56 / 280
思いを告げる(14)
「……き、弘毅……」
また、顔中柔らかなモノに啄まれる感覚がする。
「ん…何…」
「弘毅、昼飯食べるぞ…(ちゅっ、ちゅっ)」
……ちゅっ?……パッと目が覚めた!
「ぶっ、部長っ!?うっ…痛っ…」
俺の呻き声に、達也さんは狼狽えている。
「弘毅っ、大丈夫かっ!?」
(一体誰のせいだと思ってんの?)
無言でじぃーーっと見つめると、バツが悪そうに頭を掻いた。
「…昼だから…出来合いの弁当で悪いけど…一緒に食べようと思って…あ、それ俺の」
「すみません!お借りしてますっ!
ありがとうございます!いただきます!」
お腹が空いていることに気付いた俺が笑顔を見せると、達也さんもやっと笑った。
ん?何か顔、真っ赤だぞ?
「どうする?ここで食べるか?」
「ダイニングに行きます!動けるから大丈夫です。」
よいしょ、と腰を庇いながら起き上がり、今朝より幾分良くなっていることに安堵して、達也さんが無理矢理出してくる手にすがり歩き出した。
「…明日も休んで」
「ダメですっ!こんなことで休むなんて!
部長、俺を甘やかし過ぎですっ!」
「…部長じゃなくて…」
「あっ…達也さん…」
お互いに真っ赤になっている。
照れながら完食して言葉の探り合いをしていると、時計を見た達也さんが立ち上がった。
「ヤバいっ!時間だっ!
弘毅、このままにしておいて!
夜も何か買ってくるから、いい子で待ってて…」
言うや否や、むちゅーっ、とキスされた。
唐揚げの味がする…
「行ってきます。」「行ってらっしゃい。」
達也さんは上着と鞄を引っ掴むと、ドスドス足音を立てながら行ってしまった。
しーーーーーん 静まり返る部屋。
昼休み、時間がないのにわざわざ帰ってきてくれたんだ…胸がじんとする。
温かく安らいだ気持ちになりほおっと息を吐いた。
ふとテーブルを見ると薬局のビニール袋が置いてあった。
「達也さん、忘れ物でもしたのかな…」
ともだちにシェアしよう!