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卵焼きと指輪と部長(9)
その後の部長は終始ご機嫌だった。
ひょっとして…卵焼きは口実で、弁当を作ってもらうために呼んだのかもしれない、と思うようにもなっていた。
そうこうしている間に、食事の準備が整った。
炊飯器のタイマーも炊き上がりを告げた。
辛うじて…炊飯器があったのは奇跡だった…もしなかったら、鍋で火加減を見ながら炊かなければならないところだった…セーフ。
メインの卵焼きをドーンと真ん中に、ほかほかと湯気の立つご飯をよそって目の前に置いた。
豚汁も和え物も、我ながら美味しそうにできた。
「できましたよ、どうぞお召し上がり下さい。」
「若林も一緒に…そこ座ってくれ。」
「私もいいんですか?」
「当たり前じゃないか。どうして俺一人で食べさせようとするんだ?」
あ…ちょっと拗ねてるっぽい。ギャップ萌え。
「ありがとうございます。では、遠慮なくいただきます。」
急いで自分の分もセットした。
部長はお預けの犬よろしく大人しく待ってくれていた。
「「いただきます!」」
…………………
部長、無言………味どうなんだろう…美味しくなかったのかなぁ…俺的にはすっごく美味しくできたと思うんだけど…
ちろちろと様子を伺いながら箸を動かしていた。
「…若林…」
「はいっ!」
「美味過ぎる…お代わりを頼む…」
「はいっ!」
良かったぁ!喜んでもらえてるっぽい!
俺はホッとしながらも、ウキウキとお代わりを用意しに席を立った。
さっきから、新婚さんのようなシチュエーションに、胸がドキドキしっ放しだ。
おい、俺はノーマルで女の子が好きなはずだろ?
部長が結婚してないと分かった途端に、なに女房気取りになってるんだ!?
その後片付けを済ませて、何かと上手に会話を繋げてくる部長の相手をしながら、結局夕方近くまで過ごしてしまい、後ろ髪を惹かれる思いをしながらも這々の体で暇乞いをしたのだった。
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