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第6話

 逆らえないこと知ってる。罪悪感があるなら最初からやるなよ。罰だとでも思ってんのかな。  痣が残るほど小さな尻を揉んでぱちんと叩く。芝生の上で動物みたいに交尾した。屋根もない。もしかしたら誰か来ちゃうかも知れないのに。潔癖な桐島が尻の穴気持ち良過ぎて芝生に肘と膝付いちゃってるのも興奮した。本当に野良猫の交尾だよ、こんなの。チャイムが鳴って近くでたくさんの話し声がした。もしかしたら1人くらいには見られたかもね。でもヤリサーとかあるし構内でヤッたって奴もいるし別に恥ずかしいことじゃないよ。でも桐島の穴は反応するからずこずこ突いた。 「あっあっあっあっ…」  首がぐらぐらしていた。あまり大きな声出すとバレちゃうのに。強く押さえたら折れそうな細い腰をさらに引き寄せてもっともっと腰を振った。ちょっと疲れて桐島の背中に乗っちゃう。ちんこが気持ち良過ぎて尿道壊れそう。爆発するくらい射精しちゃうんじゃないかって。ここがどこかなんてもう忘れて、ただ桐島の匂いを中毒になるほど吸った。アレルギー起こすくらい。桐島アレルギーになれたらもうこんなやつの傍になんか近寄らないのに。 「あっあ、っん、」  足音がした。僕は桐島の髪を掴んで顔を上げさせる。 「ぁ…あぁ…」  きゅんきゅん穴が締まった。見られたいのかな。それとも集中してくれてるの? 建物の壁から誰か来て、僕等がお取り込み中って知ったらすぐに帰るものだと思ってた。言い触らされたらどうしよう。僕はいいけれども桐島きゅんは。 「礼斗…?」  達央が立ち止まった。僕も腰振るのをやめた。桐島も肘を伸ばして固まった。ちんこの感覚が無くなったみたいだった。フル勃起してるのか激萎えしたのかも分からない。ただ桐島が「嫌だ、嫌だ、」って僕から逃げようとするのだけは力任せに留めた。僕を蹴って、暴れようとするから羽交い締めみたいに抱き締めて達央は僕を見ていたけれど少し目線を動かせば桐島のちんこも見えちゃう。 「あ…うん、達央」  僕が達央に返事をすると桐島は諦めたように抵抗をやめた。 「これは一体どういう…」 「あ~、話せば長いんだケド…付き合ってるんだよ。そ、真剣に」 「ち、違っ…」  僕は「黙って」って言って否定し始めた桐島の首に絡んで口を塞いだ。どうよ、これで本当に付き合ってるっぽくない?達央はおそるおそる僕等のほうに来た。真昼間からお外でサカっちゃってるから呆れた…かな?また余計なこと言わないように唇くにくにしながら明らかに引いてる達央を見上げる。 「ご、ごめん。ちゃんと言わなくてさ!男同士だし色々立て込んでてさ、言おうとは思ってたんだよ!でも、双方の了解ってものが…」 「ダメだ!」  怒鳴るように言われてびっくりした。僕は抱き締めてる桐島ごと肩を縮めた。僕の片腕を掴んで簡単に桐島から剥がされる。ちんこが桐島の穴から抜けて丸出しになって恥ずかしいのに引き摺られながらしまった。桐島は芝生の上で遠くなる僕を見ていたし僕も乱暴された女の子みたいな格好の桐島を見てた。 「達央?」 「…ダメだ、付き合うとか。ダメだ…!」  男相手だから?桐島だから?桐島が否定してくれちゃったから?引き摺られて引き摺られて、僕が達央の力に勝てるわけないんだよな。真っ暗な空き部屋に連れ込まれて、でも新設の裏会館はセンサー式だから、なんだか達央の超能力みたいでカッコよかった。後姿に見惚れてぼやぼやしていたらすぐ近くの机の上に押し倒しされて背中がちょっと痛かった。顔の真横に手を着かれて、達央の顔が近付いた。