8 / 280

卵焼きと指輪と部長(4)

そして迎えた土曜日。 俺は前日に色々と材料を買い込み簡単なレシピも作って、約束の時間を待っていた。 「エプロンも待ったし、忘れ物は…ない、っと。 …もうすぐ10時だな…」 ジャスト10時に玄関のベルが鳴った。 凄い…時間ぴったりだ! 「はいっ!」 慌てて鍵を開けると…そこには、パーカーにジーンズのラフな格好の部長が立っていた。 うわぁ…私服もカッコいい… 「おはよう。休みに申し訳なかったな。」 「おはようございます!こちらこそわざわざ迎えに来ていただいて申し訳ありません。」 「こちらこそだ。何か持って行く物はあるか?」 「あ、これです!」 「何だ、卵焼き一つに随分と…」 「差し出がましいとは思ったのですが、その他にも簡単にできる料理を…と思いまして。 奥様に覚えていただければ、楽しみが増えますよ!」 「いや、あの…まぁ、とにかくこれを持っていけばいいんだな?」 何だか微妙な空気を醸し出す部長に、やっぱり差し出がましかったのか、と反省しつつも、荷物と共に部長の車に乗り込んだ。 「部長、お車お好きなんですか?」 「ん?分かるか?」 「ええ。だってこれ、限定販売のフルオーダーですよね?」 「おっ、若林も詳しいのか?」 「はい。私もいつかこんな車を乗れるようになりたいと思ってますから。 憧れの車なんです。やっぱりカッコいいですね。 (呼び捨てにされた!何か嬉しい…)」 「そうだろ?イケてるよな、この車。 俺も念願叶ってやっと手に入れたんだ。」 「えっ、部長がですか?“やっと”だなんて…」 「当たり前じゃないか。俺のこと一体何だと思ってるんだ?」 「えー…欲しい物は何でも手に入るイケメンスパダリ…」 信号で停車した瞬間、部長が大笑いした。

ともだちにシェアしよう!