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3-19-2 新緑リゾート(2)

次に立ち寄ったのは、花畑が有名な公園だ。 今の時期は、ちょっと遅めだけどチューリップが楽しめる。 どのくらいの本数があるのだろうか? 赤と黄色をメインに、白や紫が混ざり、一面に咲き誇っている。 僕は思わず声を上げる。 「雅樹! 見てみて! すごい綺麗!」 雅樹も、うんうん、と首を振る。 小道を進んで、丘の上の建物まで歩いていく。 僕は、雅樹の手をぐいぐい引っ張る。 「めぐむ、そんなに焦るなって!」 「だって、ほら、絨毯みたいに見えるって」 「ははは。大丈夫だよ。逃げないからさ」 雅樹は優しい笑みを浮かべた。 中央の建物まで来た。 ここからの眺めはチューリップが一望できる。 「わぁ、すごいな。本当に絨毯みたい!」 僕は、両手を大きく広げた。 チューリップだけじゃない。 青空にぽっかりと浮かんだ雲。 風にそよぐ木々。 目をつぶると、心地よい風が頬をなでる。 「雅樹。とても気持ちいいね。あぁ、最高!」 「めぐむが喜んでくれて、俺も嬉しいよ」 僕が目を閉じて深呼吸をしていると、雅樹はポケットからスマホを取り出して言った。 「めぐむ! 写真撮らせて!」 「いいよ」 今日は、こんなにいい天気なんだ。 きっと、色が映えていい写真になるに違いない。 雅樹は、指を差して僕に指示した。 「じゃあ、そこの花のところに行って」 「わかった」 僕は、チューリップと草木が密になっている所に分け入る。 あっ、そうだ! 僕は、ピンと思いつく。 可愛い笑顔で雅樹をときめかせちゃおう! 雅樹がキュンとする顔。 思い浮かべるとドキドキする。 よし! 「めぐむ! 撮るよ!」 「うん」 僕は心構えをする。 雅樹の掛け声がかかる。 「はい、チーズ!」 僕は、小首を傾げて、上目遣い、そして少し唇を突き出して微笑む。 ふふふ、会心の笑顔! パシャ! 「はい、オッケー!」 雅樹は、写りを確認して言った。 あれ? おかしいな……。 雅樹の表情はいつもと変わらない。 僕は、不安げに雅樹に聞いた。 「ねぇ、雅樹。どうだった?」 「どうって?」 雅樹はキョトンとしている。 「その、可愛くなかった? 僕の笑顔」 「可愛いかった」 雅樹はグーサインをする。 「じゃあ、ときめいた?」 「いや……特には」 えっ? ダメなの? 会心の笑顔が……。 もう! じわっと、恥ずかしくなってくる。 なんだよな、少し自信は有ったんだぞ! 密かに、寝る前に鏡の前で練習だってしていたのに! 雅樹は、僕のそんな事情はお構え無しだ。 「ははは、めぐむは、そのままでも可愛いから、無理に笑顔を作らないでいいぞ。まぁ、あざとい笑顔も嫌いじゃないけどな」 「あっ、あざといって……」 完敗……。 「どうせ、僕の笑顔は、あざといですよ! もう!」 僕は、ツンとして歩き始める。 「ちょ、ちょっと! めぐむ! 引っかかっているよ!」 「えっ?」 僕は、後ろを振り返る。 すると、スカートの裾が小枝に引っかかってひらりとまくれていた。 「きゃっ!」 僕は、慌ててスカートを抑える。 もう、恥ずかしいな! 泣きっ面に蜂だよ! もう! 雅樹を見ると手を挙げている。 「どうしたの? 雅樹」 「いや、ときめいた。まさか、しましまパンツとは……。ずるいなぁ、めぐむは。色仕掛けとかさ!」 「えっ? 雅樹、ときめいちゃったの? いいから、そんなのにときめかなくて! もう!」 はぁ、しかも、今日に限って普通のショーツを穿いてきたんだ……。 重ね重ね恥ずかしい。 お昼になった。 僕達は、花畑を後にして、近くのレストランを探す。 国道沿いを走らせていると、工房や公園が併設されたお洒落なレストランを見つけた。 「めぐむ、あそこどうかな?」 「うん、いいよ」 雅樹は、方向指示器を出してレストランの駐車場へと入っていった。 レンガ造り風の雰囲気のある店内。 ピザ窯や、ワインの樽、カウンター席にはビールサーバー。 テラス席のパラソルが風で優しく揺れた。 「ああ、地中海にでも来たよう」 僕はうっとりと言う。 「ははは、めぐむって、地中海に行ったことあるんだっけ?」 雅樹はニヤっとして僕を見る。 「もう! 