鼻と鼻がぶつかりそうだ。あと少し動いたらキスしちゃいそうなんだけれども。今日僕ニンニクとか食べてないよね?って疑った。達央はニンニクとか食べないのかなってレベルでいつもいい匂いがする。足の裏も腋の下も臭くないんじゃないかな。香水が人間になったみたいな人だよな、達央は。 「近くない?」  息臭かったらどうしよう。朝からバニラアイスしか食べてないから大丈夫だよね。桐島の(おっぱい)の味だと思って最近バニラの食べ比べばっかやってる。甘過ぎると母乳感ないし、ミルクっぽすぎるのもやっぱり牛乳って感じがするからなかなか。桐島の乳首に乗せて食べたい。風邪ひいちゃうかな?すぐ風邪引きそうだもんな。コンデンスミルクにしといてあげよ。 「誰のこと考えてるんだ?」  温かい手が頬っぺたを撫でる。達央かなり強めに逆光して暗いけど瞳孔見えるほど近い。 「え?タっちゃんのコトに決まってんじゃん」  へらへら笑って誤魔化しながら達央の肩を押そうとした。でも片手掴まれる。 「付き合うなんてダメだ…」  手が震えるほど強くて僕はもう冗談に聞こえなかった。でもへらへら笑うことはやめなかった。悪いとは思ってる。達央に酷いことしたら桐島と付き合うなんて。咄嗟に出た嘘だけれども。付き合う気なんか毛頭ないよ。桐島の乳首と穴の締まりは好きだけれども。付き合うってちょっと…だって達央の上に乗っかるようなヤツ、荷が重いよ。でもやっぱ嘘だよ、なんて言ったら付き合ってないのにエッチするヤツだと思われちゃうよ。実際そうなんだけれども達央はそういうところしっかりしてるからセフレとかいう概念許さないに決まってる。 「ご、ごめん~」 「桐島と別れて、オレと付き合って欲しい」  そこまで言っちゃう?あんなとんでも似非処女野郎と付き合うなら自分と付き合えってそうとう桐島やべぇヤツじゃん。達央にここまで言わせちゃうのか。よっぽどだよ、桐島のやつ。桐島のクセに。達央にこんな僕みたいな浮気性で寝取り野郎みたいな横恋慕大魔人みたいなこと言わせるなんてさ。達央は女の子が好きなんだから僕のせいで変態だと思われるのは非常に良くない。 「いやいやいや、それは流石に悪いよ」  桐島とはそもそも付き合ってないんだから折を見て別れた設定にしておけばいいんだし。乳首と尻穴は借りるけれども。 「礼斗」  あれ、達央、僕のこと下の名前で呼んでたっけか。 「な、何…?」  桐島と付き合ってるなんて、達央のこと裏切ってるも同然だよ。でも桐島はセフレだなんて、僕がセフレを許してるだなんて達央には刺激が強いよ。誠実で純情なんだから。 「オレだって礼斗が好きだ!ずっと好きだった。でも男同士で、親友だから言わなかった!」  面倒臭いことになったな。嘘なんか吐くもんじゃない。僕はたったひとりの親友にこんなこと言わせんの?嘘とかそんな得意じゃないだろうしなるたけ誠実でいたいし自分のために嘘吐かない達央に、達央が一番嫌がりそうなタイプの嘘吐かせるの? 「あ~もう!分かったよ!」  白状するしかないんだな、って。 「桐島とは付き合ってない。ただのセフレで……ごめん、嘘吐いて。つい咄嗟に、」 「許さないよ、礼斗」  唇が柔らかくなる。お笑い芸人もよくやってるじゃんね。でも達央は僕の手を握った。それがちょっと生々しい。顔を逸らしてひたすら謝る。僕はまだ達央の親友でいたい。信頼は口ではなく行動で示さなきゃならないのに。でも達央が僕を軽蔑しないってなんか確信があって、だから僕はそれに甘えちゃうんだよな。 「わひっ」  達央に見惚れてたらまだ萎えきってないちんこ圧迫された。達央の両手は僕の手を掴んでる。