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骨も牙も抜いた子猫:side弘毅(1)

……嘘みたいな話だが、部長が恋人になった。 何度も頬を抓って確認するが、地味に痛い。 夢かと思っていたけど、どうやら現実のようだ。 目の前に蕩けるような笑顔で、壮絶に色っぽいオーラがダダ漏れのイケメンが座ってコーヒーを飲んでいる。 じっと俺を見つめているもんだから、身の置き所がなくて、何だかお尻がムズムズと落ち着かない。 視姦されているみたいで、お腹の奥がきゅうんと疼いてしまう。 「…あの…達也さん…」 「何だ?」 「そんなに見つめられたら…俺…落ち着きません!」 「…そんなに見てたか?」 「え…自覚ないんですか!?…じゃあ、いいです。 お気になさらずに。 電車に間に合わなくなるので…片付けたら出ます。ご馳走様でした!ちゃんとパン代請求して下さいね。」 「お金はいらないよ。逆に俺が昨日の分を渡さなきゃならないくらいだ。 …ちょっと待て、弘毅。電車ってどういうことだ?」 「いつもの時間に行きたいので…あっ、間に合わなくなる! 達也さん、カップ洗っていいですか?」 「だから、待てって! 俺と一緒に車で出勤するのに、どうして電車なんだ?」 「ふえっ!?一緒?それ、おかしくないですか? 部長と、入社間もないぺーぺーの俺が同じ車に乗って出勤だなんて! 皆んな、変だと思いますよ!?」 …段々と、達也さんの眉間にシワが寄ってきている…何だか不穏な空気に包まれて… 「弘毅…」 「はっ、はいっ!」 「俺はお前の何だ?」 「えっ…何だと言われても…」 「お互いに想いを寄せ合って、愛を確かめ合った俺達の関係は、何だ?」 「…えーっと…あの…その…」 口籠る俺に、達也さんがイラついている様が手に取るように分かる。 ヤバい。

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