初夏の爽やかな風が心地よいある日の事。 僕は、いつもの朝の通学路であるチェリー公園を突っ切って、駅に向かおうとしていた。 チェリー公園に入ったところで、僕の行く手を塞ぐ人物があった。 白いシャツとジーンズというラフなファッション。 いま起きてきたかのようなくしゃくしゃの髪の毛。 そして、透き通るような綺麗な目。 シロだ。 珍しい。 いつもは、僕が声をかけてもなかなか姿を見せないのに……。 シロは、僕のかけがえのない親友。 そして、何を隠そう、人の姿に見えるけど猫なのだ。 シロは、早口で言った。 「やばいよ。めぐむ！　ちょっと話せないか？」 「どうしたの？　あわてて」 いよいよ、シロらしく無い。 いつもはカッコつけて、クールを気取っているのに。 それに、シロが僕を頼るなんて。 「それがさ……」 シロが話そうとしたところで、今日は日直だったことを思い出した。 「あっ、ごめん。今日は、学校へすぐにいかなきゃ！」 「なっ……」 シロは困った顔をした。 「そうだ、シロ！　夜、僕の部屋に来てよ。そこでゆっくり話を聞くから！」 「わかった。じゃあ、ベランダで待っているからな。きっとだぞ！」 「うん！　じゃあね！」 僕は、シロに手を振りながら、公園を抜け出して駅に走りだしていた。 学校について昇降口で靴を脱いだ。 前屈みになって靴を掴んだ時、スマホがブルッと震えた。 誰からだろう？ 通知を見ると、２学年下の後輩の松田君からだ。 松田君は、大柄で筋肉隆々の格闘家。 一見、僕と接点があるのは不思議なぐらい別世界の人物。 でも、先日、新入生の道場破り騒動に僕が関わった事で、それ以来交流ができた。 と言うか、何だか一方的になつかれてしまった感じ。と言うのが正しい。 とても素直で真っすぐな子。 なのだけど、ちょっと変わっている面がある……。 いや、すごく変わっている。 でも、悪い子じゃない、のは確か。 なので、ついかまってあげてしまうのだ。 その、松田君から通話のリクエスト。 もう、学校ではメールにしてくれないと困るのに……。 でも、通話って事は緊急な事なのかもしれない。 そんな思いで通話を受けた。 「はい。青山です。松田君、何？」 「あっ、会長！　すみません。突然」 「ううん。いいよ。で、何か用？」 「えっと、お願いがありまして……」 「うん、言ってみて」 「俺の友達なんですが……ちょっと相談に乗ってもらえませんか？　会長」 「松田君！　その会長っていうの、やめてよ！」 「すみません、会長。でも、ちょっと俺じゃ手に負えなくて……」 松田君も何やらテンパっている。 電話口の声から必死さが伝わってくる。 「だから！　その会長っていうの！……って、もう……しょうがないな。で、どうしたらいいの？」 「えっと、放課後、外で待ち合わせで。場所はメールします」 「わかった。でも、良くわからないけど、僕にあまり期待しないでよね」 「了解っす！」 つー、つーっと切断された音。 もう、松田君は、どうして僕のことを『会長』って呼びたがるんだろ。 わざとだよね。もう！ 今日の午前中は、受験オリエンテーションというのがあって、ＯＢ、ＯＧが学校に訪問してくる。 それで、大学の事をいろいろと教えてくれるのだ。 だから、とても楽しみで、僕は何を聞こうか、いろいろと考えていた。 その、受験オリエンテーションで僕のクラスに来てくれた先輩が、なんと図書委員の先輩の山吹先輩だったのだ。 山吹先輩は、いま美映留大学経済学部の２年生。 サークルでは、文芸サークルに入っているらしい。 その活動内容をあまりにも楽しそうに話すので、僕までウキウキしてしまった。 「……というわけで、大学は好きなことができて、今すごく充実してます」 山吹先輩の一通り説明が終わり、拍手が起こった。 担任から、声がかかった。 「はい。それじゃ、質問ある人！」 「はい！」 数人の手が挙がった。 「どうぞ！」 「あの、先輩は恋人はいらっしゃるのですか？」 女子生徒からのお約束の質問。 山吹先輩は、想定内だったのか、笑いながら受け答えた。 「ははは。まぁ、大学とは関係ない質問だけど。うん。いるよ！」 「おー！」 別の生徒からの質問。 「先ほど一人暮らしって言ってましたけど、同棲とかされているんですか？」 