達央のご立派そうというか銭湯で見た時はご立派だったもの場所が布4枚くらい通して僕のちんこにぶつかってる。おぅおぅアニキ!みたいな展開じゃん… 「勃ってる」 「う、うん…」 「抜いてやる」 「え!いいよ!ちょっとトイレ行ってヌい…て、く――――るからって言おうとしたのに片手だけ放されてちんこ撫でられた。達央はそんなことしちゃダメだって!まともに履き直してないズボンなんかスルッと膝まで下ろされちゃってちんこ元気で恥ずかしくなっちゃった。達央は僕の上半身をレールみたいにして屈んだ。ちんこ至近距離で見られてるんだが。ズル剥けとはいえ恥ずかしい。息がかかるし達央の手めちゃくちゃ熱い。 「ちょ、…っと、タっちゃん?」  達央の綺麗な形の唇に僕と桐島の体液だらけのちんこが挟まれる。 「オレが抜く。もう他の人のこと頼るな」  どこで覚えたのかな、なんて思った。でもすぐそんな呑気のこと考えていられなくなって、達央の柔らかな口の中がれろれろに僕のちんこを舐めしゃぶった。めちゃくちゃ上手くて無意識に達央の頭退かそうとしたら強めに手を繋がれてちゃぷちゃぷ音がした。 「た、つひ…さ、なんか…上手くない?」  返事するみたいにいきなり達央の喉の奥まで深く入った。でも親友のフェラ顔なんか直視できるもんじゃない。いくら達央がいい男だからって。 「たつひ…さ?もう、放した、ほうが、いっ、!」  早漏みたいに親友の喉の奥でぶっ放した。早漏だと思われるじゃん。男の沽券に関わるって。違うんだよ、桐島の尻穴にちんこ突っ込んでたからなんだよ。なんて言い訳がどぴゅどぴゅ脈打つたびに浮かんだ。達央の喉が動いてることにも気付かなかった。最後の一滴まで出し切って、お掃除フェラまでされて僕は下半身の前にいる人の顔が見られなかった。モンスター級のとんでもブスでもいいから達央じゃないことを祈ったのに、僕のちんこしまって立ち上がって視界に入ったのは見えたのは達央だった。僕は顔が熱くなって思わず逃げてしまった。手が冷たくて気持ちいい。 「飲んじゃった?」 「美味かった」  達央の目がちょっと眠そうなのにギラギラしてる油断ならないような感じになっていて、僕はまた達央の顔から目を逸らした。でも達央はすぐに近付いてきて僕の肩を抱き寄せた。前とは違うニュアンスを感じてしまう。 「ひぇっ」  こんなこともあるのか?親友のちんこ舐めるものかね?僕は達央のちんこ舐められないよ。でもしてもらっちゃったからには手コキくらいしなきゃかな…でも達央をそういう目で見るの怖い。桐島の粗末な標準平均仮性包茎なら舐められるし手コキでも何コキでもしてあげられるのに。達央が嫌っていうか、桐島がなんか甘そうなだけなんだよな。ザーメンちょっと苦かったけれども他の人たちと比べたら多分断然甘いほうだと思う。知らないけれども。 「離れるな」 「…あ~、用事思い出しちゃってさ!」  用事なんかないから嘘だよ、最低だ。そうだ、桐島どうしてるんだ。僕は用事というものを無理矢理作った。一刻も早く達央から離れてお互いに冷静になる必要がある。 「礼斗…オレは、」  謝られそうでおっかなくなった。達央は何も悪くない。勃起治めてくれて助かったわけで。オナニーさせてくれた方がもっと助かったけれども。 「いいって、いいって!こういうコトもあるよな!じゃ!」  明らかに不自然だったけれど、もう後戻りできなかった。嘘は吐かない。本当に文字通りヤり捨てした桐島を探しに僕は達央の前からすっ飛んでいった。もうどこか行っちゃったかなって思っていたのに桐島はさっきヤってた場所にいた。体育座りで隅の方に縮こまっていた。