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新入社員(4)

くくくっ、という微かな声に振り返ると、部長が俺の方を見ていた。 視線が合った瞬間、バチッと火花が散ったのが見えた…ような…気がした。 えっ!?今の…何だったんだろう… 口元を押さえた部長の肩が震えている。 笑われてる? 何かおかしいことしたかな… 思い当たることもなく不安に思いながら、首を傾げ目をパチパチしてると、部長は“早く行け”とばかりに顎をくいっとパーテーションの方へ指した。 「わっかばやしくーん!」 その声にハッとして一礼すると、寺橋係長の待つ席へ向かう。 心臓が…ドキドキしている。 「さ、座って…若林君、暖房効き過ぎてる?」 「えっ、いえ、大丈夫ですっ。」 「そう?何か耳赤いけど…大丈夫?」 「すっ、すみませんっ!緊張し過ぎて体温上がってるみたいですっ。」 「ははっ!そんな緊張しなくってもいいからね。 じゃあ、まず、これは館内の見取り図。 説明会の時にも貰ってるよね? 俺達がよく出入りするのは、こことここ。 書類のやり取りがあるからね、どうしても日に何度も行かなきゃならないんだ。 さて、と…館内を簡単に案内するよ。 取り敢えず覚えるのは、トイレと社員食堂の場所だね。」 寺橋係長はふわりと微笑むと、それから暫く業務の内容や流れについて丁寧に説明してくれた。 一通りのレクチャーが終わると、俺を促して席を立った。 さっきのように係長の後をついて行く。 すれ違いざまにチラリと部長の顔を盗み見ると、難しい顔をして書類とにらめっこをしていた。 うわぁ…カッコいい… 正に“仕事ができる男”って感じだ。 俺も何年かしたら、あんな風になれるのかなぁ… それにしても、さっき見た火花みたいなものは何だったんだろう… 首を捻りながら、遅れまいと小走りで係長の後を追った。

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