揚げ足を取ったりして! 意地悪!」 僕は、雅樹の足を踏みつける。 「いててて!」 雅樹は、大袈裟な声を出した。 お昼時に差し掛かっていたけど、僕達は、運よく待たずに席を案内された。 席でゆったりとくつろぐ。 お隣のテーブルには、白髪のご年配のご夫婦。 仲よさそうに会話をしている。 ご主人は、一生懸命に身振り手振りで話す。 時より、奥さんが手を口に当てて楽しそうに笑う。 二人の会話は聞こえてこないけど、ぽかぽかした温かい空気が伝わってくる。 どんなことを話しているんだろう? こっちまで楽しくなってくる。 僕が微笑ましく眺めていると、雅樹が話し掛けてきた。 「めぐむ、お隣のテーブル見ているの?」 「うん。ほら、仲のいいご夫婦だなぁって」 雅樹もしばらく観察する。 「ああ、たしかに楽しそうだな。なぁ、めぐむ。俺たちも、あのご夫婦みたいに、ずっと仲良くいられたら良いよな」 「そう! 僕も今、ちょうどそう思っていたんだ!」 「そっか、同じだな!」 本当に、あんな風になれたらいいな……。 いつまでも、二人で仲良く、一緒の時間を歩んでいく。 そして、いつの日か、今日の事も思い出話として懐かしみながら話す。 そういえば、昔、ドライブに行ったよねって……。 あぁ、いいなぁ……。 僕は、改めてご夫婦をうっとりと眺めた。 しばらくして、お待ちかねのハンバーグがやってきた。 僕は、あまりのハンバーグの大きさに圧倒されてしまう。 雅樹は、舌なめずりをして言った。 「さぁ、食べようぜ!」 「うん。でも、雅樹。半分くらい食べてくれる?」 「おう! 任せろ」 雅樹は、嬉しそうに自分の胸を叩いた。 食後は、レストランに併設された散策路を散歩することにした。 自然の地形を生かした散歩道。 ブナの林が風に吹かれ、ざわざわと音を立てる。 動物がひょこっと出てきそう。 僕は、木漏れ日を手にかざし、木々を見上げる。 「雅樹、いいね。新緑がまぶしい。ああ、気持ちいいな」 順路を進む。 今日はあいにく、サンダルで来てしまったので歩きにくい。 「めぐむ、小川のせせらぎだ。気をつけて」 丸太を渡しただけの簡単な橋。 「大丈夫かな……」 僕は、不安げに雅樹を見る。 「オホン、さぁ、めぐむ。俺の手に捕まって! さあ!」 「ありがとう」 僕は、雅樹が差し出した手を素直に掴む。 ゆっくり、ゆっくり、橋を渡る。 「もうちょっと! 頑張れ、めぐむ!」 雅樹の声が後押しとなって、前へ前へ進む。 時間をかけて、僕は無事に渡り終える事が出来た。 僕がホッとしていると、雅樹は、僕に何かを言いたそうにしている。 「ありがとう。雅樹、助かったよ」 僕はお礼を言う。 「おう、ところでさ。その、なんだ……」 「どうしたの?」 「めぐむ、ときめかなかった?」 「えっ? いつ? どうして?」 「ああ、なんて事だ! ほら、カッコよく手を差し出しただろ?」 雅樹は、頭をポリポリ掻いた。 僕は、素直な感想を述べる。 「うん。カッコよかった」 「でも、ダメか? ちょっと自信あったんだけど……」 雅樹は、ガクッと肩を落とした。 僕は、サンダルの底に着いた泥を取りながら、雅樹をフォローする。 「うーん。雅樹は、カッコつけなくても、いつもカッコいいから。だから、何もしなくていいよ」 「うぉーん、ひどいよ! めぐむ」 雅樹は腕で泣くフリをする。 クスッ。 そのとき、僕の足首がカクンとして、バランスを崩した。 「あぁ、雅樹……」 「めぐむ! あぶない!」 このままだと、小川に落ちちゃう。 ああ、だめだ……。 そう思ったとき、雅樹はさっと僕の腕を掴み取り、自分の胸の押し付けた。 「大丈夫か? めぐむ」 「うん。ありがとう、雅樹」 僕は、雅樹の腕の中でつぶやいた。 あぶなく落ちそうでドキドキした。 でも、いつの間にか、雅樹に抱かれて嬉しいドキドキに変わっていた。 はぁ。 キュンとしちゃったよ……。 僕は、雅樹の腕を振り解き、見上げて言った。 「雅樹、ありがとう。それでね……ときめいちゃった……もう! しようがないよ!」 「えっ? ときめいたの? ははは。なんだ、じゃあ、いま2対2で同点だな」 「うん」

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