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卵焼きと指輪と部長(4)
そして迎えた土曜日。
俺は前日に色々と材料を買い込み簡単なレシピも作って、約束の時間を待っていた。
「エプロンも待ったし、忘れ物は…ない、っと。
…もうすぐ10時だな…」
ジャスト10時に玄関のベルが鳴った。
凄い…時間ぴったりだ!
「はいっ!」
慌てて鍵を開けると…そこには、パーカーにジーンズのラフな格好の部長が立っていた。
うわぁ…私服もカッコいい…
「おはよう。休みに申し訳なかったな。」
「おはようございます!こちらこそわざわざ迎えに来ていただいて申し訳ありません。」
「こちらこそだ。何か持って行く物はあるか?」
「あ、これです!」
「何だ、卵焼き一つに随分と…」
「差し出がましいとは思ったのですが、その他にも簡単にできる料理を…と思いまして。
奥様に覚えていただければ、楽しみが増えますよ!」
「いや、あの…まぁ、とにかくこれを持っていけばいいんだな?」
何だか微妙な空気を醸し出す部長に、やっぱり差し出がましかったのか、と反省しつつも、荷物と共に部長の車に乗り込んだ。
「部長、お車お好きなんですか?」
「ん?分かるか?」
「ええ。だってこれ、限定販売のフルオーダーですよね?」
「おっ、若林も詳しいのか?」
「はい。私もいつかこんな車を乗れるようになりたいと思ってますから。
憧れの車なんです。やっぱりカッコいいですね。
(呼び捨てにされた!何か嬉しい…)」
「そうだろ?イケてるよな、この車。
俺も念願叶ってやっと手に入れたんだ。」
「えっ、部長がですか?“やっと”だなんて…」
「当たり前じゃないか。俺のこと一体何だと思ってるんだ?」
「えー…欲しい物は何でも手に入るイケメンスパダリ…」
信号で停車した瞬間、部長が大笑いした。
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