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動揺と肯定(4)
別に熱がある訳でもない。
何処か身体が悪い訳でもない。
ただ単に…メンタルがやられて、それが身体に影響しているだけだ。
スーパーに寄って何か見繕って帰ろう…と、玄関を出ようとしたその時
「若林っ!!!」
えっ、この声…振り向くと、息を切らした部長が駆け寄ってきた。
「部長…」
はあっ、はあっ、はあっ
………まさか、階段で?
「…はあっ…追い付いた…良かった…送って行くから駐車場まで来てくれ。流石に玄関はマズいから。」
「えっ、一人で帰れるので大丈夫ですっ!」
「駄目だ。そんな顔した部下を放り出すなんてできない。
いいから、早く行くぞ。」
NOと言えそうにない眼力で見つめられ仕方なく頷くと、部長は微笑んでもう一度大きく息を吐いて、くるりと踵を返し歩き出した。
大きながっしりとした背中を見つめながら、俺は
(“部下”なら誰にでもこうするんだな)とか
(二人っきりなんて…嬉しい)とか
相反する気持ちを持て余していた。
「さ、乗って。」
エスコートされる女性のように助手席のドアを開けられ、素直に乗り込んだ。
車は滑るように走り出し、部長は真っ直ぐ前を向いたまま謝罪してきた。
「具合が悪いのに気付いてやれなくてすまなかった。
明日は一日ゆっくり休んでくれ。
寺橋がもう休暇申請をしてくれてるから。
…俺も無茶を言い過ぎたな…すまない。」
「そんな!部長のせいではありません!
謝らないで下さい!
自己管理ができてない自分が悪いんです!」
と大慌てで否定した。
「気配りもできて、仕事も丁寧で早いのをいいことにハードワークさせた上に、お前の優しさに甘えて公私混同し過ぎたな…悪かった。」
「そんなことないです!
仕事は、係長が私の理解度に応じて回して下さってますし…あの…お弁当については、あの…私も楽しみに作らせてもらってますので、全然負担じゃないんですっ!」
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