バレーボールのフローターサーブの壁打ち練習したくなる。陰湿通り越してかなり派手ないじめだよそれ。 「真樹ちぃ」  とにかく絡みたくなって桐島の身体に纏わりついたり体当たりした。桐島は俯いてばっかりで僕を見てくれなかった。 「真樹ちぃ」  僕の匂いを擦り付ける。桐島の身体は骨張って固かった。 「君はなんでそんな能天気でいられる?」  膝に顔を埋めていた桐島がやっと僕を見たけれど、呆れた感じがあった。 「なんでって…能天気かな、僕」 「君が能天気じゃなかったら何が能天気だか分からない」  また桐島は俯いて、バレーボールのフローターサーブの壁打ちしたくなるポーズをとった。能天気なんだな、僕は。でもここまで戻ってくるのはちょっと大変だったんだぞ。 「それより真樹ち、ちんこは大丈夫なん?自分でした?」  小さく桐島は首を振った。じゃあまだイき顔拝めるやんけ!ってばかりに僕は桐島の前に移動した。膝を開きたい僕と膝を開かれたくない桐島の攻防。全身使える僕のほうが有利だった。 「僕もうさっき抜いてきちゃったから真樹ちの抜いたげる」 「い、いい!要らないっ」 「なんでさ」  桐島は嫌がる。射精大好きでしょ。男ならみんな射精大好きだよ。 「もう解放してくれ…佐伯に酷いことをしたのは本人にきちんと謝る…何度でも謝る……だからってこんな、」 「謝るだけ達央は許してくれるよ。そんなに許しの言葉が何度も何度もききたいんだね。そのたびに達央がどんな気持ちになるか分かってるの?」  ちょっと手加減していたけれど全力で膝を開いた。ファスナー開きっぱなしだった。 「や、め……っ!」 「ほら、抜かないとカラダに毒だよ。僕ってばこんなやつの健康まで考えて優しい!」 「いやだって…、言って、」 「ダメだよ。真樹ちに拒否権なんかないよ。何勘違いしてるの」  ちんこ触ろうとする僕の手を引っ掻いて嫌がって、意地っ張りだよ桐島。桐島のクセにもったいぶってさ。 「やめてくれっ!もう嫌だ!やめてくれ、俺に構わないでくれ!」  僕は桐島の真横の壁を蹴った。足の裏を壁に引っ掛けたまま、面白いくらいにビクッとした桐島の脳天を見下ろす。将来ハゲそう。 「やだよ、構うよ。真樹ちが僕しか見られなくなるまで構うよ。だから謝り続けるなら達央にコクって玉砕してよ。友達になんかもう戻れなくなるケド、いいんじゃない?僕とはセフレでいられるし、なんなら本当に付き合う?僕、真樹ちのちんこなら舐められるよ。ちんこどころか穴もね。唾も飲めるんじゃないかな。あ、ザーメンも飲むよ。っていうか今飲ませて」 「君には全部揃ってる…」  ぼそぼそと桐島は呟いた。でもちゃんと聞こえた。桐島の声は綺麗だな。達央よりほんのちょっと高い気がするけれど僕よりは低いんじゃないかな。喋り方が落ち着いてるし品が良いよ。 「うん。イケてる顔、キレる頭、よく喋るお口、唯一無二のセンス、華麗なるスタイルでやってますからね、僕。当然。ってゆーか今更?」 「それなのにどうして…俺に構う?俺が佐伯のことが好きだからか?俺が佐伯を傷付けたからか?」  なんで達央のこと好きとかはっきり言うの。恥じらってよ。嘘でも隠してよ。何素直に言ってるの。僕にじゃなくて達央に言うことじゃないの。本当に桐島って気に入らない。 「君には趣味の合う友人が沢山いて、華やかな恋人も優しい親友だっている。俺なんかに構っていたって何も面白いことなんか…っ」  桐島って本当に本当に本当につまらない!嫌い! 「そうだよ!何も面白くない!根暗で陰気で捻くれててさ!桐島ってホントつまらないよね!だからカラダでくらい僕を愉しませてよって言ってんの。