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一目惚れ:side赤石(7)
面接は五十音順。
彼は“わ行”だから1番最後だ。
…今年は小粒ながらも中々の人材が集まっている。
特に、既に営業がゲットしている池本君は、ガッツがあって即戦力になりそうだ。
取引先にもかわいがられるタイプだな。
OK。合格。
営業の浜本もホクホク顔だ。
彼の面接が終わった途端、親指立てやがった。
…そんな感じで、逸 る気持ちを押さえ、平常心で次々と面接していき…
遂に、遂にこの時を迎えた。
「失礼致します。若林弘毅です。
よろしくお願い致します。」
あぁ…思い焦がれた本物だ!想像以上にかわいいっ!
“キュート”という言葉がしっくりくる。
理想の恋人が目の前に…
耳に心地よく響くテノール…抱きしめたら折れそうな細腰…サラサラの髪の毛は天使の輪ができていた。
そして何よりも、そのかわいさを覆すような凛とした目の輝き…俺は食い入るように見つめていた。
(…後に、寺橋経由で聞くところによると『シブい強面のイケメンに眼光鋭く睨まれていた』とのことだった…そんなつもりはなかったのだが…)
おっと…呆けている場合じゃない。
俺だって『デキる上司』を演出しなければ。
堂々と淀みなく、練りに練った質問を与えていく。
履歴書に書かれた筆跡通りの几帳面らしさが滲み出る受け答え。
どちらかというと、グイグイ前に出ていく感じではない。
後ろに控えて全体を見ながら、自分のポジションを確認してフォローできるタイプだ。
俺達の業務内容にぴったりの人材。
この時程、人事にいて良かった、と思ったことはない。
「はい、以上で面接は終了です。
本日はお越しいただきありがとうございました。」
「はいっ!こちらこそお時間をいただき、ありがとうございました。
どうぞよろしくお願い致します。」
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