53 / 59
サイドストーリー3 会長!相談があります(2)
午後の授業は滞りなく終わり、僕は速やかに下校した。
そうなのだ。
朝、松田君から連絡があった件。
松田君とそのお友達と会うのだ。
僕は、スマホを見て待ち合わせ場所を確認した。
美映留中央駅に付くと、約束のカフェを探した。
と、そこで、松田君からメールの着信があった。
『青山先輩、すんません。俺ちょっと部活の急用で行けなくなりました』
へっ?
「なんだよな。松田君は。まったくもう!」
『でも、俺の友達は、待っていますから。目印は……』
帰ろうかとも思ったけど、一度引き受けたからにはそうもいかない。
どんな子か知らないけど、一通り話を聞いたら適当に切り上げよう。
僕は、そう思いながら、約束の美映留中央駅のカフェに入った。
目印のスポーツ雑誌を持っている人。
店内をキョロキョロして、それらしき人物に目が留まった。
あっ。
この人かな?
美映留高校の制服。それに目印のスポーツ雑誌。
サッカー雑誌だろうか?
でも、想像してた感じとはだいぶ違う。
その人は、スラっとしていて線が細い。
松田君の友達という事で、筋肉隆々の体形の人を想像していたんだけど……。
僕は、そっと尋ねた。
「あの? 松田君のお友達ですか?」
「あー。会長ですか? 同好会の?」
当たりなんだけど……いきなり初対面で、会長って……。
松田君は、僕のことをどうまわりに言いふらしているんだろう。
「僕は、青山っていいます!……まったく松田君は!」
「青山先輩。すみません……つい。あっ、俺、吉村っていいます」
吉村と名乗ったその子は、僕を見上げて、申し訳なさそうにごまかし笑いをした。
その笑顔を目にして、僕はハッとした。
すごい、イケメン……。
向いの席に座り、改めて吉村君を観察する。
座っていても分かる長身の背丈。雅樹と同じくらいはありそう。
整った顔立ち。
サラサラの前髪の隙間から、柔らかい甘い眼差しが僕に向けられる。
きっと、すごいもてるんだろうな……。
たくさん遊んでそうなチャラ男。
そんな、第一印象。
「あの、俺の顔になにか?」
「へっ? ……オホン。なんでもないよ……吉村君。松田君と同じ一年生?」
「はい」
いくらイケメンが目の前にいても、僕は、ぜんぜん動じないよ。
だって、雅樹に敵 うわけないんだ!
僕は、そう自分に言い聞かせ、さっそく本題に移ることにした。
「で、相談って何?」
「あっ、はい! 俺、好きな人がいて、その人とどうしても付き合いたいんです」
吉村君は、真剣な眼差しで言った。
あれ?
話を聞いてみると、遊んでいる感じはなく、まじめな感じ。
松田君とは、見た目は大違いだけど、同じ雰囲気をもっている。
僕は、ああ、これは好感を持てるタイプだな、と思ってすぐに認識を改めた。
それで、ちゃんと話を聞いてあげよう、と襟を正す。
「恋の相談ね……僕に手伝えるかな……」
「その……たぶん、大丈夫だと思います。その、俺の一目惚れの人なんですが……」
「うん」
「男なんです」
はぁ……。
会長って、言われた時からそんな気はしていたんだ……オトムサ同好会関連だって。
まぁ、それこそ男女の恋愛だったら、お手上げだったわけだけど……。
「それで、松田君が僕を推薦したの?」
「はい! 会長、いえ青山先輩は、男同士の事なら右に出るものはないとか……」
「ぶっ! もう! 松田君は、変な噂を流さないでよね!」
「あっ、大丈夫です。先輩。これは、裏掲示板の会員しか知らないことなので」
「裏掲示板……? たしか松田君が言っていた」
「ええ。OBの方が立ち上げてくれていて」
「はぁ……OBって、氷室先輩でしょ? もう、あの人は……」
「でも、その方は、青山先輩の恋愛語録を引用しているっていってましたけど……反響もすごいって」
「えっ……?」
僕は、ジュースのストローをいじりながら、ため息をついた。
氷室先輩に会う機会があったら、一言いわないと。
僕の事を過大評価しすぎているし、変に期待しているし……。
さてと……。
氷室先輩のことはさて置き、男同士の恋愛相談かぁ……。
吉村君を見ると、真剣な面持ちで僕の言葉を待っている。
冗談や冷やかしってわけじゃなさそうだ。
「で、告白の仕方とかかな?」
「いいえ。実は、告白はしたんです……今朝なんですが、松田について来てもらって」
なるほど。
きっと、朝の松田君からの通話の時。
松田君、ずいぶんテンパっていたもんね……。
「それで、告白はどうなったの?」
「だめでした……」
吉井君は、残念そうに視線を落とす。
「そっか……でも、諦めきれない?」
「はい。絶対に諦めきれません!」
おもてを挙げた吉村君の目は、キラキラしている。恋する最強の目だ。
ふむ。
なるほど……。
僕は、腕組みをする。
これが恋愛の難しいところ。