面白くなりたきゃさっきみたいに素直に達央にコクって爆死するくらいしてよ」  桐島は俯いたまま震える。ちんこ触る気分じゃないし多分桐島だって射精する気分じゃない。怒鳴りつけたくなったけれど怒鳴る言葉が出てこなかった。 「好きにしてくれ……俺は佐伯には告白しない。出来るわけないだろう。何をしたか、聞いたんだろ…」  よろよろ立ち上がって、桐島は壁に寄り掛かるとシャツのボタンを外し始めた。でも手が震えてる。震えてばっかりだな。緊張感も隠せないくせによくやるよな。 「好きにしていいの?じゃあ僕のモノになってよ。セフレでもカノジョでも友達でもないからね、勘違いしないでね。あくまで僕のモノ」  ボタンを外していく冷たい手を止めた。誘うのヘタ過ぎ。 「…っ君なら望むものは全部手に入るだろう?どうして放っておいてくれない…俺なんか、君にとっ…」 「黙ってよ。今から僕のぬいぐるみなんだから、ぬいぐるみは無駄口叩かないで」  僕は桐島の細い腰を抱いた。小さな尻揉み放題じゃん、あんまり尻揉む習慣ないけれど。等身大の着せ替え人形みたいだ。服とかズボンとかベルトとか髪も直して何しようか迷った。肩を抱いたまま歩いても桐島はちゃんと付いてきてくれる。何しようかな。まずはアイスを食べる。腹減ったよ、何も食べてないもん。アイス半分こしよな。バニラかな、チョコかな、イチゴかな。僕は一目も憚らずに桐島の頬っぺたとか首とか耳に夢中にチッスしてた。新しいおもちゃが嬉しくて。いい匂いもした。持って帰りたいな。売店でアイスを選んで、桐島にバニラとチョコとイチゴどれがいいか訊いたのに答えてくれなかったからバニラにした。桐島のおっぱい味。売店前にある休憩スペースに座って袋を剥いた。隣に座っちゃうんだ、対面じゃないの、こういう場合。でも僕が手を放してなかったからだ。 「食べなよ、真樹ちゃん」  ぽてっとしてる唇にアイス近付けた。桐島はびっくりして首ごと引いちゃってた。 「嫌いなん?」  アレルギーとか?僕の弟もなんかめちゃくちゃアレルギーあるんだよな。全部親の手作り。ついでに僕の食べる分も手作りになるからなんか、親の愛情なんだか責任なんだか分からないけど、冷凍食品とかインスタントラーメンとかもあんまり食べたことなかったんだよな。愛情弁当とかバカにされてるきがしたけれども冷凍食品だってチンして弁当詰めるのに親は早起きで、大体愛情弁当じゃないの、知らないけれども。全部手作りの弁当食えてた人間の暴論かね。 「食べたこと、ない…」  桐島は躊躇いがちに言った。もしかして桐島もアレルギー持ちの家族いるのかな。 「んじゃ食べてみなよ」  桐島はちょっと困った顔をしてたけれど「アイス溶けちゃうよ」って言ったらおそるおそるアイス齧った。アイス童貞奪っちゃった。ぽってぽての唇がもぐもぐ動いた。白くなってるの、僕が持ってるバニラアイスよりもっと甘そうだった。本当に桐島のおっぱいみたい。 「美味し?」  僕は桐島の齧ったところと反対側を齧った。桐島はこくこく頷いた。 「んじゃもっと食べたらいいよ」  またバニラアイスを出すと遠慮がちに桐島は首を伸ばした。代わりばんこにバニラアイスを齧っていく。ゴミ箱に棒とか入れ物捨てて戻ってきたらちょっと寒そうにしてたからパーカー掛けた。僕の服羽織ってるの結構グッとくる。カレシャツじゃん、カレパーカー。 「アイス初心者は困るね」  僕が着てたものなのに桐島が羽織ると全然違う物に見えた。肋骨がワニが横から食べるみたいにぱかって開いて桐島を捕まえてそのまま胸に戻っていくみたいなイメージが湧いて、何もしてないのに肋骨が飛び出ることなんかなくて、桐島を抱き締める。