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愛される小猫(5)

家族に納得してもらうにはどうしたらいいのか、俺なりに色々と考えた。 考えても考えても、答えは出なかった。 浮かんでくるのは、怒りと落胆と非難の顔、顔、顔…はあっ…自分の好きな人を認めてもらえそうもないという現実… 落ち込みそうになっては立ち直り、また落ち込んでは…の繰り返しで過ごした。 そして迎えた週末金曜の勤務も無事に終わった。 残っているのは部長と係長と俺の3人のみ。 何となくそわそわしている俺に、係長がこっそりと揶揄いの言葉を投げ掛けてくる。 「若林君、たっぷり甘えておいで〜」 「…係長に言われたくないです…」 「あははっ。そりゃそうだな。 クワバラ、クワバラ。じゃあねぇー!」 どうせ係長はラブラブの旦那様とイチャイチャの週末なんでしょ!? ひとりで腹を立てて、その後ろ姿にあっかんべーをした。 「…弘毅…」 「はっ、はいっ!」 「夕食は何処かで食べよう。帰りにお前の家に寄るから、泊まりの用意をしておいで。」 「部長…ここでは『若林』と呼んでいただかないと…」 「もう、2人っきりだ。遠慮はいらないだろ? さ、帰るぞ。」 「…はい…」 約束を(たが)えたことに不満を感じ、どうやら無意識にまた唇が尖っていたようだった。 むにっ 「んむむ!?」 「くくくっ…ほら、アヒル口。 そのかわいい顔は俺の部屋で見せてくれ。」 数度指で摘まれて気付く悪い癖。 社会人なんだからいい加減直さないと…恥ずかしさでいたたまれなくなった。 「今夜は何を食べようか。弘毅、何か食べたいものはないか?」 「簡単なもので良ければ何か作りましょうか? あ…でも部長のお家には調理器具が…」 「え、作ってくれるのか?じゃあ鍋や包丁も買おう! それとも…明日必要なものは全て揃えるとして、今夜は弘毅の家で食べてから俺の所に行くか…うん、それもいいな。どうだ?」 「俺はどちらでも…」

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