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愛される子猫(17)

気を取り直して、さっきマスターに教えてもらった達也さんの好物のひとつ、天ぷらそばを作った。 基本的に好き嫌いがなく何でも食べる人らしい。 「おっ、美味そうな匂いがする!嬉しいな。 味見してもいいか?」 「はい。お口に合うといいんですけど…」 かぼちゃを掴み、パクリと口の中へ…満足気に頷きながら咀嚼している。 「…美味い!もう待てないよ。」 子供のような物言いにくすくす笑いながら、大急ぎで支度した。 『待て』を言い付けられた大型犬よろしく、達也さんはお利口に待っていた。 いただきます、と満面の笑みで平らげていく達也さんを見ながら、俺はやはり彼の昔の恋愛話のことが気になっていた。 後で分かったことだが…… その時にはむくむくと自分の心に育ってくる嫌な感情ばかりに捉われて、達也さんがその時に言われのない理由でどれ程傷付いて落ち込んでいたのか、推し量ることができなかったのだ。 箸が止まっている俺に気付いた達也さんは、怪訝な顔をしながら 「弘毅どうした?本当に美味い!早く食べないと冷めちゃうぞ。」 「あっ、何でもないです! 味はどうだったか気になって…」 「美味いよ!本当に美味い。 俺の恋人はキュートで健気で優して料理が美味くて、オマケにちょっぴりエッチななんて最高だよ。」 「ちょっぴりエッ…もう、達也さんっ!」 「あははっ、さ、食べよう!」 美味しく仕上がり俺も満足して、2人で片付けも済ませた。 何故か達也さんがワクワクウズウズしている。 再三にわたる達也さんの『一緒にお風呂へ』のお誘いを学習済みの俺は固辞した。 達也さんは眉根を寄せて悲しそうな顔をしていたが…諦めたのか俺の頭を撫でて大人しく言うことを聞いてくれた。 ところが。 物分かりのいい紳士の仮面を被っていたのは、ベッドに入る寸前までだった。

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