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骨も牙も抜かれた獣:side赤石(5)
さっきまでの不機嫌さは何処へやら。
俺は通常運転で…いや、それよりも、無自覚にご機嫌なオーラを撒き散らしながら、定時になるのを待ち兼ねて誰よりも早く退社した。
「ねぇ…部長どうしたんだろう…」
「奥様と夫婦喧嘩でもしてたのかな?」
「きっとそうよ!」
「でもさ、係長と出て行ってから機嫌良くなって戻ってきたわよ。」
「同じラブラブカップル同士、相通ずるものがあって意気投合したんじゃない?」
「まぁ、とにかく…落ち着いたのなら良かったわ。あのままだと私達までピリピリしちゃうもん。」
「あんな部長初めて見ました!」
「あー…そうかも。珍しくダッシュで帰っちゃったし、奥様と仲直りするつもりなんじゃない?」
「業務に差し支える程、思われて…そんな風に愛されたーい!」
「そうねぇ。あー…いいなぁ…私も彼氏欲しいっ!」
「じゃあ、今度合コンしようか。ちょっと当てがあるのよ。」
「ホントですか!?行きますっ!参加しますっ!」
俺の退社後…女性陣が、わっと集まり姦しく騒ぎ立てていたことも知らず、車を飛ばしていた。
(翌日、黙ってこっそり聞いていた寺橋が面白そうに教えてくれた)
いつもの半分の時間で帰宅した俺は、駐車スペースに停めるのももどかしく車から飛び降り、駐車場からの入り口のドアをこじ開けるようにして開け、丁度1階で停まっていたエレベーターへ走り込んだ。
ふうっ…
上昇する時間すら勿体ない。
早く、早く弘毅に会いたくて焦っている。
俺らしくない、俺。
こんな俺、弘毅はどう思うだろうか。
ドアの前でもう一度深呼吸して、鍵をそっと回す。
ドアを開けた瞬間に、ふんわりといい匂いが漂ってきた。
「弘毅っ!」
靴を脱ぎ飛ばし、名前を呼びながら一直線にキッチンへ走って行った。
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