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動揺と肯定(2)

係長は俺の頭をそっと撫でながら 「顔色が悪い。 俺が変なこと言ったから…気持ちを乱してしまってごめんな。 上司命令だ。今日はこのまま早退しなさい。 急ぎの仕事もないし。 部長には俺から上手く伝えておくから。 今戻れば部長がいるんだが…荷物取りに戻れるか?無理そうなら持ってくるよ。」 “成人を超えた大人の男の頭を撫でる”という、本来子供を宥めるような係長の動きだったが、俺は何故か嫌だとは思わなかった。 それどころか安心するというのか、女の子に触られた時よりも心地いいとさえ思う自分がいた。 係長に…男性に触られて心地いいと思うなんて… 自分の気持ちに戸惑いながらも俺は迷っていた。 戻れば酷い顔を見せてしまう。 でも、今日もう一度部長の顔が見たい。 結局、後者の気持ちの方が勝ってしまった。 「…係長のせいではありません。私が公私混同して仕事にプライベートを持ち込んでしまっているから…ご迷惑を掛けて申し訳ありません… …部長には自分で早退させてほしいとお願いに行きます。」 「若林君、すまなかった。 調子に乗って公私混同したのは俺の方だ。 丁度疲れも出る頃だし…あまり思い詰めたりせずに、今日はゆっくり休むといい。 後で何か食べるものを届けるよ。」 「いえ!大丈夫です!お気になさらず……体調が悪いわけではありませんから… でも、申し訳ありませんが、やっぱりお言葉に甘えて早退させていただいてよろしいでしょうか?」 「ああ、構わないよ。 元はと言えば、俺のせいだからな…ひとりで帰れるか?」 「大丈夫ですっ!ご心配いただきありがとうございます。」 「…よし、じゃあ戻るとするか…」 係長はもう一度、俺の頭を優しく撫でてくれた。 きっと無意識であろうその行為を素直に受け止める俺は、もう自分の性癖ともいうべきものを肯定するしかなかった。

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