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3-20-3 雅樹のいとこ(3)

次のデートの日。 雅樹から連絡があった。 「ごめん、めぐむ。今日の待ち合わせなんだけど、ヒカルがどうしても一緒についていきたいって聞かないんだ」 僕は黙って聞いている。 雅樹は、話を続ける。 「少しの間いさせたら、すぐに帰らせるからいいか? めぐむがダメって言うのならやめさせるんだけど……」 雅樹の気遣いは分かる。 「いいよ」 僕は答えた。 ヒカル君が最後に言った言葉を思い出す。 「お兄ちゃんに選んでもらう」 そうか。 ヒカル君は、今日、告白するのかもしれない。 それは、予感から確信へと変わる。 僕は逃げも隠れもしない。 先に、僕と雅樹が落ち合った。 そろそろ梅雨開けしても良さそうなのに、今日も、泣き出しそうな曇り空。 ここは、いつものショッピングモール。 僕は雅樹と手を繋ぎたかったけど、我慢する。 せめてもの、ヒカル君への気遣いだ。 しばらくすると、どこからともなく、ヒカル君が来た。 例の可愛い女の子の姿だ。 僕は、わざと気付かないふりをした。 ヒカル君が雅樹の間近に来たとき、雅樹は驚いて言った。 「ヒカルか? どうしたんだ、その格好は?」 「どう? お兄ちゃん……」 ヒカル君は、恥ずかしそうに言う。 「いや、びっくりした」 雅樹は、ヒカル君の姿をなんども確認するように見る。 ヒカル君は、雅樹に見られてまんざらでもないような顔をした。 「まぁ、とりあえずは、そこの店でも入ろうか?」 雅樹は、ドーナツ屋を指さして言った。 「……で、お前が来たかったのは、この格好を見せたかったからか?」 雅樹は、ドーナツを口に頬張りながらヒカル君に言う。 僕は、おとなしくコーヒーを飲んでいる。 「まぁ、それもあるんだけど……」 ヒカル君は、オレンジジュースをひと飲みすると、 「ところで、お兄ちゃん。僕のこの姿、可愛いと思う?」 と雅樹に聞いた。 雅樹は、 「うん、まぁな。可愛いと思うよ」 と感想を言った。 ヒカル君は、満足そうにジュースを飲む。 そして、グラスを置くと更に雅樹に尋ねる。 「じゃあ、僕とめぐむさんは、どっちが可愛いと思う?」 雅樹は、びっくりしているようだ。 どう答えたら良いか考えている。 雅樹は、 「そもそも、お前は男の子だしな」 と言いかけた。 ヒカル君は、その答えを予期していたかのようにさえぎる。 「僕は知っているよ。めぐむさんだって、男でしょ?」 雅樹は、驚いて僕の方を見た。 僕は、うん、とうなずいた。 店内は、お昼をだいぶ過ぎていて、お客さんはまばらだ。 こんな会話は危なっかしいけど、これなら大丈夫。 僕は、そう思う自分の冷静さに驚いた。 雅樹は、言葉を見つけて答えた。 「まぁ、二人とも可愛いと思う。これじゃダメか?」 ヒカル君は、まぁいいや、と言うと、じゃあ次の質問ね、と続ける。 「お兄ちゃんは、僕とめぐむさん、どっちが好き?」 「えっ! 好きかって……」 雅樹は、動揺しているようだ。 なんとなく雅樹が可愛そうに思えてきた。 ヒカル君は、返答に困っている雅樹を見かねて言った。 「僕は、お兄ちゃんが大好き。お兄ちゃんのためなら、もっと可愛くなれる自信がある」 ヒカル君は、僕の方をちらっと見る。 そして、雅樹の方に向き直して言った。 「僕は男同士だってちっとも恥ずかしくないよ。人前でだって手だって握れるしキスだってできる。僕は本気でお兄ちゃんのことが好きだから!」 沈黙……。 ヒカル君の視線を感じる。 どうやら僕が何かを言う番らしい。 僕は挑発には乗らず、目をつぶってコーヒーを飲む。 ヒカル君は、堪り兼ねて続ける。 「僕は、お兄ちゃんのためならなんでもできるから!」 雅樹は、ふぅと溜息をついた。 そして、話し出す。 「そうか。どっちが好きかの答えだけど……」 雅樹は、ひと呼吸入れる。 「めぐむだな」 ヒカル君は驚いている。 そして、予想外の言葉に動揺している。 「どうして! どうして! 僕のほうが本気でお兄ちゃんを好きなのに。訳をきかせて!」 ヒカル君は、自信たっぷりだっただけに、ショックの色を隠しきれない。 「ヒカル。お前は、確かに一生懸命俺を好きになろうとしている。それは嬉しいよ」 「それなら、どうして!」 ヒカル君は、身を乗り出す。 雅樹は、落ち着け、とヒカル君をたしなめると話を続ける。 「俺は別に可愛いければ、それで好きかというとそうでもない。それに、お前は、男同士でも人前で手を握れるというが、俺は正直いやだな」 雅樹は、そこまで言うと、どう説明しようか迷っているようだ。 一旦、話を区切る。 ヒカル君も僕も辛抱強く、雅樹が口を開くのを待った。 雅樹は、再び口を開く。 