43 / 280

思いを告げる(1)

駐車区画に少し乱暴な停め方をした部長は、ゆっくりとシートベルトを外した。 そして、身体を捻り俺の方へグッと近寄ってきた。 ふわりと香るフレグランスにすら犯されそうだ。 強い目力の瞳に吸い込まれそうになる。 吐息が…触れる… 「若林。」 「は、はいっ。」 「…今日は…帰さないから。」 緊張したような、掠れた声音でそんなことを言われたら… 俺の、ごくっ、と唾を飲み込む音が響いた。 言ってる意味は…なんだな… 俺は無言で部長を見つめていた。 『はい』と言えばいいのか『いいえ』と言えばいいのか、もう、分からない。 ただ、黙って潤む目で見つめ続ける。 ――俺は、この(ひと)が、好きだ―― 「…部長…」 「行くぞ。」 するりと運転席を抜け出し、助手席のドアを開けた部長は、俺のシートベルトを外すとエスコートするように手を取って腰を抱き、車から降ろした。 俺は抵抗することもなく、部長のなすがままに抱き寄せられてエントランスへ連れて行かれる。 誰かとすれ違ったら、とか、受付の管理員に見られたら、とかいう考えが一瞬頭を掠めたが、あまりにも堂々と俺を抱き寄せて歩く部長に圧倒されて、エレベーターに乗り込んだ。 幸いなことに、誰とも会わなかった。 ほおっ…と大きく息を吐いて目を閉じた。 現実なのか、夢なのか… 俺は今何処にいて、誰と一緒にいるのか。 確かなのは俺を包むフレグランスと、俺を抱く逞しい身体から伝わる温もり。 上昇する箱と同じに、俺の心拍数もますます上がってくる。 部長の腕は俺の腰に纏わり付いたままだ。 ちら…と見上げると、視線が合った。 俺をずっと見つめていたのか… 恥ずかしくて、顔が火照っていくのが分かる。 それでも視線を外せない。

ともだちにシェアしよう!