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動揺と肯定(5)
俺は必死だった。
部長のために、少しでも栄養があって美味しいものを食べてもらいたい、という俺の思いが詰まった弁当。
思いを寄せる相手の食べる物を用意できるなんて、ラッキー以外の何でもない。
このままだと、そのラッキーがなくなってしまう!
思わず叫んでいた。
「負担だなんて思ったことありません!
わっ、私は、部長だけのために作りたいんですっ!」
キキーーーッ!
「うわあーーーっ!!」
急ブレーキとともに、車が路肩に停まった。
「大丈夫かっ!?」
「…はい…吃驚したけど…大丈夫です…」
「悪い…俺も吃驚した………若林。」
「はい。」
「“俺だけのため”ってどういう意味だ?」
血の気が引いた。
部長は無表情で俺をじっと見つめている。
何てことを口走ってしまったのか。
どうしよう。
気持ち悪いと言われたら?解雇?
心の声が漏れてしまった…どうやって言い訳しよう。
どうしよう。
どう言えば取り繕えるのか。
どうしよう。
答えの出ないまま、頭の中をぐるぐると『どうしよう』が渦巻いている。
「若林…」
「…は、はいっ。」
「ひょっとして…『俺に好意を持っている』…そう受け取っていいのか?」
ヤバい
マズい
サァーっと血の気が引いていくのが分かった。
手先が色を失って冷たくなっていく。
大きく見開いた目に映る視界がボヤけてきた。
部長の顔がぐにゃりとへしゃげて見える。
つ…っと、頬を冷たいものが流れて行くのを感じた。
駄目だ。
何か言わなきゃ。
でも言葉が出てこない。
黙ってる上に泣いたら、それこそ肯定してるのと同じだ!
「すっ…すみませんっ!」
振り絞るように声を出して、シートベルトを外して車内から逃げ出そうとした。
…が
右腕を取られ、
気が付くと、部長に抱きしめられていた。
ふえっ!?
鼻先に纏わり付くフレグランス。
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