どんなに好きが大きくても、片方だけだと絶対に実らない。
でも、嫌われているのではなければ、これから好きになる可能性はある。
「ねぇ、吉村君。相手の子には、どんな感じで断られたの?」
「えっと……怒った顔して、もう、二度と姿を見せるなって……」
あちゃー。
これは、完全に嫌われたパターン。
初めて見た人にここまで言うって事は、男同士を否定された。きっとそうなのだろう……。
これは、いよいよ難しい。
僕は、吉村君が傷つかないように遠まわしに言った。
「吉村君、相手に嫌われちゃったんだったら……難しいかも」
「俺は違うと思っています。きっと、誤解をしているんだと思います。その誤解を解いてもらいたくて」
「ん? どういうこと?」
「その……俺、いきなり告白したんです。だから、俺の気持ちがちゃんと伝えきれなくて……」
ああ……。
なにか、自分の時と重なる。
僕もそうだった。
自分の気持ちを伝えたいのに、うまく伝えられない。
結果的にはうまくいったけど、吉村君の気持ちはよくわかる。
まだ可能性はあるんじゃないか、という希望。
確かに、突然の告白ならそういうこともあるかもしれない。
吉村君は、力強く拳を固めていった。
「それで、もう一度、告白しようと思うんです。青山先輩、一緒についてきてもらえませんか?」
僕は、吉村君の熱意に即答した。
「うん。わかった。僕もついていくよ。で、いつ告白するの?」
「これからです!」
「へっ?」
僕は、吉村君に連れられて、美映留中央駅の改札まできた。
「吉村君の好きな人って、他校の生徒なの?」
「はい」
「へぇ。通学時に一目惚れかぁ。なんだか、ロマンチックだね」
その時、ちょうど電車が到着したのか、すごい人が押し寄せる。
「青山先輩! 来ました!」
吉村君の声が耳に入った。
僕は、人の流れに目を凝らす。
どの人だろう?
他校ってことは、美映留学園の生徒かな? 美映留学園の制服はっと?
せめて、背丈や体形を前もって聞いておけばよかった。
ふと、吉村君は、つかつかと目的の人の所へ歩き出した。
僕は、その後ろをついていく。
「あっ、あの!」
吉村君が声をかけた。
その人物が振り返る。
「なに? 何かようですか?」
振り返った人物を見て、僕は目を疑った。
あれ?
女の子? だよね。
美映留女子高校の制服を着ている。
ふつうの女子高生。
たしか、男って言っていなかった?
僕は、口をあんぐり開けた。
ということは……。
まさか、女装!?
いや、いや、そんなわけない。
いくら何でも、女子高に男の子がもぐり込めるわけがない。
吉村君が声をかけた子は、3人組の女の子グループの一人。
その両脇の友達が言う。
「ちょっと、あんた誰? あれ? あんた、今朝、希美 に声をかけた男じゃない?」
「本当だ。ちょっと、あんた。一回振られているでしょ? 希美に付きまとわないでくれる?」
希美と言う子は、腕組みをして、僕達をみつめている。
一見、綺麗なストレートの髪でおしとやかで清楚な感じ。
小顔で丸顔。
とても可愛らしいけど、目は大人びたシャープな目をしている。
そのせいか、ハッキリと意思を持った表情に見える。
クラスの中心にあって、リーダーシップをとり誰からも信頼されクラスを導いていく。
そんなことができる人物。
僕は、そんな印象を持った。
吉村君は、言った。
「君は、希美っていうんだね。おっ、俺は、君に一目惚れなんだ。話だけでも聞いてくれないか!」
友達が一歩前にでて、吉村君に詰め寄る。
「希美は嫌がっているのよ。わかる? ねぇ、希美いきましょ!」
「ほんと、これ以上つきまとうと警察呼ぶわよ! ストーカーだって」
「お願いだ。話だけでも……」
吉村君のすがるような言葉。
希美さんは、しばらく黙って僕達を観察していたけど、プイっと顔を背け、「いきましょ!」と二人の友達に声をかけた。
僕は、そのやり取りを見ていて、ある違和感に気が付いていた。
もしかして……。
僕は、すれ違いざまに一言いった。
「希美さん、男同士の話をしませんか?」
希美さんの目が一瞬見開いたのを、僕は見逃さなかった。
なるほど。
やっぱり、そういうことか……。
3人は、去っていった。
吉村君は、肩を落とし、悔しそうに言った。
「青山先輩、すみません。やっぱり、駄目でした……」
「うんうん。吉村君。とりつく暇もなかったね。でも、ここにいれば、きっと……」
僕がそう言いかけたとき、前から、近づいてくる人物があった。
「ほら……ね?」
「どっ、どうして……」
その人物は、希美さんだった。
今度は一人きり。
吉村君は、驚いて声が出ない様子。
希美さんは、僕の前まで立ち止まると、腰に手を当てて言った。
「ねぇ、あんた。さっき、言っていたこと。どういう意味か説明してくれない?」
ともだちにシェアしよう!