嗅ぎ慣れた洗剤と桐島のいい匂いがする。アイス食べたのにすぐ暑くなる。 「成瀬」  桐島は財布出し始めて、アイスを半額払うとか言い出した。飼猫は飼主に食費渡さないし、着せ替え人形もテディベアも持ち主にアクセサリー代払わないって言い包めた。おちおちアイスも食ってらんないじゃん。半額もらうべきなの?カノジョとは付き合うまでは割り勘だけれども桐島とは別に付き合ってないし!っていうか桐島と付き合うとかないんだよ。ぬいぐるみなんだから。じゃあやっぱりぬいぐるみは持ち主にアクセサリー代とか払わないんだよな。桐島からパーカー返されて外はもう真っ暗だったから一緒に駅まで帰った。さっきぬいぐるみ宣言してくれたのにすぐお別れとかつまらないもんな。改札で別れて桐島は振り向かない。痴漢されたりしないよな?慣れないアイス食って風邪ひいたりしないよな?この時間帯のバスは混んでいたから駅に着くまでは僕があの小さな尻揉まれないように守ってた。僕のあの可愛い尻が他の奴等に揉まれまくって肥大化したら嫌なんだけれども。とはいえ僕のケツが後ろのやつの鞄が当たって2つとか3つくらいに割れた。嘘だけど。桐島腹壊しちゃったらどうしよう。明日もアイス食わしたらどんな顔するんだろう。チョコ味の美味しさに気付かせるのは罪かな。でも桐島は痩せっぽちだからもうちょっとくらい(デブ)ったほうがいい。桐島のことばっかり考えてたら電光掲示板で僕の乗るやつがもう間に合わないことを知った。桐島のいい匂いはキツくないのに僕のパーカーからぷんぷん桐島の匂いがしてる感じがして身が引き締まる。我慢できなくなって自分の腋臭気にする人みたいにずっと自分のパーカー嗅いじゃった。桐島の匂いがするような気もしたし、しない気もしたし。鼻詰まりみたいに鼻の穴に生桐島から嗅ぎまくった桐島の匂いがこびりついてることだけは確かだった。  達央にはどう説明しよう。達央も桐島に対しては友好的な態度を崩すつもりないみたいだしありのまま話せばいいかな、とか、あくまで僕のお人形なんだから気にせず達央の元に持って行ってもいいよな、とかあれこれ理屈を捏ねてああじゃないこうじゃないとシミュレートして電車に揺られた。 ◇  達央になんて説明しようか全然思い浮かばなくて桐島のちょっと固い掌を退屈しのぎに揉んだ。そろそろ達央が来る時間だ。達央に会うのがちょっと気が重いなんて初めてだ。ぬいぐるみに相談してみようかな?風邪引いてなくてよかった。薄っぺらい腹冷えて下しちゃいなかってちょっと夜寝るまで心配だった。クシって可愛く桐島はいきなりくしゃみして、寒いのかと思って僕はパーカー開いて中に入れてあげようと思ったけど布全然足らなかったから僕が纏わりついて温かくしてあげた。いい匂いがする。桐島を枕にして寝ちゃいたい。でも桐島みたいなガリ勉の大学は将来に活かすところなんて本気で思っちゃってるタイプのやつは病欠忌引き以外休むなんてダメなんだろうな。何度かサボらせたの悪かったな。プリント写す友達いるのかな。いなそう。行けなかったやつ聞いて誰かから写メもらおうかな。ちょっと寝てたかも知れないくらい前後の記憶が曖昧になった。桐島の匂いは眠くなる。 「成瀬」 「重かった?」 「いや…」 「行こっか、講義。達央もそろそろ来るし」  第一講義から来てるなんて本当に真面目だよ、桐島も達央も。しかも桐島はめちゃくちゃ余裕持って来るんだもんな。読書でもしてんのかな。桐島の冷たい手を取って立ち上がらせる。芝生に座り込んで、ファンシーなやつ。2人だけの秘密基地みたいだ。僕より背が高いくせに軽い身体が僕の力で立ち上がって、僕の力で歩き始める。