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一目惚れ:side赤石(1)

うちの会社はまず履歴書で選考する。 大手の人気企業とあって応募者が殺到するため、社長の 『字は体を表す、と言うからな。 ヘタクソでも心のこもったやる気のある字体は分かるもんだよ。』 という独断で、第一次は書類選考となっている。 それだけでは上っ面だけ上手い奴が残るか、というと割とそうでもない。 毎年、結構な確率で当たりの社員が大勢入ってくるので、誰も社長に文句を言わなくなっていた。 「おい、この字は根性ありそうじゃないか?」 「写真は大人しそうだけど…こりゃあ陰で苛めるタイプだな。パス。」 「TOEIC889!?この子うちに!」 今年も社長と各部署の長が集まって大騒ぎだ。 俺は…手に取ったある履歴書をガン見していた。 それを見た瞬間から、年甲斐もなく恋に落ちていた。 貼られた写真には俺好みの“どストライク”な顔。 性格が滲み出るような丁寧な筆跡。 持っている資格も申し分ない。 「すみません!この子、うちに貰います! 人事にピッタリです! 寺橋の下につかせて、きっちり育てます。」 「うわぁー出たよ、赤石のヘッドハンティング! ちょっと待って!その子、経理に欲しいな…」 「あげませんよ!うちに決定です!」 「ええーーっ!横暴!パワハラ!」 「何とでもどうぞ。早いもん勝ちだ、悪いな。」 経理部長の飯島を無視して履歴書をキープした。 背後でぶつぶつ言っていたが、コイツは俺に逆らえない。 そうだよな? だってお前の浮気の証拠、バッチリ握ってるもんな、俺。 録音データも画像も、ちゃーんと残してるぞ。 社内でヤるからだよ、馬鹿野郎。 改めて写真を見る。 まるでバンビのようなクリクリの大きな目。 真っ直ぐに俺を射るその瞳に、やられた。 薄い唇は、しっかりした意志を持ち真一文字に結ばれている。

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