過ぎ!」
えっ?
雅樹の方に向く。
いつの間にか僕の事を凝視している。
「もしかして、僕の事、見てたの?」
「うん」
見られた! フェラの練習。
カァーっと熱くなる。
頬が火照るのが分かる。
「ひゃー、恥ずかしいな!」
「俺、ときめいちゃったよ。悔しいけど、めぐむのポイント」
雅樹は、人差し指を立てた。
「なんか、複雑……」
「ははは、まぁ、いいじゃないか。それより、ソフトクリームがほっぺについているぞ!」
雅樹は、そう言うと、人差し指で僕の唇をなぞるように触りながら、頬に付いたソフトクリームを拭う。
ドキドキ……。
「ちょ、ちょっと! 急に触らないでよ……びっくりするから」
雅樹は、僕の頬を拭った指をペロッと舐めた。
「美味しい!」
そう言うと、雅樹はウインクをする。
やばい。
キュンとしちゃう……。
こういう雅樹の無意識の仕草って反則。
「雅樹、悔しいけど、ときめいちゃったよ!……もう、雅樹は!」
雅樹の腕あたりをポカポカ叩いた。
「いたた。それじゃあ、俺のポイントで1対1だな。ラッキー!」
雅樹は、楽しそうに言った。
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