達央にはどうしようかまだ決まってない。でも桐島の手を放しすとか嫌だ。ちゃんと言おう。一番達央の優しさとか器の大きさに助けられてるのは結局のところ僕なんだよな。絶対乗ってきて自分のこと好きとか言ってくる好きじゃないやつなんて傍に居て欲しくないもん。なのに友達でいたいだなんて、達央こそ廃れた現世に舞い降りた英傑だと思うな。英雄だよ。僕はああいうふうにはなれない。だから僕の度量ででしか物を語れない。そのために僕は達央に、桐島をぬいぐるみみたいに放したくないんだよってことが言えない。僕は達央に自分を重ねることこそ烏滸がましくて仕方ないっていうのに、僕が達央の立場だったら、なんて都合の良い言い換えをしてみて、やっと僕だったら顔も見たくない、友達になんかなれないって言える。達央が何考えてるか分からない。過激なことじゃないのは確かだけれども、もしかして僕と付き合いたいみたいなこと言い出したのも本当は桐島と居させて、ゆくゆくは僕を通して桐島を達央に付き合わせるのが嫌で言ったのかな。親友でも分からないことは沢山だよ。達央がちんこ舐めてきたのだって僕は思い出すたびにちょっと息苦しくなる。だって僕は達央のご立派なモノ舐められない。いつの間にか溜息吐いてたみたいで桐島が僕を見てた。なんでもないよ、ってチュウしてやった。柔らか過ぎてチュウなんて可愛いものじゃ済まなくなりそうで、本当に僕のぬいぐるみになったらしくて桐島は嫌がらないものだから、仕掛けた僕から桐島を離させた。いい匂いがするし唇柔らかいし頭おかしくなるよ。 「ごめんね、真樹ちゃん。ここで別れよ」  決断しなきゃだった。僕は大講義室の前で向かい合って、でも名残惜しくて桐島をべたべた触った。桐島は僕を見下ろすだけだった。それが軽蔑なのか諦めなのか虚無なのか分からないけれどどっちでもいい。僕が桐島をべたべた触れてるってだけで。もっといっぱい手垢付けたいな。 「じゃ、また会いに行くから」  どこかしらまだ桐島に触っていたくて、周りに僕は桐島を手に入れたんだよってアピールしたくて背伸びして頬っぺたにチュウした。桐島は何も言わなかった。僕は達央の姿を窓から見つけてダメ犬よろしくキャンキャン鳴きながら達央に近付いた。達央は爽やかに笑いかけてくれる。昨日のことは忘れるのが吉。僕が危なっかしいことしたからいけない。 「おはよう、礼斗」  僕の肩を抱いて、腕を滑って、達央の温かい手が僕の手を握った。変だよ、達央。今までこんなことなかったよ。あったかな?忘れちゃった。僕が達央のことを意識しまくってるの? 「タっち、機嫌良いじゃん」 「礼斗に会えたから。嫌われたかと思った」  なんで?って訊きたかった。でも達央の口から卑猥な単語聞きたくないから敢えて訊かなかった。あと達央が僕のちんこ舐めたことは僕だけが知ってればいいことで、達央の中に自覚があるの嫌。ザーメン飲まれるのってめちゃくちゃ恥ずかしいんじゃん。言ってよ、桐島~。 「嫌うわけないじゃ~ん。な?親友だろ?」  僕は本気でそう思って、だから口にしたのに白々しく感じた。達央は本当に親友だよ。だから達央のご立派なもの舐められない。達央の中のルールは分からないから、達央の中では親友のちんこ舐められるのかも知らないけれど。 「礼斗」 「さ、さ、行こ行こ」  自然を装って手を振り解く。それが達央を傷付けそうで怖かった。自然を装うなんて出来るわけない。外れた手が落ちる前に手首を掴み直して大講義室まで引いていった。
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