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動揺と肯定(6)
ドキドキドキドキ
ドックドックドック
脈打つ心臓が飛び出しそうに跳ねている。
あれ?リズムが違う…不整脈??
いや、違う。部長のだ!部長の心臓も俺に聞こえるくらいに跳ねていた。
その2つの音が重なり合っていたのだった。
部長は俺を抱きしめたまま動かない。
俺は、その腕を振り解こうとか、逃げ出そうなんてこと、全く思わなかった。
寧ろ、このままでいたい、ずっと抱きしめてほしいと思いながら、大好きな匂いに包まれていた。
うっとりと身を委ねていたその時、ハッと正気に戻った。
「ぶっ、部長…」
「何だ。」
「あの…その…えっと………好き、です?」
頭がぐちゃぐちゃになって、語尾が上がった。
部長は俺から少し身体を離し微笑むと、そっと口付けを落とし、獲物を捕らえた肉食獣のような目で見つめてきた。
「…若林、俺のマンションに行くぞ。」
キス…されちゃった…
俺はもう、こくこくと頷くのが精一杯で…
部長は、もう一度俺のシートベルトを締めると、俺の頭を優しく撫でた。
そしてウィンカーを上げ、タイヤを軋ませながら車を走らせた。
もう、何が何だか分からない。
一体どうなっているのか。
俺…告白、しちゃったんだよね?
俺の告白に、部長が応えてくれた?
はっきりと『好きだ』って言われた訳じゃないけど。
抱きしめられてキスって…そう思ってもいいのか?
何で部長のマンションに向かってるんだろう。
一体どんな顔して部長を見ればいいんだろう。
あぁ…恥ずかし過ぎる、消えてなくなりたい…
ちろん、と横目で部長を見ると、その横顔も耳も、真っ赤になっていた。
あっ…
部長も、部長も俺のことを…
そう思ったら、また涙で目の前の風景がボヤけて見えた。
目尻に溜まる涙をそっと拭い取り平静を装うものの、跳ね続ける鼓動を止めることができなかった。
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