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卵焼きと指輪と部長(1)

入社して1週間…金魚のフンのようにぴったりと係長の後を追うようについて行くのにも、少しずつ慣れてきた。(かなり笑われていたことを後から知った) 部内の人間関係、というかパワーバランスも見えてきた。 仕事が押して、いつもの時間よりもかなり遅くなったランチタイムに、係長と連れ立って食堂に足を運んだ。 流石にピークを過ぎて人影はまばらで、いつもお局様たちに占領されている窓側の席に堂々と座った。 係長は、そっと藍色のお弁当包みを取り出し蓋を開けた。 色味も鮮やかで見た目も食欲をそそる。 今日のおかずも美味しそうだ。 ずっと思ってたんだけど…思い切って聞いてみた。 「係長、それって奥様の手作りですか? その肉巻き、すっごく美味しそうです! 俺、レシピ教えて欲しいんですけど!」 係長は、少し驚いたような表情をしたが、ふっと笑って言った。 「違うよ。今日は俺が作ったんだよ。 レシピ?そんなもんないけど、教えてやるよ。 なんだ、若林君、君も自分で作ってんの?」 「えっ、係長ご自身で!?凄い!ホントですか!? ひょっとして奥様のも? 俺も一応作ってるんですけど、ワンパターンになっちゃって…あっ、教えて欲しいです!」 「若林君…その『奥様』っての微妙に違うからちょっと止めて…」 ん? 『』ってどういう意味なんだろう… その時 「ここ、空いてるか?」 部長! 「ええ、どうぞ。 部長、今日はA定食なんですね。生姜焼きか…うちも今夜はそれにしようかな。」 「寺橋が作るのか?それとも」 「あ、今日は俺ですよ。アイツは会議で遅いらしいので。」 へえーっ…会議に出るほどバリバリのキャリアウーマンなんだ…そりゃあ家のことは出来る方がするって感じなんだろうな。

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