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骨も牙も抜かれた獣:side赤石(8)

初めての『あーん』に俺は舞い上がっていた。 餌付けするみたいで萌える。 半分に噛み切った弘毅は、茹で蛸みたいに顔を真っ赤にして咀嚼している。 「な、美味いだろ?」 残った半分をそのまま俺の口の中へ。 へっへっへ。間接キス。 顔がでろでろに崩れているのが、自分でも分かる。 「たっ、達也さんっ!」 「ん?何だ?美味いなぁ。弘毅は本当に料理が得意なんだな。」 「だって、それ全部出来合いですよ!?美味しいのは当たり前です。」 「それをこうやってアレンジしてくれたんだろ? 俺のために準備してくれてたことが嬉しい。 弘毅、ありがとう。 ましてや身体だって、昨夜(ゆうべ)俺が無茶させたから本調子ではないのに。」 「そんな…でも、喜んでくださったなら嬉しいです。 だから、身体はもう大丈夫ですって…」 俺が見つめていると、ぷしゅーーっ、と音がしそうなくらいに顔中真っ赤になった。 「達也さん…」 「何だ?」 「そんなに…見ないで下さい…」 「…萌える…うっ………ヤバい、勃ちそう…」 「えっ!?」 「いや、何でもない。さ、冷めないうちにいただこうか。」 俺は味わいながらも、3度お代わりをして全て平らげた。 「弘毅、ご馳走様。本当に美味かった。 ありがとう。」 弘毅はホッとした顔をして微笑むと『ゆっくり座ってろ』と俺が止めるのも聞かずに、後片付けもしてくれた。 そしてそれが終わると何故かスーツに着替え始めた。 「弘毅?何で着替えてるんだ?今晩泊まって行くだろ?」 「ふえっ!?いえ、そんな訳には」 「どうしてだ?恋人の家から出勤したって構わないじゃないか。 明日の弁当は作らなくてもいい。 一緒に社食にしよう、な!?な!?」 弘毅は遠慮して帰ろうとするが、俺だって必死だ。 帰すもんか。

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