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歓迎会(5)

係長が青信号になるのを待ち兼ねて渡った向こう側の車道に、ウインカーをつけた車が見えた。 運転席…あれ?男性?奥さんじゃない!? その車に嬉しそうに走り寄った係長が助手席に乗り込むと、滑るように発車してあっという間に見えなくなってしまった。 「若林、どうした?」 「え…今の…」 「あぁ、迎えに来た寺橋のダンナだろ?」 「ダンナ!?え、でも、だって、男の人…」 「そうだよ。アイツのダンナ、営業2課の青崎。 アイツら結婚してるから。」 ちょっと待って。 係長は男。迎えにきた“ダンナさん”も男!? 「えーっと、あの、その」 「同性婚だ。社内では内緒にしてるけどな。」 「…はぁ…そうなんですか…」 「お前は口が固いだろうし、余計なことを言いそうにないから伝えた。 寺橋とは普通に接してやってくれ。 俺から聞いたから、と直接聞いてもいい。 …それともには偏見があるか?」 「いいえ大丈夫です…はい、分かりました。」 部長は俺の頭を撫でながら言った。 「よし、いい子だ。」 それが何故か嬉しくて、その感情が何かも分からないまま、部長にされるがままになっていた。 「よし、じゃあ俺達も帰るか。」 そう言ってすぐに捕まったタクシー(いや、何か恋人みたいにエスコートされて)に乗せられた。 俺の住所をスラスラと運転手に告げると 「今日の弁当、美味かった。これ、ありがとう。 若林に頼んで正解だった。」 「あ、お口に合ったなら良かったです。」 「全部俺の好物ばかりだった。 ひょっとしてお前、俺の個人情報でも調べたのか?」 揶揄われてるとは知りながら、ぼふっと全身が熱を帯びる。 「そっ、そんなっ!偶然ですっ、偶然!」 「はははっ…冗談だって…」 「部長…」 つい癖で、口元がアヒルのように尖っているのが自分でも分かった。

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