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難敵来襲(14)
今夜からの数日間、弘毅と楽しく飯を食い酒を酌み交わし、随分と空いた年月を引き戻し埋めていこうと思っていたのに。
かちゃり
頭を抱えて座り込む俺の耳に、ドアが開く音が聞こえた。顔を上げると今にも溢れ落ちそうな涙を一杯に溜めた弘毅がいた。
胸がぎゅっと痛む。
「…大兄ちゃん…」
掠れた弱々しい声。
俺はお前にそんな顔をさせるために、ここに来たんじゃないんだ。
かわいい弘毅。一体何処で道を誤ったんだ!?
「弘毅、こっちにおいで。兄ちゃん、怒ってるんじゃないから。」
精一杯の優しい声で呼び掛けると、弘毅は少しホッとした顔をして、ゆっくりと近付いてきた。
俺と真向かいに反対のベッドにちんまりと腰掛けると
「本当に怒ってないの?」
と聞いてきた。
俺は頷くと
「怒ってるんじゃない。本当のことを知りたいだけだ。
まさかと思うが…俺の予想は外れてほしいんだけど…
お前、“部長”と同棲してるんだろ?」
真っ直ぐに俺を見つめる弘毅の目が、瞬く間に潤み、涙がつ――っ…と頬に零れ落ちた。
それからもう歯止めが効かないように、あとからあとから零れ落ちる。
透明なガラス玉のような目からひたすらに零れ落ちる涙は、頬を顎を伝いぽたりぽたりと雫となって落ちていく。
しゃくり上げもせず、声も出さず、ただ静かに涙を零す弘毅に、俺は慌てた。
「こっ、弘毅!兄ちゃん怒ってないって言っただろ?
な?泣き止め。な?大丈夫だから、な?」
何が大丈夫なのか分からない。
やっぱりそうか、そうなのか……
とにかく頭を撫で宥めすかして弘毅を泣き止ませた。
さーて…何から聞けばいいのか。
意を決して問い掛ける。
「…弘毅、いつからだ?どうしてそんなことに?まさか、付き合ってるんじゃ…」
弘毅は無言で頷いた。
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