「まいったなぁ。ははは。まぁ、そうだね。同棲している」 「おー！」 クラスは、最高潮に盛り上がる。 先生は、はぁ、とため息をつくと、「もっと大学の質問して……」と手をパンパンと叩いてクラスを鎮めた。 山吹先輩は、それにかまわず教室を見まわして言った。 「ははは。まぁ、そう言うことだから、大学になったら、高校とは違って、自分で生活していく。社会にでる準備をする。そんな時期でもあるってことかな」 「おー！」 大きな拍手が起こった。 よくわからないけど、クラスのみんなの受験に対する士気が確実に上がった。 結局、みんなそっちが大事なんだよね。勉強よりも……。 という僕もその中の一人なわけで……。 それにしても……同棲かぁ。 山吹先輩もやるなぁ。 雅樹との同棲生活。 ああぁ、憧れる…。　 ふと、意識が宙を舞う。 僕は、キッチンで叫び声。 お鍋のとってが思いのほか熱く、すぐに手を引く。 「あつっ！　指やけどしちゃったかも！」 「ばっ、バカ！　どれ！」 リビングでくつろいでいた雅樹は、すぐに駆けつけて僕の指をじっと見る。 そして、躊躇なく口に咥える。 ああ、雅樹のお口に僕の指がすっぽりと……。 キュン……。 「大丈夫か？」 「うっ。うん……ちょっと、熱かっただけ。もう大丈夫だよ」 「無理しなくていいからな。めぐむ」 「うん。雅樹」 見つ合う二人。 そして、そのまま互いの顔か近づき唇が合わさる。 チュッ……。 雅樹は、僕の耳元でささやく。 「なぁ、めぐむ。俺、ご飯前にお前を食べたいけど」 「えっ？　もう！　エッチ！　ちょ、ちょっと、乳首さわらないでよ」 いつの間にか、エプロンの隙間からスッと手が入る。 裸エプロンだから触りたい放題になっているのだ。 そして、僕の敏感な乳首の先をコリコリといじり出す。 「なんだよ。もう、固くなっているじゃんか」 「もう、雅樹のここだって、カチカチでしょ！」 僕もお返しとばかりに、雅樹の股間をまさぐる。 雅樹の手は、僕のお尻に移動した。 そして、柔らかいところを鷲掴みに揉み始める。 「ははは。裸エプロンっていいよな。ほら、お尻をすぐに揉めるし」 「あっ、あん。だめだよ。そんな風にお尻を揉まないで……」 「さて、俺のカチカチペニスをめぐむのここに当てがってと。さて、入れようかな？　やめようかな？」 「もう！　じらさないでよ！」 「ははは。めぐむ、エッチだな！」 そんな事ないもん！　っと言ったところで、誰かの声が耳に入った。 「なぁ、青山君！」 はっ！ 「大丈夫か？　青山君」 「あっ、山吹先輩。だっ、大丈夫です。はぁ、はぁ」 いつの間にか、受験オリエンテーションの時間は過ぎていた。 目の前には、山吹先輩。 「ちょっと、話があるんだけど。いいかな？」 「えっと……いいですよ」 山吹先輩は、にっこりと笑った。 山吹先輩と図書室にやってきた。 談話スペースのテーブルを囲む。 「やっぱり、ここは落ち着くな。懐かしい！　うーん。本の匂い」 「ふふふ。そうですよね。僕もここが一番落ち着きます」 山吹先輩は、久しぶりの図書室を見回しながら大きく息を吸った。 「で、青山君にちょっと相談があってさ」 「僕にですか？　僕にできることが有るなら……」 山吹先輩の言葉に、僕はちょっと驚いて聞き返す。 大学生の山吹先輩が、わざわざ後輩の僕なんかに相談なんて。 一体なんだろう？ 「うっ、うん。ちょっとね、とある人から、相談なら青山君がいいって聞いてさ」 「とある人？　って、どんな事でしょう？」 「そうだな……やっぱり、ここじゃ言いにくいから、今日夕食を一緒にどうかな？　奢るから」 「夕食ですか。えっと、たぶん大丈夫です」 雅樹とデートの予定は入っていない。 たしか、雅樹は予備校の日だったはず。 突然のデートの可能性も薄そうだ。 「本当？　よかった。じゃあ、６時に美映留中央駅で待ち合わせ。どう？」 「わかりました」 山吹先輩は、じゃあ、また後で、と言って去っていった。 それにしても……。 一体どんな、相談だろう？ やっぱり、本関係かな。 そう言えば、山吹先輩、文芸部の活動の話に熱が入っていたから、そっち関係かもな。 僕は、そんな事を思い浮かべながら、 「そうだ、お母さんに食事要らないって連絡しなきゃ……」 と、スマホに書き込みを始めた。