「なぜ、俺がめぐむを好きなのか、言おう。俺はさっき言ったように、男同士で人前でいちゃつくのは嫌いだ。それは周りの人を少なからず不快にさせてしまうからだ」 そっか、雅樹は本気でヒカル君を説得しようとしているんだ。 ヒカル君の本気の告白に、本気で答えようとしている。 僕は、ふと自分の時を思い出す。 「自分たちが好き合っているからって、何をしてもいいわけではない。それは自分勝手な行為だと思う」 雅樹は、なるべく分かりやすい言葉を選ぶ。 ヒカル君は、黙って聞いている。 「そんなとき、めぐむはどうしたかというと、気の進まない女装を勝手でた。自分から。俺のこと、二人のことを考え、できることはないか、そして出した結論だ」 雅樹は、両手を広げた。 僕の顔をチラッと見る。 そして、言葉を続ける。 「だから、派手にならないように、できるだけ目立たないようにしているんだ。自然な男女に見えるように。それもこれも、二人を、俺のためを本気で思ってだ」 ヒカル君は、両手をギュッと握りしめてわなわなと震わせている。 雅樹は、そんなヒカル君を見て少し間をおいて続けた。 「俺は、ヒカル。お前が好き勝手に想像して、自分がしたいことをして、それを押し付けているだけに見える。相手の気持ち、俺の気持ちを本気で考えたか?」 ちょっと言い過ぎのような気もするけど、ヒカル君にははっきりと言わないと伝わらない。 雅樹もそう思ったのだろう。 ヒカル君は唇をかみしめている。 悔し涙が頬に伝わる。 雅樹は、にっこり微笑む。 「なぁ、ヒカル。これは本当の恋じゃないんだ。たぶん単なる憧れだ」 雅樹の声は、優しさに満ち溢れている。 「本当の恋をすれば、相手の気持ちをまず先に考えられるようになる。そうすれば、いつか、俺にとってのめぐむみたいないい人がきっとみつかるはずだよ」 雅樹は僕の方を見る。 俺は、間違った事は言ってないよね? そんな風に問いかけているようだ。 僕も雅樹を見返して頷いた。 雅樹は、ヒカル君の方に向き直す。 そして、うつむいて涙をこらえるヒカル君の頭をそっと撫でた。 「ごめんな。お前の期待にそうことはできなくて」 雅樹は優しく言った。 ヒカル君は、しばらく嗚咽を抑えながら肩で泣いていた。 落ち着きを取り戻すと、雅樹に向かって 「さようなら、お兄ちゃん……」 と言い残し、立ち去っていった。 理解できたのか、納得できたのか、わからない。 ヒカル君を、見送った雅樹は、 「ちょっと、大人げなかったかな?」 と僕に尋ねた。 「ううん。ちゃんと振ってあげれてよかったと思う。これで、ちょっとは大人になれるし、次の恋に向かうことができると思う」 僕は、素直な意見を返した。 雅樹は頷いた。 「そうだね。ちょっと酷だったけど、ヒカルには、これからいい恋をして貰いたいからな」 雅樹は、自分に言い聞かせるように呟いた。 僕は、手を伸ばす。 雅樹は、僕の手を取り重ねた。 雅樹は良くやったと思う。 振られるのも辛いけど、振る方も辛い。 だから、雅樹には優しくしたい。 僕が出来る事はそれだけだから……。 雅樹は言った。 「めぐむ。いままで、いろいろ迷惑をかけて、ごめんな。俺が、ちゃんとヒカルに言ってやれなかったために、めぐむにも、ヒカルにも悪いことをしてしまったと反省している。ごめん」 僕は、首を横に振る。 「ううん、大丈夫。でも、僕のこと誉めてくれて、嬉しかった」 雅樹は、安心したような表情を浮かべた。 「なぁ、めぐむ」 「なに?」 「俺、ちゃんと言ってなかったかもしれないから、言うけど」 「うん」 雅樹は、僕に真剣な眼差しを向ける。 そして、口を開いた。 「めぐむのこと愛している」 えっ? 一瞬時間が止まる。 耳を疑う。 雅樹は、何て言ったの? 愛している、って言った? なんだろう、鼓動が早くなる。 重ねた手をぎゅっと握った。 そっか。 『愛している』は、はじめてだ。 雅樹から言って貰ったのは……。 雅樹は、少し照れくさそうな顔をしている。 心の中が、ぽかぽかしてくる。 温かい。 こんな気持ち、いつ以来だろう。 雅樹の微笑み。 僕は、言った。 「雅樹、もう一度言って」 「嫌だよ」 雅樹は、即答する。 僕は、思わず微笑む。 「じゃあ、僕もちゃんと言ってなかったから言うね。雅樹のこと愛している」 「知ってる!」 「意地悪!」 僕と雅樹は、クスクスと笑った。 もうすぐで夏になる。 僕は、雅樹の手を握りながら、外の景色を見た。 さっきまでの曇り空はすっかりと晴れていた。 夏の日差し。 僕は、今日のことをずっと忘れてないように風景ごと心に刻もうを思っていた。 *「めぐむ君の告白」第三章 完

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